夫婦の離婚 夫の新しい人生 妻は売ったのです

三ノ宮 みさお

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愛故の行動でした、売られた夫の新しい人生

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 「嘘、でしょう」 

 女は床の上に座り、いや、へたり込んでしまったと、自分が何を見ているのか理解できずにいた、いや、信じられなかったといったほうがいいだろう。
 いつものように朝の挨拶をするつもりだった。

 「けいちゃん、ケイちゃん」

 部屋から聞こえてきた悲鳴、いや、女の声に男は慌てて部屋のドアを開けた、泣き伏す女の姿に男は察した、死んだ、亡くなったのだと。
 昨日までは元気だった、予期しない事はいつだって突然に起こる、だが、この場合はどうすればいい、女は可愛がっていたのだ、心から。
 犬や猫、ペットなら新しく迎え入れてという選択をすることもできる、だが、この場合、代わりなど簡単に見つかるわけがない、男は絶望した、このままでは可哀想だ。


 
  玄関に女性の靴が複数あるのを見て啓二は珍しいなと思ってしまった、妻の美子が自宅に友人を呼ぶのは珍しいことだったからだ。
 多分、妻と似たようなタイプの女性ばかりなのだろうと思いながら部屋に入った。

 「本当なの」
 「ええ、続きはどうする」
 「勿論、聞かせて頂戴」
 「気になるわよ、それにしても酒がすすむわね」

 賑やかな女性たちの声に啓二は唖然とした、部屋の中には三人の美女がいるのだ、平凡な主婦の集まり、その想像は見事に崩れ去った。

 立ち尽くす自分に声をかけたのは妻だ、返事をしながら視線を向ける、だが、信じられなかった。
 それほど普段の姿とはかけ離れた妻の姿があったのだ。
 
 「あら、御主人なの」

 一人の女性がこちらに視線を向け、他の女性たちも啓二を見て軽く頭を下げるが、それだけだ。
 自分の存在など気に求める様子も見せず女たちは自分の会話に夢中になる。

 「祐子、それで、その男と付き合うの」
 「まさか、既婚者よ、でも本人は隠していてばれていないと思ってたのよ、それでね」

 一瞬、耳の痛い話だと啓二が思ってしまったのは自分もだからだ。
 台所で水を飲んでいると、入ってきた妻に今日は遅くなるんじゃなかったのと言われて、どきりとした。
 デートしたいと言われて、そのつもりだったのに、待ち合わせの時間、直前になって、相手から用ができた、いけないとすっぽかされたのだ。
 
 「美子、珍しいな、今日は化粧して」

 日頃から殆どノーメイクなのに、それが今日はどうだ、別人だ。
 友人が来ているからか、皆、本当に主婦なのかと思うくらいメイクだけでなく服装もきちんと、いや、どこか出かけるのかというようなしている。
 
 「今日、役所に届けを出してきたから」

 その言葉に啓二は驚いた、離婚の話が出たのは最近のことだ、自分としては別れることに異論はなく、できるなら少しでも早くと思っていた。
 自分の署名をした紙を出したとき、妻は無言で受け取った、もしかして別れたくないとごねるのではないかと思ったのに。

 「このマンションも売ることにしたから」
 
 啓二は驚いた、名義は妻のものだから自分が反対する理由はない、だが半年ほどしかたっていない。

 「俺が、ここに住み続けたいと言ったらどうする」
 「あなたが」

 以外だといわんばかりの表情で見られて啓二は内心、何故と思ってしまった。

 「ここ色々とリノベしたでしょう」

 妻の言葉に啓二は思い出そうとした、このマンションの購入をきめたときのことを、売り出し中のマンションの候補はいくつかあったのだが、ここは最安というぐらい、他のマンションに比べても安かった。
 以前、住んでいた住人が壁や水回りなど手を加えていた、それだけではない、飼っていたペットが犬や猫ではなかった、しかも周りには知らされていなかったのだ、なかなかつかないのも同然だろう。
 だが、そのことを知っても妻は。だったらリノベーション、内装を自由にしてもいいだろうかとオーナーに話を持ちかけたのだ。
 
 「買うっていうけど、お金あるの」

 啓二は内心、むっとした、専業主婦でインドアといってもいいぐらいの妻には貯金だってほとんどない筈だ。
 すると、買い手がいると予想もしない言葉が返ってきた、幾らだと訊ねたのは当然だろう、だが、返ってきた答えを聞いて驚いた。
 金額は自分の予想を遙かに越える、いや、上回るものだったからだ。
 
 「家具もだけど室内の設備はいいのよ、ネットの接続、セキュリティもしっかりしているから」

 窓が二重になっていること、ドアのキーは特殊な外国製のもの、鍵だけでなく、指紋認可証になっている、それにエアコンが業務用の大型で排気口の設備も普通の業者ではない、それを啓二は黙って聞いていた。

 「メンテナンスの費用も馬鹿にならないわ、払えるの」

 馬鹿にするなと思いながら自分だって、相応に稼ぎはあると言うと妻は難しい顔で、半年のメンテナンスとフィルターの交換、定期検診だけでと言われて驚いた。

 「だったら今の金は」

 自分が出しているという妻の言葉に啓二は驚いた、パソコンで小遣い稼ぎをしているというのは知っていたが、それほどの金額ではないだろうと思っていたのだ。
 夫の自分よりも稼いでいると言われて啓二は笑った。

 妻と別れて愛人といっしょになる筈の生活、それは今よりも自由で素晴らしいものになる筈だと、いや、そう思っていた。
 それなのに妻の方が自分よりも、そう思うのは男としてのプライドが傷ついた、そう思ってしまうせいだろうか。
 驚いたのは慰謝料はいらないという言葉だ。
 
 「大丈夫なのか」
 
 頷く相手に啓二は内心、焦りを感じた、今、妻と別れて本当にいいのかと、美子と久しぶりに妻の名前を呼んでみた。
 愛情を込めてだ。


 「そうなのよ、妻とはあまりって台詞、ありきたりで吹き出しそうになったわ」
 「で、その人、気づいているの、祐子」

 祐子と呼ばれた女性は、まさかと首を振った。
 
 「自分はいずれ妻とはなんていうけど、ばれてるの気づいていないのよ」

 ばれているという台詞に啓二はどきりとした。

 自分の浮気相手が、妻の友人に似ているなんて気のせいだ、飲み過ぎたかなと思ってしまう。

 御主人、お酒は飲むんでしょうと勧められて口にしたシャンパンの旨さに驚いた、自分がよく行く高級バーの酒と比べものにもならない。
 妻の友人たちに一緒に呑みましょうと言われて席に着いたのだが、最初は一杯だけで退散するつもりだった。

 「でもよかった、このマンション、売る気になってくれて」

 女の言葉に啓二は驚いた、買い手は妻の友人だったのか、どうにかできないだろうかと思い、そのことですがと言葉をかけた。
 妻とは離婚することが決まっていて、できれば、自分はここが気に入っているというと女達は顔を見合わせて笑い出した。
 意味が分からず啓二は女たちの顔を見回した。

 「買いたいなんて、間違ってません、言葉、いずれ」
 「そういえば以前の住人も同じ名前でしたよね」

 以前の住人、意味が分からず啓二は妻の方を見た。

 「○○さんのことよ、同じ名前なの」

 意味ありげな言い方だ。

 「まあ、ここなら大丈夫よね」

 女たちの会話の意味がわからない、少し飲み過ぎてしまっただろうかと啓二は思った。


 女性の言葉に周りは驚いた、あるマンションの一室で飼われていたペットのことだ、それは猿人だという。
 特別な許可がいるらしいが、飼っていた夫婦は実の息子同然に可愛がっていたらしい、だから。

 「亡くなった時は凄く悲しんで、また、代わりにと思ったらしいけど、とても珍しい生き物だからって」
 「そうなの、なんだか、かわいそうね」
 
 でもね、続きがあるのよ、女性の言葉に周りは好奇心を隠そうともしない表情で続きを話してと待った。

 
 

 女性の言葉に周りは驚いた、あるマンションの一室で飼われていたペットのことだ、猿ではない、猿人だという、つまり人と猿の○○だ、未開の奥地で実験の為に捕獲された猿は研究所の生活で知能が高くなった。
 研究員達は驚き喜んだが、だが、それは最初のうちだけだ、結果、実験が進むにつれて研究費も追いつかなくなったのだ、秘密裏の研究なので支援してくれる人間も限られる、それだけではない。
 この猿と掛け合わせて子供が生まれたら、研究員達は探究心と欲望に勝つことが。



 夫婦は猿人を、息子、人間の子供のように可愛がっていたらしい。

 「亡くなった時は凄く悲しんでいたのよ」
 「そうなの、なんだか、かわいそうね」
 
 でもね、続きがあるの、その言葉に周りは好奇心を隠そうともしない表情で続きをと待った。


 目が覚めた時、自分は裸だった、鉄格子の折の中に入れられていることに驚いて妻の名前を呼んだが入ってきたのは二人の人間<知らない男女に啓二は驚いた。
 ここを出してくれと言うと二人は笑いながら、ここが、貴方のおうちじゃないと笑いながら近づいてきた。
 自分の言葉など聞こえていないかのようだ、笑顔と優しい声に啓二は意味が分からず、どうなるんだと不安に駆られたのはいうまでもない。

 

 「ケイちゃん、戻ってきてくれたのね」

 女は泣きそうな顔で隣の男を見た、大切にしていたペットが亡くなったことが余程、堪えたのだろう、外国人の友人からプレゼントされた、それを彼女は可愛がっていた。
 逃げ出したりしないよう飼育場所もちゃんとする、役所、警察に届けを出すのは簡単だ、男にはそれだけの力があったからだ。
 ペットのお陰で女は立ち直った、大丈夫だと男は安心した、ところが長くは続かなかった、死んだのだ。
 女は憔悴し、このままでは死んでしまうと男は不安に苛まされた、ところが街中で見かけた男の姿に、女はケイちゃんと呼びかけた。


 男は決心した、愛する女の為に、それがどんなことでもと思ってしまう。

 

 自分は夫を売ったのだろうかと妻だった女性は、時折、考えてしまうが、それは最初のうちだけだ。
 いや、違う、あの女性の懇願を聞いてしまった、断ることができなかった、そして、代価を受け取った、それだけだ、そう思うと自分がしたことは良いことなのだと思ってしまう。
 しばらくすると自分が結婚したこと、夫だった男の顔を思い出す事もなくなっていた。
 
  
    
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