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File01 異世界で、科学捜査官ならぬ魔法捜査官になった件
#05 クロエさん その1
しおりを挟む──ものすごくヘン!
それが、はじめてクレイエラ王国の〈都〉を見た時の感想だった。
建物の多くは白い壁と赤い瓦屋根。道は不揃いの石をきれいに敷き詰めた石畳。
ヨーロッパの古い街みたいで雰囲気は明るく、賑やかだ。
ここは街のメインストリートらしく、大勢の人や馬車が行き交っている。
道行く人たちの中には鎧を着た戦士や、のじゃ子さんみたいなとんがり帽子にローブという魔法使い、そして人間以外の種族も混じっていた。
金髪で長い耳のエルフ。小柄だけどがっしりしたドワーフ……。他にも色々な種族がいたけど、ファンタジーのファの字も知らないオレにはわからない。
とまあここまでは二十一世紀の日本人がイメージする「ファンタジー世界の街」そのものだった。
しかし、そこにとてつもない違和感があったのだ。
居酒屋『月の坂道』
靴屋『レプラホン』
肉屋『大山』
パン屋『アルフレッドの店』
日用雑貨『アラン』
大衆食堂『日の出』
お茶とハーブの店『みつば』
などなど……。
街のあちこちにある看板や標示・標識が、すべて日本語なのだ。
きっとのじゃ子さんに打ち込まれた〈スパイク〉が翻訳しているのだろう。
いかにも「ファンタジー世界の街」なのに、そこにある文字のすべてが漢字、ひらがな、カタカナばかりだから違和感がハンパない。まるで出来の悪いテーマパークにいるみたいだ。
「どけどけ!」
突然の怒鳴り声。振り向くと、すぐ後ろに穀物袋を満載した荷馬車があった。
道を空けようとして固まってしまった。
その荷馬車は一頭の馬が牽いていたのだが、なんとその馬は木で出来ていた!
メリーゴーランドとかの木彫りの馬じゃない。無数のパーツを組み合わせ、関節の動きも本物と同じように作られたその姿は、まるでロボットだ。魔法で動く、木で出来た馬ロボットだ。
呆気にとられ、後じさりながら道を空ける。オレの目の前を、ロボットの馬が牽く馬車が通りすぎて行く。
よく見たら、他の荷馬車も同じだった。木で出来たロボット馬が荷車や箱馬車を牽いている。
肉屋の『大山』では店先で串に刺した肉を焼いているのだが、そのグリルには魔法陣が微かに浮かび上がっている。薪とか炭じゃなく、魔法の火で焼いているんだ。
上を見れば、青と白の半透明な小鳥が飛び交っていた。
後で知ったのだが、それはメールバードという魔法の手紙だった。封筒に魔法がかけられていて、宛先まで小鳥に変身して飛んで行くのである。
「ほんとうに、違う世界に来たんだ……」
あらためてそう思う。しかし街には日本語があふれている。
ヘンだ。ものすごくヘンだ!
なんか頭がくらくらしてきた。そこに──
どん、と何かにぶつかった。固くてデカいものだ。
「うえっ!?」
壁かと思ったら人間だった。
身長は二メートルを超えていて、装甲板みたいなゴツい鎧を着ている。全身が筋肉の塊みたいなマッチョで、ひげ面の顔はゴツい。
──マッチョのヒゲダルマ。
思わず、そんな言葉が頭に浮かんだ。
「貴様、見かけない顔だな」
ギロリ、とヒゲダルマがオレをにらんだ。
あまりの迫力に、オレは声も出せず震え上がった。
「またか」
「団長は誰でもそう言うよな」
そばにいた同じデザインの──でもずっと軽量な鎧をつけた男たちが言った。
団長?
あらためて連中を見ると、鎧には簡素だが金と銀の装飾がされていて、赤いマントをしている。
騎士だ。
この男たちは王国を守る騎士団だ。騎士団長が悪役プロレスラーみたいだから騎士だと思えなかったけど。
「コイツ、キョロキョロオドオドして…見るからにあやしいぞ」
二メートル超えのひげ面の大男ににらまれて、キョドらないヤツはいないと思う。
「よぉし、わかった!」
ばんっ! と団長が手を打った。
「貴様が犯人だな!」
「へ?」
「連行しろ!」
「ま、待って! 犯人ってなんの?」
「しらばっくれるな! 話しは後で聞いてやる」
わけがわからないまま、オレは騎士たちに両脇を抱え上げられた。どんなにもがいても振りほどけない。
「ちょ…まって! 話を聞いてくれぇえええ!」
まさに問答無用。聞く耳持たないとはこのことだ。
騎士たちはオレの抗議を無視して連行していった。
オレが連行されたのは街の外れ、河の中州にある牢獄だった。
岩の塊みたいな見るからに頑丈で威圧感のある建物は、元は砦だったという。
薄暗い石の壁の廊下にずらりと並ぶ鉄格子の檻。その一つに、オレは文字通り放り込まれた。
石の床に投げ出されて、肘やら肩やらをぶつけてとても痛い。
でも、今はそんなことに構ってられない。
「オレは無実だ!」
鉄格子をつかんで叫ぶ。
不安だった。とにかくおそろしかったのだ。
薄暗い牢に加え、入り口の辺りには手枷やら拷問の道具やらが、これ見よがしに置いてあるのだ。
「出せ! 弁護士を呼んでくれ!」
鉄格子を揺さぶって叫ぶ。そこに──
「もぉ、うるさいわね」
と、気怠げな声がした。
「だ、誰?」
あまりに静かだったので、他に誰かいるとは思わなかった。しかも声は若い女性のものだった。
声がしたのははす向かいの牢からだった。
鉄格子の向こう、ベッド代わりの木のベンチに、のっそりと起き上がる人影が見えた。
オレは息を呑んだ。
人間? それともファンタジー世界特有の異種族なのか?
青みがかった灰色の肌。薄暗い牢の中で銀色の髪がさらりと揺れ、ルビーみたいな赤い瞳がオレを見つめている。
黒いローブを着ているのだけど、その下の服は水着か下着かっていうくらい布地が少ない。
豊かな胸の谷間。くびれた腰。むきだしの太もも……オレは状況も忘れ、彼女に見とれてしまった。彼女はあまりに異質で、そしてキレイだった。
「人に名を聞く前に、自分から名乗ったら?」
片手で前髪をかき上げながら彼女が言う。
ぞくっとするほどセクシーだった。
──妖艶。
というワードが頭に浮かんだ。
「オレは惣太。南城乃 惣太」
緊張で声が上ずってしまう。ドキドキが止まらない。
「ソータ…ヘンな名。この国の人じゃないわね。」
「この国どころか、別の世界から来たんだよ」
「マロウドってヤツ? ほんとにいるのね」
彼女は驚きに目を見開いた。見た目はセクシーなお姉さんだけど、リアクションは子どもっぽい。
「あなたは?」
妖艶さと子どもっぽさ。そのギャップにドキドキしながらオレは尋ねた。
「クロエよ。ネクロマンサーのクロエ」
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