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婚約者たち
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「……殿下はここのところ、そちらの男爵令嬢の方と仲睦まじくしておられましたが。その方のことをお好きなのではないのですか?」
王子は青空からヒョウが降ってきて頭に衝突した! みたいに目を剥いて驚いた。
「リリーを!? 私が!? そんなことはない! 私はユーリィンが好きだ! 好きだ!! ふふふ。一度言ってしまえば吹っ切れて何度でも言えるな! 好きだユーリィン!! 大好きだー!!」
途中から本題忘れて嬉しそうに言っている。
「……左様でございますか」
「うむ! あ、でも、あまりそんなに見ないでくれ、血がのぼって爆発しそうなんだ」
殿下はにやけ顔を片手でおさえて言う。
「……」
──本当に誰なのよコイツ。
おっと、あらあら、心の言葉が乱れてしまったわ。でも影武者な気さえしてくるのですよ。そうは見えませんが。うう~ん。
「発言をお許しいただけますか」
そこで一歩進み出てきたのは、殿下の後ろでハラハラした顔で見守っていた、件の男爵令嬢。
桃色のふわふわの髪に茶色の瞳の、かわいらしい砂糖菓子のような女の子。
「許します」
「ありがとうございます! またご挨拶申し上げます。私ハーフベリー男爵家の娘リリーと申します。私はずっと、ずっと、ずっと」
美少女は両手を握りしめ、ためにためて言う。
「ずーっと、訂正したかったのですけれど! 私と殿下は恋仲ではないですから!! 私こんな好きな人に冷たい態度とっちゃう男性ではなく、もっとスマートに口説いてくれる男性が好みなので! 絶対に違うので! そこの誤解をぜひ、ぜひ! この場で解いていただきたいです! 私にはこの殿下を素直にする大作戦を共に乗り越えてきた、す、好きな人が、他にいますのでっ! そこのところ勘違いなきようお願いいたします!」
「ま、まぁ。そうなのね」
そんなことを叫ぶ彼女の後ろ、殿下の側近候補たちもウンウンとうなづいている。
その中の一人、不思議とまだ婚約者が決まっていない伯爵令息が、熱い視線で彼女を見ていることに私は気がつきました。
なるほどなるほど。
青春の匂いを感じますわ。
「何度、途中でやめたいと思ったか分かりませんが。殿下に恩を売るこのチャンス、せめてものにしてみせようとがんばりました! 殿下は言葉の扱いがそれはもう下手、うーん、えー、あまりかんばしくなくてですね、それで誤解を周囲に与えておられるうえにご本人すらも無自覚というあまりにもあんまりな状況でしたので、わたくしが国語を全力指導いたしました!」
「なるほど」
「学園パーティーという場をお借りしたことは謝罪申し上げます。ですが学生生活の大部分を、殿下の恋人と勘違いされてめちゃくちゃにされながらも耐えた私の努力の成果がやっと実り、感無量でございます!」
「苦労されたのね……」
「なんど殿下の本音を代わりにぶちまけてやろうと思ったことか……! ですがそれで本音が知られてしまえば、ウォルテ侯爵令嬢さまに告白してあわよくばラブラブになるという、殿下の努力を引き出す鼻先の人参を失うも同義。耐えました!」
「とても苦労されたのね……」
「はい! なのでどうか殿下を見捨てないでくださいー! 私のためにも! お願いしますお願いします!」
「元より見捨てるつもりなんてなくてよ。ご安心なさって」
「わぁ! さすがです! 素敵です!」
美少女の隣で、殿下もパァっと輝くような笑顔になりました。
「末長くよろしく頼むユーリィン! やったー!」
「で、殿下、殿下、やったーはまずいです。やったーは王子は言っちゃダメです」
コソコソとフォローする男爵令嬢と殿下の姿に、会場からくすくすと笑い声が上がります。私もくすりと笑って、殿下の前へ進み出ました。
「殿下」
「ひゃい!」
「これからもよろしくお願いいたしますね」
「はい!!!」
元気でよろしい。
パチパチと拍手があふれ、私たちは皆様に手を振って応えます。その後もパーティは大いに盛り上がりました。会場の外のバルコニーで、伯爵令息があの男爵令嬢に告白しているところを殿下や側近候補たちとみんなでこっそり見守ったりもしました。
ご婚約おめでとう。
そんなパーティの後も当然、私と殿下は婚約者のままです。
しかし昔と違って今は二人で城下へデートへ行くようにもなりました。かつて王子然としてキリッとしていた殿下はいなくなり、顔を真っ赤にしたり私を見つめすぎて転びそうになったりしながらエスコートしてくれる殿下との日々はとても愉快で、そして幸せです。
かつて学園で、殿下はリリーさんの貴族らしからぬ素直でまっすぐなところにグッときてしまったのかもしれませんね。と非難を込めて皆が話していた記憶があるけれど。
私はもうその言葉で誰かを非難できませんわね。
貴族のとりすました顔ばかり見てきたから、素直でまっすぐでかわいいところにグッときてしまったのだもの。
「殿下が婚約者でよかった」
私はスマートな男性より、殿下くらいまっすぐな人がいいわ。めんどうなところはあるけれど、みんなが助けてくれるからそれも楽しいと思えるの。ありがたいことね。ふふふ。
知らなかったわ。恋がこんなに幸せだなんて。
ダメなところがかわいいと思えてしまうものだなんて。
恋は盲目とはよく言ったものね。側近の重要性をよく理解したわ。
これは危ないわ。何でも許しすぎて間違ったことをしても気が付かなそうなんだもの。注意してくれる人ってとっても必要で、ありがたいのね。
王子は青空からヒョウが降ってきて頭に衝突した! みたいに目を剥いて驚いた。
「リリーを!? 私が!? そんなことはない! 私はユーリィンが好きだ! 好きだ!! ふふふ。一度言ってしまえば吹っ切れて何度でも言えるな! 好きだユーリィン!! 大好きだー!!」
途中から本題忘れて嬉しそうに言っている。
「……左様でございますか」
「うむ! あ、でも、あまりそんなに見ないでくれ、血がのぼって爆発しそうなんだ」
殿下はにやけ顔を片手でおさえて言う。
「……」
──本当に誰なのよコイツ。
おっと、あらあら、心の言葉が乱れてしまったわ。でも影武者な気さえしてくるのですよ。そうは見えませんが。うう~ん。
「発言をお許しいただけますか」
そこで一歩進み出てきたのは、殿下の後ろでハラハラした顔で見守っていた、件の男爵令嬢。
桃色のふわふわの髪に茶色の瞳の、かわいらしい砂糖菓子のような女の子。
「許します」
「ありがとうございます! またご挨拶申し上げます。私ハーフベリー男爵家の娘リリーと申します。私はずっと、ずっと、ずっと」
美少女は両手を握りしめ、ためにためて言う。
「ずーっと、訂正したかったのですけれど! 私と殿下は恋仲ではないですから!! 私こんな好きな人に冷たい態度とっちゃう男性ではなく、もっとスマートに口説いてくれる男性が好みなので! 絶対に違うので! そこの誤解をぜひ、ぜひ! この場で解いていただきたいです! 私にはこの殿下を素直にする大作戦を共に乗り越えてきた、す、好きな人が、他にいますのでっ! そこのところ勘違いなきようお願いいたします!」
「ま、まぁ。そうなのね」
そんなことを叫ぶ彼女の後ろ、殿下の側近候補たちもウンウンとうなづいている。
その中の一人、不思議とまだ婚約者が決まっていない伯爵令息が、熱い視線で彼女を見ていることに私は気がつきました。
なるほどなるほど。
青春の匂いを感じますわ。
「何度、途中でやめたいと思ったか分かりませんが。殿下に恩を売るこのチャンス、せめてものにしてみせようとがんばりました! 殿下は言葉の扱いがそれはもう下手、うーん、えー、あまりかんばしくなくてですね、それで誤解を周囲に与えておられるうえにご本人すらも無自覚というあまりにもあんまりな状況でしたので、わたくしが国語を全力指導いたしました!」
「なるほど」
「学園パーティーという場をお借りしたことは謝罪申し上げます。ですが学生生活の大部分を、殿下の恋人と勘違いされてめちゃくちゃにされながらも耐えた私の努力の成果がやっと実り、感無量でございます!」
「苦労されたのね……」
「なんど殿下の本音を代わりにぶちまけてやろうと思ったことか……! ですがそれで本音が知られてしまえば、ウォルテ侯爵令嬢さまに告白してあわよくばラブラブになるという、殿下の努力を引き出す鼻先の人参を失うも同義。耐えました!」
「とても苦労されたのね……」
「はい! なのでどうか殿下を見捨てないでくださいー! 私のためにも! お願いしますお願いします!」
「元より見捨てるつもりなんてなくてよ。ご安心なさって」
「わぁ! さすがです! 素敵です!」
美少女の隣で、殿下もパァっと輝くような笑顔になりました。
「末長くよろしく頼むユーリィン! やったー!」
「で、殿下、殿下、やったーはまずいです。やったーは王子は言っちゃダメです」
コソコソとフォローする男爵令嬢と殿下の姿に、会場からくすくすと笑い声が上がります。私もくすりと笑って、殿下の前へ進み出ました。
「殿下」
「ひゃい!」
「これからもよろしくお願いいたしますね」
「はい!!!」
元気でよろしい。
パチパチと拍手があふれ、私たちは皆様に手を振って応えます。その後もパーティは大いに盛り上がりました。会場の外のバルコニーで、伯爵令息があの男爵令嬢に告白しているところを殿下や側近候補たちとみんなでこっそり見守ったりもしました。
ご婚約おめでとう。
そんなパーティの後も当然、私と殿下は婚約者のままです。
しかし昔と違って今は二人で城下へデートへ行くようにもなりました。かつて王子然としてキリッとしていた殿下はいなくなり、顔を真っ赤にしたり私を見つめすぎて転びそうになったりしながらエスコートしてくれる殿下との日々はとても愉快で、そして幸せです。
かつて学園で、殿下はリリーさんの貴族らしからぬ素直でまっすぐなところにグッときてしまったのかもしれませんね。と非難を込めて皆が話していた記憶があるけれど。
私はもうその言葉で誰かを非難できませんわね。
貴族のとりすました顔ばかり見てきたから、素直でまっすぐでかわいいところにグッときてしまったのだもの。
「殿下が婚約者でよかった」
私はスマートな男性より、殿下くらいまっすぐな人がいいわ。めんどうなところはあるけれど、みんなが助けてくれるからそれも楽しいと思えるの。ありがたいことね。ふふふ。
知らなかったわ。恋がこんなに幸せだなんて。
ダメなところがかわいいと思えてしまうものだなんて。
恋は盲目とはよく言ったものね。側近の重要性をよく理解したわ。
これは危ないわ。何でも許しすぎて間違ったことをしても気が付かなそうなんだもの。注意してくれる人ってとっても必要で、ありがたいのね。
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