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4.王子の葛藤
名前も知らない人に言っちゃダメなんだって
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とは言え……この教会の女が、カシーを連れ去ろうとしていたのは事実。
何の目的でカシーを連れ去ろうとしたのか?
この国の王子としては、そちらの方を気にしなくてはいけない。
それは、国を守るため。
だが、それよりも俺は、1人の男として問いたいことがあった。
剣を抜く。
ギリギリまで教会の女に剣先を突きつける。
教会の女は、跪いたまま、顔をあげない。
「そなたに問う。偽りは許さぬ」
「はい。神に誓って」
「寵姫のこの姿、どのように説明する」
教会の女は、ぴくりとも動かず、答えない。
俺は、その空白の時間にイライラした。
「言え」
相手の言動を引き出すための圧を、声に乗せた。
その瞬間、教会の女が顔をあげた。
見られると、全てを吸い込まれそうな透明な目。
見た者に恐怖を与えそうなほど、それは澄んでいる。
俺は一瞬、怯んだ。
「私は、ただ、この方があまりにも酷い状態でしたので、助けてさし上げただけですわ」
教会の女はそう言いながら、ある方向を指さした。
「追わなくてよろしいんですの?」
(何だ……!?)
汚らしい男達が森の中に消えていく様子だけ、かろうじて見ることができた。
(あのゴミための臭い……あいつらか……!!)
俺は、あの男達が……今腕の中にいるカシーに何をしようとしたのか、同じ男という性を持つ人間として察してしまった。
(あいつら………!見つけ出したら死刑にしてやる……!)
「あらあら、逃げ足が早いですわね」
女はそう言うと、普段から乗り慣れているのか、ふわりと馬に飛び乗った。
俺でも、そこまで美しく乗ることはできない……と、不覚にも思ってしまった。
「それでは、私も戻らなくてわ」
「まだ話は終わってない!」
「いいえ、終わりましたわ、王子とは」
(俺とは……終わった……だと?)
教会の女は、カシーの方に視線を向けた。
俺からは、カシーがどんな表情をしているのかが分からなかった。だが。
「必要な時、私は必ずあなた様をお助けしますわ。それまでごきげんよう、カサブランカ様」
(……っ!?この女、カサブランカの名前を知っているのか……!?)
もしかしたら、カシーが自分で名乗ったのかもしれない。
だが、それはあり得ないと、すぐに思い直す。
何故なら子供の頃、カシーは親からこう言われていたと、カシーから聞いていたから。
「私ね、お外に行ってもダメだし、名前も知らない人に言っちゃダメなんだって」
当時は意味がわからなくても、あの王からの真実を聞いた今では、理由は理解できる。
そしてカシーは、その言いつけを実直に守り続けてもいた。
カシーの名前を知っているのは、1000人は働いていると聞く城の中でも、俺と彼女の身の回りに関わる仕事をする、ごく一部だけだ。
俺が呼ぶ「カシー」を彼女の名前だと思っている人間の方が、圧倒的に多い。
そんなカサブランカが、教会の女に名前を名乗るのか……?
もし、この教会の女が、初めからカサブランカという名前を知っていたとしたら……?
俺は、急いで馬を走らせる。
一刻も早く、この女からカシーを離さなくては、と思ったから。
「あっ、あの……!!」
「舌を噛むぞ。話すな!」
「でも……!」
「話は後で聞く!しっかり捕まってろ!!!」
この時俺は、背後……教会の女がいる方向から得体の知れないプレッシャーを感じていた。
何の目的でカシーを連れ去ろうとしたのか?
この国の王子としては、そちらの方を気にしなくてはいけない。
それは、国を守るため。
だが、それよりも俺は、1人の男として問いたいことがあった。
剣を抜く。
ギリギリまで教会の女に剣先を突きつける。
教会の女は、跪いたまま、顔をあげない。
「そなたに問う。偽りは許さぬ」
「はい。神に誓って」
「寵姫のこの姿、どのように説明する」
教会の女は、ぴくりとも動かず、答えない。
俺は、その空白の時間にイライラした。
「言え」
相手の言動を引き出すための圧を、声に乗せた。
その瞬間、教会の女が顔をあげた。
見られると、全てを吸い込まれそうな透明な目。
見た者に恐怖を与えそうなほど、それは澄んでいる。
俺は一瞬、怯んだ。
「私は、ただ、この方があまりにも酷い状態でしたので、助けてさし上げただけですわ」
教会の女はそう言いながら、ある方向を指さした。
「追わなくてよろしいんですの?」
(何だ……!?)
汚らしい男達が森の中に消えていく様子だけ、かろうじて見ることができた。
(あのゴミための臭い……あいつらか……!!)
俺は、あの男達が……今腕の中にいるカシーに何をしようとしたのか、同じ男という性を持つ人間として察してしまった。
(あいつら………!見つけ出したら死刑にしてやる……!)
「あらあら、逃げ足が早いですわね」
女はそう言うと、普段から乗り慣れているのか、ふわりと馬に飛び乗った。
俺でも、そこまで美しく乗ることはできない……と、不覚にも思ってしまった。
「それでは、私も戻らなくてわ」
「まだ話は終わってない!」
「いいえ、終わりましたわ、王子とは」
(俺とは……終わった……だと?)
教会の女は、カシーの方に視線を向けた。
俺からは、カシーがどんな表情をしているのかが分からなかった。だが。
「必要な時、私は必ずあなた様をお助けしますわ。それまでごきげんよう、カサブランカ様」
(……っ!?この女、カサブランカの名前を知っているのか……!?)
もしかしたら、カシーが自分で名乗ったのかもしれない。
だが、それはあり得ないと、すぐに思い直す。
何故なら子供の頃、カシーは親からこう言われていたと、カシーから聞いていたから。
「私ね、お外に行ってもダメだし、名前も知らない人に言っちゃダメなんだって」
当時は意味がわからなくても、あの王からの真実を聞いた今では、理由は理解できる。
そしてカシーは、その言いつけを実直に守り続けてもいた。
カシーの名前を知っているのは、1000人は働いていると聞く城の中でも、俺と彼女の身の回りに関わる仕事をする、ごく一部だけだ。
俺が呼ぶ「カシー」を彼女の名前だと思っている人間の方が、圧倒的に多い。
そんなカサブランカが、教会の女に名前を名乗るのか……?
もし、この教会の女が、初めからカサブランカという名前を知っていたとしたら……?
俺は、急いで馬を走らせる。
一刻も早く、この女からカシーを離さなくては、と思ったから。
「あっ、あの……!!」
「舌を噛むぞ。話すな!」
「でも……!」
「話は後で聞く!しっかり捕まってろ!!!」
この時俺は、背後……教会の女がいる方向から得体の知れないプレッシャーを感じていた。
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