母の複雑情事と恋愛が原因で、娘の人生は恋愛と家族は、もっとこんがらかっ

三ノ宮 みさお

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思わぬ事態が待っていた(犬たち) 海の向こうでは一人の男がむせび泣き

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 美味しそうな、お弁当ね、その声にユリは思わず顔を上げた、自分と同じアイドルのLIMAだ、良かったら食べるとタッパーを差し出すと遠慮なくだ。
 
 「お、美味しい、たらこ好きなのよ」
 
 他にも塩昆布、梅とかあるわよと言うとLIMAはもしかして、美さんが作ってくれたのと聞いてきた。
 
 「あたしのお父さんも作って貰ってるのよ、和食が多いわね」
 
 「デザートもあるのよ、トライフルとショートブレッド、帰りが遅くなったとき、小腹を満たすのに凄くいいのよね」
 
 「そう、ところで、噂、聞いてる、子役の事、佐伯さんだってね」
 
 ユリは頷いたが、自分から話す事はしなかった、ところが。
 
 「あんたも関係してるのよ、写真よ」
 
 えっ、何、それとユリは不思議そうな顔になった、するとLIMAはやっぱり知らなかったのねと顔になった。
 
 「犬よ、自分の犬だって言い出して<本当に知らないの」
 
 ユリは、ぽかんとした顔になった。
 
 
 
 間違いありません、息子の犬ですと母親はまくしたてる、盗まれたんですと周りに吹聴した、アイドルのユリの犬だと紹介されていたのは間違いだ。
 ゴシップ好きな人間はどこにでもいる、ネットで拡散されたら週刊誌も真実なのか確かめる為にユリにインタビューを申し込んできた。
 
 ユリの母親、恭二は最初は無視するつもりだったらしい、ところがネットで噂になってくると、週刊誌など騒ぎ始めた、血統書もあるといわれてしまえ
ば返さなければいけない、生き物だが、所有権は持ち主にあるのだからといわれたら仕方ない。
 
 「どうなるの、できるなら、あたし」
 
 娘の言葉に恭二は複雑な顔になったのは無理もない、娘は週末は泊まりに来るようになったし、親子の会話も増えてきた、それに二匹の犬も懐いてい
る。
 
 「美夜さんは知ってるの」
  
 二匹は自分にもだが、散歩に連れて行ってくれる彼女にも懐いているのだ、仕方ない、二匹を返すしかないだろうと思ったが。
 
 

 「訴えられた、どういうこと、キョウ、何、それ」
 
 「実は犬をスタジオに連れてきて、そこで引き渡すようにって、その日、息子の仕事があるらしいのよ」
 
 「人が大勢いるところでね」
 
 「その子供だけど、お偉いさんを怒らせたとかで、仕事が」
 
 良子は黙りこんだ、犬の散歩のバイトを始めてから美夜は楽しそうだ、というより体力もついてきた、今、このバイトがなくなるのは美夜だって。
 
 「犬の所有権ってモノ扱いよね」
 
 「詳しい事はわからないけど、正直、渡したくないのが本音よ、迷っていた時の事を思い出すと」
 
 「わかった、協力するわ、少し時間が欲しいの、いい」
 
 「引き渡しは週末なんだけど」
 
 「任せて、娘の為だからね」
 
 いや、あたしの娘(ユリ)の為でもあるんだけど、という台詞を恭二は飲み込んだ。
 子役として人気が出てきた今、息子の仕事がなくなる、事務所からも注意を受けた母親は不安になった、そんな矢先だ、息子の為に飼った血統書付きの犬が、アイドルの愛犬として紹介されていたのだ、迷い犬、野良犬だったのを引き取ったというが、最初に、その記事を見つけたのは息子だった。
 これはチャンスだと母親は思った、自宅から脱走した犬が見つかった、できるならすぐにでも引き取りたい、子供は犬がいなくなって酷く寂しがっていたのだとアイドルの親に連絡を取った。
 母親と二人暮らしと聞いていたが、電話に出たのは男で驚いた。
 できるなら仕事場で息子の仕事に付き添っていくので、スタジオで犬を引き取りたいと申し出た、珍しい犬種で子供と動物なら話題性もある、これがきっかけで子役の仕事が入ってくるのではと思っていた。
 ところが、母親に電話をして二日後、弁護士と名乗る男性が尋ねてきた。
 
 犬を返す、だが、その前にかかった費用を払う気はあるのかと聞かれ、母親は提示された金額、領収書を見て驚いた。
 
 
 「どういうことです、これ、金額が大きすぎません」
 「飼育費ではありません、よく、ご覧ください、医療費です」
 
 犬を保護したとき、二匹は怪我をしていたので獣医に診せたのだという、ペットの医療費が高いというのは知っていたが、数万ではない、数十万になっているのだ。
 
 「治療は現在も続いています、前足を骨折していたんです、二匹ともね、それとブリーダーから連絡はきていませんか」
 
 
 意味がわからず母親は不思議そうな顔をした。
 
 「あの犬たちは純血保存のクラブに所属しています、脱走したのは事故でも、その後の対応に、かなりのご立腹のようで訴えると申し立てているんです」
 「ですか、あの犬達はお金を出して購入したんですよ」
 
 訴える、二匹を渡さないなら、それは自分がしようと思っていたことだ、ところが、勘違いなさらないでくださいと男は一呼吸おいた。
 
 「飼われたのは日本ですが、本籍はフランス、クラブが訴えると、正式な抗議文書を日本の裁判所に提出すると」
 「たかが、犬のことで」
 「貴方から見れば、ただの犬です、だが、日本と同じだと思わない方がいいでしょう、個人ではなく、クラブです、代表者は貴族、サーの称号、貴族です、愛犬家としても知られていますが、ところで、ご主人は確か、役職についておられますね、確か、サーは」
 
 何を言っているのか理解できなかった、自分はただ犬を返してもらえば、それで子供の仕事が、顔の筋肉がこわばり、開いた口から言葉が出てこない、思考が追いつかないのだ。
 
 「あの二匹は野々宮恭二さんの犬、お子さんにも伝えてください、以前にも犬を飼っていたようですが、どうしました」
 「欲しいという方が、どうしても断れなくて」
 
 男はにっこりと笑う、その笑顔に母親は、まさかと思った。
 
 「子供の望みを叶えてやりたいと思う親心は分からないでもありません、ですが、この場合は犬の方が可哀想ですよ」
 
 
 
 「えっ、本当、返さなくていいの、我が家の犬になったの」
 
 母親から聞かされたユリは驚いた、週末の収録の時、スタジオに犬を連れてきて欲しいと言われていたのに。
 
 「そ、そうなんだ、でも、どうして」
 
 「美夜ちゃんのお母さんがね、弁護士を紹介してくれたの、それで」
 
 「ベ、弁護士って」
 
 「良子には感謝だわ、今度、ご飯でも奢ろうかしら」
 
 「あたしも行っていい、美夜さんのお母さんでしょ、会ってみたいわ」
 
 「そうね、一度、会っておくのもいいかしら」
 
 その頃、遠い海の向こうでは。
 
 
 「オオウッ、私の犬が、こんなにかっこよく、できるなら、この写真家に撮ってもらいたい」
 
 と一人の男が雑誌を見ながら目を潤ませていた。

 
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