まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File01 異世界で、科学捜査官ならぬ魔法捜査官になった件

#04 のじゃ子さん その2

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「稀によくあるのじゃ。異なる世界からこちらに迷い込む者が。おぬしの世界では、異世界転移と呼んでいたかな。われらは『稀迷客マロウド』と呼んでおる」
「なんてこった……」

 オレは頭を抱えた。

「どうしてこんな世界に来ちゃったんだよ……」
「星の位置。次元障壁のほころび。力ある者による召喚。……理由は様々じゃが、おぬしの場合はたまたまじゃな」
「たまたま…なのは仕方ないとして、なんでファンタジー世界なんだよ?」
「は?」
「いや、異世界に飛ばされるとか、転生するとかって、どうしてファンタジー世界ばっかなんだよ? 禁酒法時代のFBIとか、スコットランドヤードの刑事とかあってもいいじゃないか!」
「何を言っとるのじゃ?」
「はぁ…どうせならハリーやリッグスみたいなスーパーコップにしてくれよ。剣と魔法とかふざけた世界じゃなくてさ」
「……ふざけた世界で悪かったの」

 不機嫌な声で言うと、のじゃ子さんは何かつぶやいた。

「えっ?」

 小さなのじゃ子さんの人差し指。その指先に金色の光がともった。

 金色の光がともる指で、のじゃ子さんが空中に不思議な文字を描く。光の残像ではなく、文字がそのまま空中に残っている。流れるように、なめらかに、光る指が空中に描く文字は数式のようだった。

 瞬く間に、ざっと五〇センチ四方の空間が光る数式に埋め尽くされた。最後に、フィニッシュとばかり、のじゃ子さんの光る指先が、空間に二本の平行線を描いた。すると──

「うわわわ!?」

 のじゃ子さんが巨大化した!

 みるみる大きくなる。その身長一〇メートル以上──いや違う。足下にあった草も一〇倍くらいの大きさになっている。オレが縮んだんだ!

「え? えぇえーっ?」

 おまけに、どういうわけか身体が動かない。手も足もぴくりともしない。

「コップになりたいと申したな? その願い、叶えてやったぞ」

 悪戯っ子みたいな笑顔でのじゃ子さんは言うと、鞄の中から小さな鏡を取り出した。

「な…っ!」

 そこに映っている自分の姿に、オレは絶句した。

 ──オレはコップになっていた。

 ガラス製の、いわゆるタンブラーってヤツだ。

 どうりで身動きできないわけだ。手足もないんだから。

 いやでも目もないのにどうして鏡に映る自分が見えているんだ? 口もないのに絶叫できるんだ?

 あまりのことにそんなことを考えていると、

「ちとノドが渇いたの。せっかくじゃ使ってやろう」

 のじゃ子さんはそう言うと、水筒からオレの中に水をそそいだ。

「わひゃあああ!」

 冷たい水が自分の中にそそがれるという、経験したことのない感覚に、おかしな声を上げてしまう。そして──

「わー! ちょっと待って!」

 のじゃ子さんがコップになったオレを手に取り、口に近づけてゆく。

 どういうわけか、身体がコップになっても、どこが手足でどこが目や鼻かということがわかっている。

「そこ! そこオレの口、唇っ! ダメ!」

 のじゃ子さんが唇が触れようとしているのは、オレの唇にあたる場所だった。

「なんじゃ、情けない声を出しおって。わしからすれば、おぬしなぞ赤子も同然。はずかしがることなぞない」
「ああっ! ダメ!」

 もがき、あがこうとしても、文字通り手も足も出ない。

「いやぁあああ!」

 オレの叫びはのじゃ子さんの口にふさがれてしまった。


     ×   ×   ×


「シクシク…はじめてのキスが老女な幼女だなんて……」
「いつまで泣いておる。とっとと行くぞ」

 魔法を解除され、コップから人間に戻ったオレにのじゃこさんが言った。

「行くって…どこへ?」
「〈みやこ〉じゃ。まずはこの世界での生活の基盤を作らんとな」

 〈都〉って、この国の首都かな。

 ……生活の基盤?

「って、オレは元の世界に戻れないんですか?」

 目の前が真っ暗になった。

 海外旅行すらしたことのないオレが、ファンタジーな世界で生活するだなんて……。

「マロウドは必ず元いた世界に還る。それは世界の摂理じゃ」
「え、戻れるの? いつですか?」
「それはわからん。数日で還った者もおれば一〇一年かかった者もおる」
「ひゃ、ひゃくぅ!?」

 ヘタすると一生戻れないってことじゃないか。ていうか、その人、エラい長生きしたな。

 ……長生き?

「そうだ! のじゃ子さんは大賢者なんでしょ? 魔法でなんとかできません?」
「それは世界の摂理を乱すことになる」

 すがるオレにのじゃ子さんは静かに言った。

「マロウドが現れることには意味がある。この世界で果たすべき役割があるのじゃ。それを無視して送り返せば、どんな反動があるかわからぬ」
「なんだ役に立たねぇな……」

 思わず漏らしたオレの一言に、のじゃ子さんの眼が鋭く細められた。

「方法はないでもない──」

 そう言うとのじゃ子さんは肩から提げている鞄に手を入れた。
 何か魔法のアイテムでも取り出すのか?

「……?」

 ずるずると長い棒が引き出されている。どう見ても鞄に入る長さじゃ──いや棒じゃない、棒の先に大きな刃が直角についている。鎌だ。バカデカい鎌だ!

 刃の長さは一メートル以上、柄はのじゃ子さんの身長より長い。まるで死神の鎌だ。

「マロウドは、死ぬと元の世界に転生する」

 ぶおん! と空気が鳴った。

 デカい鎌を、のじゃ子さんは重さがないように軽々と振るうと、ピタリと刃をオレの首筋に押し当てた。

「赤子から人生やり直したいなら、叶えてやるぞ?」

 唇をつり上げて笑うのじゃ子さん。

 怖い。すげぇ怖い。

 小さな女の子が、死神そのものに見えた。

「ひぃいいい! ごめんなさい! 謝ります! 許して下さい」

 両手を合わせて、拝み、許しを請う。

「わかればよい」

 にっこり笑うとのじゃ子さんは大鎌を鞄にしまった。

 五〇〇歳を超える大賢者というのは本当だ。

 あの迫力、あの凄み。子どもに出せるものじゃない。

 大きく息を吐いたオレをよそに、のじゃ子さんはまた空中に光る数式を書きはじめた。

 後で聞いたが、彼女が使うのは秘文ルーン魔法というタイプの魔法だった。
 空間に満ちるエネルギーを取り出し、これを様々な力に変換して使用するという魔法だ。

 魔法が完成し、地面に光る魔法陣が現れた。

「すげぇ」
転移門テレポートゲートじゃ」

 驚くオレにのじゃ子さんが告げた。

 光る魔法陣の直径一・五メートルくらい。三重の円の中に魔法っぽい文字がびっしりとあって、ゆっくりと回転している。
 均整の取れた美しさっていうのだろうか。キレイで、そしてカッコイイ。

「即席のゲートは不安定じゃ。わしの手を離すでないぞ?」

 オレの手をのじゃ子さんが握った。

「なんか恥ずかしいな……」

 小さくて細い、のじゃ子さんの手。
 大賢者だとわかっていても、小さな子に手を引いてもらうのは恥ずかしいものがある。

「ふふん、さてはおぬし、まだ女を知らんな?」
「ぎくっ」

 別にのじゃ子さんにときめいたり、興奮したわけではない。しかし、その言葉に思わず反応してしまった。

「なら、わしが教えてやろうか? んん?」

 下からオレの顔をのぞき込むのじゃ子さん。

「遠慮します。ロリとかペドの烙印を押されたくない」

 目を逸らしたオレに、のじゃ子さんは含み笑いをする。

「ふふふ、照れずともよい。大賢者たるわしの相手をできる男なぞ一〇〇年に一人もおらんのだぞ?」
「彼氏なし歴一〇〇年ですか。さびしい人生送ってますね」
「ドーテーに言われたくないわ!」

 のじゃ子さんが怒鳴ってオレの尻に蹴りを入れた。

「あっ」
「え?」

 その弾みで握っていた手が離れ、オレは魔法陣の中に落っこちた。

 そう、魔法陣の中に地面はなかったのだ!

「わぁああああ?」

 いきなり視界が真っ暗になった。

 闇の中を、オレはどこまでも落下してゆく。

 しかしそれは一瞬のことで、すぐに光が戻った。

「いてっ!」

 尻餅ついた地面は固かった。
 けっこう痛い。しかしそんな痛みはすぐに消し飛んでしまった。

「な…!」

 ──石畳の通りとそこを行き交う大勢の人と馬車。
 白い壁と赤い瓦屋根の街並み。

 都会だ。ファンタジー世界の都市だ。
 のじゃ子さんが言っていた〈都〉に違いない。

「のじゃ子さん?」

 はっとして辺りを見回す。

 だが、とんがり帽子の魔法使い幼女の姿はなかった。

 オレはただ一人、ファンタジーな国の首都に放り出されてしまったのだ!

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