鈍感な男

三ノ宮 みさお

文字の大きさ
1 / 1

悪い男ね、愛人の言葉は真実だったのか。

しおりを挟む
「大丈夫だよ」
男は安心させるように愛人に囁いた。
自分の妻は鈍感な人間だ、夫の自分が浮気をしていても気づいていないよ。
その言葉に女はニッコリと笑った
「悪い男ね」
男は満足そうに笑うと女を抱きしめた。
付き合い始めて二ヶ月がたとうとしているが、妻は自分の浮気に気づいてはいない。
鈍感というか、自分が浮気しているなんて、疑ってさえいないのだろう。

「ねえっ、あなた」
その夜、家に帰ると妻はお願いがあるのと呟いた。
珍しいと思いながら夫が尋ねると猫が飼いたいと言い出した。
「構わないよ」
夫の言葉に妻はにっこりと笑った。
「良かった、週末に友人が連れてきてくれることになっているの」

週末、自宅に戻った夫は玄関の靴を見て、藤木そうな顔になった。
どこかで、見たことがあると思ったのだ。
奥から笑い声が聞こえてきた。
「ただいま」
女友達が来ているのか、珍しいなと思いながら家の中に入る。
「お帰りなさい」
妻の声、続いてお邪魔しています、女性の声に男の視線は釘付けになった。
妻と一緒に楽しそうに笑っている見覚えのある女性は自分の愛人だ。
どういうことだ、平静を装いながら、挨拶を返す男に妻と愛人はニッコリと笑った。
「あなた、この子よ、名前は倫子(しなこ)可愛いでしょ」
男は妻の言葉にどきりとした、それは愛人の名前だ。
どういうことだ、そんな名前はやめろと言いたかった、だが。
「翔子(しょうこ)さん、ありがとう、大事にするね」
黒猫の頭を撫でながら微笑む妻顔を見ると男は何も言えなかった


「どういうことだ、妻と友人だったのか」
後日、愛人と会った男は攻めるような口調と怒りをにじませた顔で問い詰めた。
「ああ、話すのが遅れたけど、良いじゃない、そんなこと」
「何を言っている、もし妻にばれたら」
大丈夫と愛人は笑った。
「鈍感な人間なんでしょう?」
愛人の笑顔に男の顔は一瞬、戸惑った表情になった。
そんな自分を愛人は笑った。

「しなこー、ご飯よ」
妻が家で猫の名前を呼ぶたびに男は複雑な気持ちになった。
愛人が初めて自分に会ったとき、倫子だと名乗った、だが、妻に会いに来たときは翔子と名乗った。
どちらが本当の名前だ、」それを使って愛人に聞くと、どちらでも良いじゃないと笑われた。
「そんなことを気にするの、くだらない」
その言葉に何がくだらないんだと男は叫んだ。
「今まで、あなたに奥さんと別れてほしいとか、一緒になりたいなんて言ったとこあった」
男は無言になった。
「あたし、欲しいものがあるの、それが手に入る為なら、なんだってするわ」
それは何だと聞くと女は笑った。
どうして、それをあなたに言わなくてはいけないの、知ってどうするの、そう言われて男は言葉を失った。
「そうね、欲しいもの、好きな人、でもあなたでないことは確かだわ」
その言葉に男は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「だって、あなたみたいな男、その辺にいくらでもいるじゃない」
女はにやりと笑った。
内心怒りを感じた。
「俺だって、君に本気なわけじゃない」
「あら、そうなの」
女はにやりと笑った、まるで見透かすような笑いだった。
「妻が浮気していても、あなたみたいな男は気づかないんでしょうね」
その言葉に男はどきりとした。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...