「Rencontre fortuite(偶然の再会)」

三ノ宮 みさお

文字の大きさ
6 / 7

8 謎の男 終平の登場 9 二人の関係

しおりを挟む
 山城が病室に入ると美月はエリック、あの作家と話していた。
 内心ほっとした、ぎこちない会話にならずにすむと思ったのかもしれない。
 そのとき、ドアをノックする音がした。
 入ってきたのは白髪の杖をついた男性だ。
 「終平っっ(しゅうへい)。」
 水樹の声に山城は驚いた、驚いているだけではない、彼女が喜んでいるのを感じたのだ。
 終平と呼ばれた男は山城とエリックを見ると軽く頭を下げた。
 背を向けて出て行こうとするが、ドアの前で足を止めた。
 「医者と話をしてくる。」
 このとき山城もだが、エリックは彼女が男の後ろ姿を追っている事に気づいた。

 多分、いや、医者と話して来るというのは嘘ではないかとエリックは考えた。
 それだけではない、に彼女が名前を呼び捨てにしたのも気になる。
 「体調に気を付けてください、水樹さん」
 マスクの男が出ていくと程なくして山城も退出した、ところが。
 
 廊下を曲がったところで呼び止められた。
 「先生、帰ったはずでは。」
 エリックは山城に近づくと、少し気になってと言葉を続けた。
 「先程の男性は、彼女の父親ではないでしょう、親族にも見えなかった、あなたの知り合いですか?」
 山城は首を振った。
 小説家の言葉に迷った、昔からの知り合いだと水樹は言った。
 だが、それだけではないように思える。
  自分は六郷から頼まれたのだという自負もある。
   足は自然と病室に向かつていた。
  だが、そこに彼女の姿はない。
  あの男もだ。
 
 「もしかして、別の場所で、屋上とか。」
 エリックの言葉に山城は歩き出した。

 二人は屋上にいた。
 並んでベンチに座っている。
 だが、様子がおかしい。
  水樹は顔を伏せている。
 どうした、その男が何か言ったのか、もしかして泣いているのか。
 理由を聞くべきか、だが、今二人の前に出ていくのは。
 山城は迷った。
 
 「ごめんなさい、嬉しくて、長く会えなかったから……」
 すぐ側に、隣にいるのに顔を見ることができない。
 終平自身、言葉をかけるべきなのに、それができない。
 ゆっくりと杖を持つ手とは反対の手を伸ばし、彼女の手に重ねる。
 「会えない時間は長かった、話したいことはたくさんある……」
 それなのに、今、自分は何が言いたいのかわからない。
 もどかしいと思いながら終平は目を閉じた。
 
   9  二人の関係

 「ところで、山城に見合いの話がきている。」
 突然、話が変わり、水樹は驚いたようだが、はいと頷く。
 「知っています、女性が会いにきました。」
 「……知っている?」
 彼女の言葉は予想しないものだったのか、終平の表情がわずかに曇った。
 「邪魔ですね、私。」
 それは彼女の出した答えなのかもしれない。
   
 まるで恋人同士のようだ、知らない人間が見たら、そう思っても不思議はないだろう。
 男が手を握っても、それを当然のように受け入れている彼女。
 年齢的に言っても普通なら有り得ないだろう、不思議な関係だと思いながらエリックは側の山城を見た。

 山城は二人に向かって行った。
  突然、山城が現れたことに驚いたのか、彼女はわずかに顔を伏せた。
 反対に男は少しも動じる様子はない。
 いや、こうなること、まるで、山城が現れることを予想していたようだ。
 「水樹、この男は昔からの知り合いというが、誰なんだ。」
 顔を上げることはせず、無言のままの彼女に山城は困惑した。
 「なんだ、怒っているのか、山城。だが、それはお門違いというものだ。」
 男の態度と言葉に山城は不可解な表情になった。
 「あの女もだが、お前に対しても怒っているんだ、俺は。」
 六郷だ、男の口から出てきた名前に山城は、ハッとした。
  「どういうことだ、何故、六郷が。」
 言葉の意味がわからず、山城は男を見た。
 「はっきりさせるか、ここで。」
 緊張が走った。
 「水樹を渡せ。」
 たった一言、だが、それだけで十分だった。
 「俺は六郷から……」
 「六郷か、死んでも邪魔をするのか、あの女は……」
 その言葉が何を意味しているのか、山城にはわからなかった。
 俺は、六郷に頼まれたから水樹を預かった。それだけのはずだ。
 わかっているのは、この男が自分を恨んでいるということだけだ。
 だが、その理由がわからない。
  
 突然、男は立ち上がると、山城を鋭く睨みつけた。  
 「しばらく、お前に預けておく。それまで、せいぜい家族ごっこを楽しんでおけ。」  
 「なんだと、それは——」  
 山城が語気を強めた、その瞬間、男は冷ややかに笑った。  
 
 そのとき、屋上のドアが静かに開いた。
 男が姿を見せた瞬間、空気が変わる。
 終平に一礼する男を見て、山城とエリックは息を飲んだ。
 「お迎えにまいりました。」


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...