私の婚約者様には恋人がいるようです?

鳴哉

文字の大きさ
3 / 5

3

しおりを挟む
 婚約前から恋人と思き女性がいる相手と結婚するのかと思うと、それはちょっと嫌だ。
 でも、お断りしてしまったら、次があるかどうか、自信がない。

 それならば、答えはひとつしかない。

 ケイン様との関係を改善し、(できるならば両親のような夫婦のように仲良くなり、)今の恋人とは円満にお別れしてもらう。

 私はそれを目標にすることにした。



 月に2回定期的に設けられた交流に加え、私からデートに誘う。
 街の散策、観劇、ピクニック、遠乗り、等々。幸いにも誘いを断られることはなかった。

 でも、アリア嬢の気配は消えることはなかった。
 ふとした時に香る香水。
 妙に詳しい女性の衣装や装飾品の流行事情。
 手作り感満載のランチボックス。


 慣れないなりに頑張って用意した私のランチボックスとそれよりはるかに美味しそうなものを並べた時、思わず本音が溢れてしまった。


「どうしてケイン様は、アリア様と婚約なさらなかったのですか?」


 しばらくの沈黙の後、彼の口から出たのは問いかけだった。


「それは、貴女は私とは婚約したくなかった、ということだろうか」

「そういうことではありません」
 否定すると、彼はまた問いかけてくる。

「では、何故そのようなことを聞くのだろうか」

 彼は本当に私の質問の意図がわからないらしい。


「私よりもアリア様との方が親密でいらっしゃるようだからです」

「彼女は幼馴染、いや姉のようなものだ」

 最近少しは感情が出るようになったケイン様の顔には、困惑が見て取れた。


 アリア嬢とは恋仲ではない?
 少なくともケイン様は兄弟のようにしか思っていないの?

 でも、アリア嬢の方は。


「では、ケイン様」

 私はアリア嬢が作ったのであろうランチボックスを指差した。

「そちらは私にお譲りいただいて、私の作ったものを召し上がっていただけますか?」

「構わないが」

 彼は不思議そうな表情で、でも躊躇うことなく了承してくれた。
 私がどんな気持ちでそう言ったのか、全くわかっていないようで、苦笑いを浮かべるしかない。


 だけど、彼の口から無意識に
「美味いな」
と溢れたのを聞いて、ちょっと嬉しくなった。



 私が言うのも烏滸がましいが、私よりもケイン様は人の心の機微に疎いようだ。
 ならば、ハッキリ告げた方が良いのだろう。
 淑女らしくはないけれど、そういうのは割と得意な方だ。


「私の作った方のランチボックスを召し上がっていただけると嬉しいです」

「ケイン様から女性の香水の香りがすると、私よりその女性の方がお傍にいらっしゃるのかと思えて寂しくなります」

「流行りのものより、ケイン様が私のために選んでくださったものがいいです」

「私から刺繍入りのハンカチをお贈りしてもいいですか?」


 事あるごとに言いまくった。
 これはかなりウザい女だと引かれそう。


 だけど、ケイン様は迷惑そうになさらなかった。
 私のランチボックスを食べてくれたし、女性ものの香水を香らせてくることもなくなり、私の好みを聞いて自身で選んだドレスを贈ってくださった。
 私はお礼にイニシャルと家紋を刺繍したハンカチを贈った。最近はそれをいつも使ってくれている。


 彼は確実に歩み寄ってくれていると感じられた。相変わらず表情は乏しいのだけれど、これは彼の生い立ちなどから仕方ないのかも知れない。


 ケイン様は、つい先日正式にウィズラート伯爵となられたばかりだ。
 両親が不慮の事故で共に亡くなった際、12歳で伯爵家を継がれたのだけれど、ずっと後見人がついていたそうだ。幼いことを言い訳にせず、真摯に領政に向き合ってきたケイン様は、多感な子供時代を子供らしく過ごすことが出来ず、今に至る。
 感情の起伏が少なく、仕事以外、色恋などにも興味がないケイン様が出来上がった。結婚はただの貴族の義務としか思っていないのだろう。

 ちなみに、その後見人がアリア嬢の父親で、彼女たち家族はウィズラート家に居候しているらしい。
 後見人の任期を終えたのなら、居候は解消するのだろうか。嫁入り先に、夫に懸想する女性が同居しているなんて、余り好ましくはない。いや、嫌なんだけど。








しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する婚約者を懇切丁寧に説得してみた。

ましろ
恋愛
この度、婚約が決まりました。 100%政略。一度もお会いしたことはございませんが、社交界ではチラホラと噂有りの難物でございます。 曰く、幼馴染を溺愛しているとか。 それならばそのお二人で結婚したらいいのに、とは思いますが、決まったものは仕方がありません。 さて、どうしましょうか? ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

夫は運命の相手ではありませんでした…もう関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

coco
恋愛
夫は、私の運命の相手ではなかった。 彼の本当の相手は…別に居るのだ。 もう夫に関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

あなたが望むなら

月樹《つき》
恋愛
あなたにお願いされると断れないのはどうしてかしら? 幼い頃から、ずっと一緒に育ったあなた。 ずっとずっと好きだった。 あなたが妹の事を好きだと知るまでは…。

突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました

恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。 メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。

処理中です...