まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件

#02 まさかのピンチ!

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 ラボを出たオレとのじゃ子さんは、事件現場近くの詰め所へと向かった。

「この国の治安維持は騎士団が担っている」

 のじゃ子さんから説明を受けながら、表通り──ホレイショー通りに出る。

 別名、職人通りとも呼ばれるホレイショー通り。
 左右に靴や服、アクセサリーを作る工房が並んでいる。そこに武器や鎧、魔法具を作る店が混じっているあたりファンタジー世界だな、と思う。

「組織は騎士団長を頂点に、各管区の責任者である騎士長、その下に騎士、衛士そして護民兵がおる」

 のじゃ子さんの説明を聞いたオレは、頭の中で、騎士団組織を日本の警察に当てはめてみた。

 騎士団長:警視総監。

 騎士長:所轄の警察署長。

 騎士:警部、警部補などの刑事たちのリーダー。

 衛士:刑事。

 護民兵:ヒラの警官。

 だいたいこんな感じだ。

 オレたちの世界と違うところは、騎士と衛士は貴族/準貴族で、護民兵は平民という身分差があること。
 あと護民兵の給料は、国じゃなく担当する地区や街から出ているという。手当てのある自警団って感じだ。
 当てはめてみたけど、結構違うな。

 通りを抜け、船着き場で小舟に乗る。

 魔捜研のラボがある〈都〉の中央区は、二重の運河とそこから別れた水路が無数にあって、タクシーやバスのような小舟が行き来している。

 オレとのじゃ子さんが乗ったのは3、4人乗りの一番小さな船だった。
 料金は日本円にすると数千円くらいするので、はじめに現場行った時はもったいなくて使わなかったのだ。

「どうした?」
「こういう船に乗るのはじめてで」

 小さくて細いボートだ。こわいわけじゃないけど、ちょっと躊躇ってしまう。

「あんちゃん、上京したてかい?」

 船頭のおじさんが笑って言う。

 むう…田舎者だと笑われた気分。

 のじゃ子さんが舳先へさきのほう、オレがまん中の当たりに乗ると、小舟は静かに進み始めた。

 んん?

 船が動き出してオールを漕ぐ音がしないことに気づいた。

 振り向くと、船頭はオールに手をかけているだけで漕いでいない。でも、小舟は現在進行形で加速している。

「この船、魔法で動いているんですか?」

 思わず、声を上げてしまった。

「船底に水流を作る魔法がしかけてあるのじゃ」

 オレの方を振り向いてのじゃ子さんが説明する。

「船頭がオールに魔力を注ぐと起動する仕組みじゃ。オールは起動スイッチであり、動き出してからは舵となる」

 この船は、魔法のモーターボートってわけか。

「あんちゃんの田舎じゃ、まだ手漕ぎ使ってるのかい」

 のじゃ子さんの説明に続いて、船頭が驚いたように言った。

「船頭さんって、そういう専門の魔法使いなんですか?」
「まさか! オレはフツーの一般人だよ」

 一般人が、魔法の乗り物を動かせる。魔法の機械が、普通に身の回りにある。
 ここはまさに魔法文明の世界なんだな。

「そうだ、試しにあんちゃんも漕いでみるか?」
「いいの?」
「舵取りには経験が要るが、動かすだけなら簡単だぜ」

 小舟が水路の端に寄り、停止した。
 船頭と場所を替わり、オレはオールに手を掛けた。ちょっとワクワクする。 

「ようし…動け~!」

 声に出して、船よ動け、前進しろと念ずる。

 しかし、船は動かなかった。

「動け~! 動け~! 動けよぉ~!」

 一心不乱に念ずる。しかし船はまったく動かない。横にゆれるだけだ。
 頭の上を、半透明のメールバードたちが飛んで行く。

「大丈夫か? 病気じゃねぇのか?」
「こやつはマロウド──別の世界から来た者ゆえ、魔力が低いのじゃろう」

 心配する船頭にのじゃ子さんが言う。

「しかしここまで低いとはな」

 ガックリ来たオレを、のじゃ子さんがかわいそうなものを見る目で見た。 


     2


 殺人現場のあるダンカン通りで船を下りたオレとのじゃ子さんは、現場近くの衛士詰め所へと向かった。

「あれが詰め所じゃ」

 のじゃ子さんが通りのカドにある二階建ての建物を指差した。

「なんか普通の建物ですね」

 交番のような施設だと思っていたけど、周りの建物と違いがない。
 そういう施設だと示すロゴとかマークとかがないせいだろう。

 木のドアを開けて中に入ると受付カウンターがあった。

 のじゃ子さんが「うーん」と手を伸ばして呼び鈴を鳴らすと、

「へーい」

 という太い声がして、奥から背の低いじいさんとばあさんが出て来た。

 ドワーフだ。
 ファンタジーのファの字も知らないオレでも、なんとなく知っている。
 この世界でもドワーフは、背が低く、いかつい身体をしていて工芸に秀でた種族だという。

「護民兵に話を聞きたいのじゃが」

 のじゃ子さんが魔捜研の身分証を取り出して言う。オレもあわてて取り出して見せた。
 魔捜研の身分証は見た目、日本の警察手帳に似ている。革製で、開いて金属製の記章バッジを見せるとこも同じだ。

 ドワーフ二人は目を細めてオレたちの身分証を見ると、

「今はみんな出払ってます」
「巡回ついでの昼メシです」

 無愛想に言った。

「そういえばそんな時間じゃな。出直すとするか」

 のじゃ子さんに促され、オレは外に出た。

「さっきの二人は護民兵じゃないんですか?」
「護民兵が雇っている手下じゃ。表向きは護民兵の助手じゃが子分みたいなものじゃな。裏社会に通じている者も多く、情報収拾やらなんやらしておるのじゃ」
「ああ、なるほど」

 護民兵ってのは時代劇に出て来る岡っ引きみたいなものなんだな。
 詰め所は番屋、さっきのドワーフたちは下っ引きというわけだ。騎士団長は町奉行で騎士長が与力。騎士と衛士は同心って感じだろう。
 うん、このほうが近い気がする。

「新しい店が出来ておるの。ランチはここにするか」

 のじゃ子さんが指差したのは、詰め所の向かいにある店だった。

「なんか高級そうな店ですけど」

 見るからに高級レストランという店にオレはちょっとひるんだ。

「わしは大賢者じゃぞ。払いは気にするな」

 のじゃ子さんは小さな胸を張ると、先に立ってレストランへと向かった。


     3


 のじゃ子さんが前に立つと、金縁のガラス戸がひとりでに開いた。

 自動ドアだ。
 このドアも魔法で動いているのだろう。

「いらっしゃいませ」

 中に入ると、上品なウェイターに迎えられた。
 これまで大衆食堂しか入ったことなかったオレは、それだけで緊張してしまう。

「すいません、トイレはどこですか?」

 緊張で急にもよおしてしまった。

 ウェイターが示したほうに早足で向かう。さっきまでなんともなかったのに、意識すると尿意が増すのは何故なんだろう。

「あれ?」

 トイレのドアを開けようとして、ノブもハンドルもないことに気づいた。引き戸だとしても手をかけるヘコみがない。

「え? ええっ?」

 押したり、手を当ててスライドさせようとしても動かない。

「まさかこのドア、魔力で開く自動ドア?」

 オレは青くなった。

 異世界人のオレは魔力が低い。だけど自動ドア──日常生活でスイッチのオン/オフもできないくらい弱かったのか!

「開け! 開いてくれ!」

 もよおしてくる尿意に内股になりながら、オレはドアをゆすった。
 マズい! 尿意がますます増している…!

「お前! そこで何をしている!」

 突然、後ろで女の子の声が上がった。

 振り向くと、赤い髪の女の子がオレをにらんでいた。
 年齢は高校生くらい。たぶん15、6歳だろう。黒のベストを着ている。

「何って、ドアがあか…っ!」

 尿意をこらえるのに必死で、うまく言えない。額に脂汗が浮かんでいるのがわかる。

「怪しいヤツ!」

 彼女は腰から細いこん棒のようなものを抜き、オレに突きつけた。

「アタイに見つかったのが運の尽きだ! 神妙にしやがれっ!」

 なんだこの子? 用心棒か?

 いや、そんなことより尿意が! 尿意がっ! マジで…限界…っ!

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