義理の弟を溺愛したら結婚を迫られています!〜嬉しいけど他の人と幸せになってほしい姉心〜

ちろこ

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0.出会い

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「マルシェル」
いつも厳しい父は見たことのない緩んだ顔で言った。
「あの子は今からお前の弟だ。大切に扱いなさい」
私はそう言われて怪訝な顔で隣にいた少年を見た。
(何故捨て子を拾うなんて…父様の考えは本当に分からないわ)
そんなことを思いながら捨て子に近づき私は作り笑顔で少年に話しかけた。
「私はマルシェルと言うの、どうぞよろしくね」
汚らしくほんの少し臭い少年に私は不快に思うが仕方ない。父の決めたことだ。
「…………」
けれど少年は私の12歳の女性の中では最も綺麗なカーテシーに何も返してこず、私はほんの少し腹を立てる。
まぁ顔には絶対出さないが。
「すまないマルシェル、私はまだやらなければいけないことがあるのだ。この子を頼んでもいいだろうか?」
私はその言葉に稲妻が走る。
(こ、この子を私が!?父様が拾ってきたのに!!責任を持ちなさいよ!)
心の中でそう父を非難してからため息を吐き、私は「わかりました」と返した。
父が離れて行くのを眺めてから私はもう一度少年を観察する。
汚れた服に体、これは…私は扇子を自身の前に開きながら顔を歪めた。
「…そこのあなた、この子を洗ってきなさい」
私はそう近くにいたメイドに指示を出した。
この子はお風呂に入る必要がある、それも念入りに洗ってあげなければいけない。
私はそう思いながらメイドへと言ったのだが、
「い、嫌です…!」
明らかな拒絶を見せた少年にメイドは私に視線を送ってくる。
ため息を吐きたくなるが堪えて私は少年に問いた。
「ならば誰ならあなたへ触れてもいいの?」
「…あなたなら…」
きっと父の娘の私なら暴力だとかそんなものをしてこないと思っているのだろう、けれどメイドも信用ができる人間しかこの屋敷には存在していない。
「このメイドではいけないの?」
「…いやです…」
なんだか震えるこの子があまりにも可哀想に見えた。
「分かったわ、私が入れましょう。湯の準備を始めて。それまであなたは私と待っていましょうか」
私はそう言いながら少年を抱く。
やはり臭い。
けれどこの子は父に突然連れてこられたのだ。私は頭が痛くなるも彼を大切に抱き、大広間へと足を進めた。

その間も何も言わない少年に私はほんの少し困っていた。
私から話すことといえばなんだろうか。
あぁ、そうか、それがあった。なんて自分に言う。
「ねぇ、お名前はなんていうの?年は?」
私はそう聞きながらもしも分からなかったら私が付けてあげようなんて考える。
「……わ、ワイアット…」
ワイアットは戸惑ったようにこちらを見上げた。
見上げたと言っても長い髪のせいで表情は読み取れないけれど。
「年はご、5歳…、生まれた日はわからない…です。捨てられた時に母に年を言われて……」
ということはこの子は最近捨てられたのだろうか。父は本当に人間を犬だとでも勘違いしているのだろうか。
私の脳内には犬が入るような箱に入ったこの少年が泣いている様子が映る。
何故か同情してしまった私は優しく声をかけた。
「…そうなの。それは辛かったわね」
私がそう声をかけると少年は強張っていた体を緩めた。
私はそれに安堵しながら大広間にあるソファへと腰をかけた。ワイアットを座らせようとすると嫌だと首を振られたので私は膝の上に座らせたまま話を再開した。
「…それで?父があなたを攫ってきたのね?」
「ち、違う…違いますっ…、伯爵様は困っている僕を見て…」
「困っているのは父様なのよ…、」
私は最近父が言っていたことを思い出してそう声に漏らした。
「伯爵様が…?」
「えぇ、父は男の子が欲しかったの…女ではなく。けれど母はもう私を産んだ時に亡くなってしまったから…。再婚をすることもないし、そのせいで子供も出来ないから父は男の子供を探していたの。きっとそれであなたを助けたのよ…。だからね、あなたは父に感謝する必要はないの。私とあなたは父に利用されているだけなのだから」
5歳の少年には難しかっただろうか、そんなことを思うがワイアットは弱々しい声で私に言った。
「けど救ってもらったのは事実だから…」
私はその言葉についため息をこぼした。
ため息にビクリと体を揺らすワイアットに慌てて訂正をする。
「あなたが鬱陶しいからため息をしてしまったのではないの。ただあなたがとても優しい少年だったから…、父の代わりに私が謝罪するわ…本当にごめんなさい」
私はそう言いながら抱きしめていたワイアットに謝罪をする。そんな私を見てワイアットは首を横に振った。
「お嬢様」
お付きのメイドにそう言われて私は立ち上がった。
そうして風呂場へと着いた私は少年の服を脱がす。
されるがままになっている彼に私は嫌がられたらどうしようなんて思っていたからほっとした。
「さぁ、入りましょう」
私は自身のドレスをメイドに脱がせて下着を着けている状態へとする。
私はまだ風呂には入らないからこれでいい。
無言で私の手を握りついてくるワイアットに少し心をときめかせる。なんだろう、可愛らしく思える。
「さぁ…まずは髪を切りましょう」
私はそう言いながら少年の髪に手をかける。
震える少年を落ち着かせてから私は慎重にワイアットの長い髪に手をかけた。
「あら?」
前髪を切り落とした時、目の前にはなんだか可愛らしい顔が出てきたではないか。
私は少し戸惑ってから髪の毛をもう一度切り始めた。
「あなた…とても可愛い素顔を隠していたのね」
私はふふっと笑いながらそう言った。
「か、可愛い?」
「えぇ、けど隠していて良かったわ。そのお顔のせいで人攫いなんていうのに連れて行かれていたかも」
私の言葉にまた震え始める少年に私は慌てて言う。
「けど結局伯爵の父様に攫われてるんだもの!関係なかったわね…!?」
フォローなんてしたことのない私は慌てて下手くそなフォローをワイアットへとする。
ワイアットはそんな私を見て控えめに笑った。
なんだかそれが嬉しくて私はワイアットの体を洗いながら舞い上がりそうだった。
なんだろうか、最初はあんなに警戒されていたのに今はこうして素肌に触れられることが嬉しいのだろうか?
私はそんなことを考えながら黙々と体を洗い、頭を洗い…そして綺麗になったワイアットを見て笑顔を浮かべた。これは本心の笑顔だ。
「とても綺麗だわ。それに…」
ワイアットの頬に顔を近づけスンッと匂いを嗅いだ。
「とても良い匂い」
私はそう微笑んでからワイアットを抱きしめて風呂場を出る。
「お願いね」
そう言いながらメイド達に私のドレスをもう一度着せられる。そしてワイアットには父が用意した服を。
「あら、素敵じゃない。さすが父様ね」
私はそう言いながら綺麗な服に身を包んだワイアットを見て言った。
「とても似合っているわ」
私がそう言えばワイアットは嬉しそうに笑う。
私はそれも嬉しくて抱きしめたワイアットを自室へと連れて行った。
「誰も入らないように」
メイドへとそう吐いてから私はワイアットを大切に自身のベッドへと招き入れた。
「さぁ、髪を乾かしてあげる」
私が得意とする風魔法でワイアットの髪に風を送る。
「あたたかい…」
そう呟くワイアットに「そうでしょう?」と返してから柔らかくなった髪を撫でた。

「これで完成ね。えぇ…我ながらとても綺麗に出来たわ…」
ワイアットを見てそう私は呟いた。
汚らしく汚れていた髪は本来の輝きに戻って綺麗な銀色を出しているし、さっきはべたりと顔に張り付いていたのに今はふわふわと柔らかそうなつい撫でたくなる髪の毛をしている。
それに匂いも良い匂いに変わった。
私はその出来に満足しながらワイアットへと言った。
「それじゃあ、あなたの部屋に行きましょうか。もうメイドが準備し終わったと思うの」
私の言葉にワイアットは頷いた。
それを確認してから手を繋ぎワイアットの部屋へと向かう。
「ここがワイアットの部屋よ」
うちの屋敷の部屋でも大きな部屋をワイアットに与えた父の考えがやはり私の思い通りだったことを理解し、再度ワイアットへと申し訳ない気持ちが出てきてしまった。
「…ワイアット、気に入った?」
私がそう聞けば輝いた目でワイアットは微笑み頷いた。
「はい、とても!」
子供らしくはしゃぐワイアットに笑みを浮かべて私はベッド横にある椅子へと腰掛けた。
「ふふ、それなら良かったわね。…けれどもう寝る時間よ。ベッドへと入って」
私はワイアットへとそう指示を出す。
それを聞いたワイアットが楽しそうに笑いながらベッドへと潜り込んだ。
「さぁ顔を出して」
私は布団に潜っているワイアットへとそう声をかける。
楽しそうなワイアットが顔を赤くして布団から顔を出した。
「おやすみなさい」
私はそう言いながらワイアットの頬へと口付けをこぼした。
私の家族になるあなたへ愛を込めて。
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