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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件
#07 第一の容疑者と幸運を招く像
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騎士団が捕えたのは船頭のガスだった。
オレたちは、捜査の指揮を執る衛士のシドに呼び出された。
「船頭のガスは、ある品を巡ってヨナと揉めていたことが分かった」
シドの旦那は60を越えた年輩…というかじいさんだった。身体は細く、軽装な衛士用鎧が重たそうに見えた。
「ある品ってなんだい? 旦那」
「招福像──いわゆるラッキーグリフォンとかいうものだ」
ペイジの問いにシドの旦那が答えた。
「招福像って、ケット・シーの護符とか置物みたいもの?」
オレは一緒に来たクロエさんに尋ねた。
今回、魔捜研から現場入りするのはオレとクロエさんの二人。
「幸運を招くエウダイモニウムを固めて作ったものよ。昔は色んな形のものがあったんだけど、グリフォンの形のものがバカ当たりしてから、そればっかりになってね。今はラッキーグリフォンって呼ばれているのよ」
オレたちの世界の七福神とか招き猫みたいなものか。
「幸運を招くアイテムがあるなんて、さすが魔法のある異世界だな。やっぱりどこかの神殿が作っているんですか?」
「作っているのは石工ギルドよ」
「へ?」
「エウダイモニウムが幸運を招くっていうのも民間伝承だしね。魔法的な根拠はないわ」
ま、魔法的な根拠?
「統計的には多少の御利益があるらしいって研究もあるけど、どこまでホントだかねぇ」
ペイジが会話に加わった。
「信じてるヤツも多いけど、アタイに言わせりゃ非魔法的だな」
「疑似魔法、エセ魔法の類いよね」
うわぁ…神の奇跡を行う聖女と死者の霊を呼ぶネクロマンサーが、幸運を呼ぶアイテムを否定しているよ。非魔法的ってのは非科学的の異世界バージョンか?
「その幸運の置物で、ガスが被害者と揉めていたのは何故ですか?」
「招福像にはランクがあり、問題のグリフォン像は特級品で一点物。購入希望者たちが競り合うことで値段が決まる」
限定品のオークションみたいな感じか。
「ガスはヨナに僅差で競り負けた。だが諦められず、グリフォン像を譲ってくれとしつこく押しかけていた。しまいには脅しめいたことも言ったらしい」
マニア同士の限定品を巡るトラブルが殺人に…あっちの世界でもありそうな事件だ。
「ガスの身柄はすでに押さえた。尋問はこちらで行う」
「オレたち魔捜研は何を?」
「ガスの家の捜索だ。ガスが犯人だという証拠を見つけてもらいたい」
シドの旦那は、前に会った護民兵たちより話が通じる人のようだ。オレたち魔捜研を敵視したり、バカにしたりする様子はない。
「ペイジは案内を頼む」
「ガッテン!」
というわけで、オレとクロエさんはペイジの案内で、ガスの家へと向かった。
2
ガスの家は運河沿いにあった。
石と木で作られた小さな家で、裏が船着き場になっていて、小舟が一艘つないである。
ペイジが言うには典型的な船頭の家だそうだ。あっちの世界で例えると個人タクシーみたいなものだろう。
「ガスは36歳。女房子どもはなく、独り暮らしだ」
「男の独り暮らしって割りには片付いてるわね」
ペイジの説明に、クロエさんが言う。
「片付いてるというか、何にもないんじゃないの? この家」
リビングとつながったキッチン。そのどちらにも最低限の家具と物しかない。
「引っ越し前の家みてぇだ。グリフォン像を買うため、売れるものはみんな売っぱらったな」
光を入れるため窓を開けながらペイジがつぶやく。
「ソータ。あれ」
クロエさんが奥の壁を指差した。
その壁は棚になっていて、そこにいくつもの像が並んでいた。
──グリフォン。
頭はワシ。身体はライオン。背中には大きな翼。ファンタジーのファの字も知らないオレでも見覚えがあるモンスターだ。
そのグリフォン像が5つほど棚に並んでいた。
「これがラッキーグリフォンか」
大きさは猫くらい。ポーズは多少違っているけど材質はどれも同じで、黒く重たそうな質感は石みたいだ。
「なんか地味だな」
幸福を招くっていうから、紅白や金ピカだと思っていた。おめでたいというより重厚って感じだ。
「台座を見て。この形、凶器にピッタリよ」
「あっ!」
クロエさんに言われて気づいた。
どのグリフォン像も台座と一体化していて、その台座の形はまさに「カドがあるけど尖っていないもの」だった。
「よし!」
オレはサミちゃんが作ってくれたルミノール液を取り出した。
証拠品に吹きかけられるようフタは霧吹き器になっている。
まず右端のグリフォン像にルミノール液をかけ…ようとして、手が止まった。
この像が、人を殴り殺した凶器かもしれない。そう思ったら、こわくなったのだ。
「どした?」
ペイジが首をかしげてオレの顔をのぞき込む。
「ひょっとしてビビってる」
反対側から、ニヤニヤ笑うクロエさんが顔を寄せる。
どっちも近い!
「な、なんでもないよぉ!」
あわてて二人から距離を取った。恐怖とは違う理由で心臓がバクバクいってる。
「やるよ!」
落ち着くため、声に出して言い、右端のグリフォン像にルミノール液を噴射する。
「……光らないわね」
「じゃあ次だ」
隣のグリフォン像にルミノールをかける。
……こいつも反応ナシ。
「じゃあ次」
三番目のグリフォン像も反応ナシだった。
四番目、そして最後のグリフォン像。
すべてのグリフォン像から血液反応は出なかった。
3
どのグリフォン像も凶器じゃなかった。
オレたちは、他に凶器になりそうなものを探し、調べた。
船の碇。戸締まりに使う心張り棒。光魔法のランタン。そのどれも反応がなかった。
「ガスの家に凶器はなかった」
オレたちはガスの家を出て、ダンカン通りの護民兵詰め所へ向かった。
「ガスは犯人じゃなかったってことか」
「次は誰を調べる?」
クロエさんが聞いてきた。
ガスの家を調べる前、シドの旦那と決めていた。
ガスの家から凶器が出なかったら、他の容疑者の家を調べると。
他の容疑者は二人。被害者の奥さんと酒飲みのコールだ。
「……酒飲みのコールにしよう」
少し考えてオレは言った。
「理由は?」
じっとクロエさんがオレを見つめた。
「それは……」
「ソータは、奥さんが犯人じゃなければいい…そう思うから、コールを先にしたのね」
その通りだ。
刑事ドラマで被害者の奥さんが犯人ってパターンは割とある。その場合、あんまり聞きたくない鬱なエピソードが語られる。
ああいうのをリアルで見るのはイヤだ。
だからコールが犯人だったら…と期待して、彼の家を先にしようと思ったのだ。
「どっちが先でもいいじゃねぇか」
ペイジが声を上げた。
「コールの家のほうが遠いが、こういうのは遠いほうから片付けたほうが気がラクだ。そうしよう!」
「あんたも、ソータと同じか」
クロエさんの指摘に、ぎくっとなるペイジ。。
「できれば、顔見知りをお縄にしたくねェからな」
「こんな甘ちゃんが二人で捜査だなんて、心配になるわね」
そう言いながらも、クロエさんの表情は優しかった。
× × ×
詰め所で、ガスの家に凶器はなかったと報告。彼はすぐに釈放された。
「お嬢、ちょいと」
「どうしたハッチ、ハンナ?」
ハッチとハンナ。このドワーフの老夫婦は、ペイジの父親の助手だった。時代劇ふうに言うと下っ引きだ。
親父さんが追放された後も、ペイジの下っ引きをやっている義理堅い夫婦である。
「サナ──ガイシャの奥さんが、犯行時刻、テージャスの神殿で目撃されてやす」
「奥さんにアリバイがあったのか」
ほっとすると同時に疑問がわいた。
「奥さんは神殿で何してたんだ?」
犯行時間は深夜。なんでそんな時間、女性がひとりで神殿にいたんだ?
「離婚の申し立てじゃない? テージャスの神殿は縁切り寺だから」
「離婚したい妻が申し立てをして、神殿が正当だと認めたら武装神官が出向いて離婚の手続きをすンだよ」
クロエさんに続いてペイジが説明する。
「死んだ旦那は、ラッキーグリフォンの蒐集家で、借金してでも買ってたンだ。で、奥さんとはそれでよくケンカしてた。あの日は、とうとう頭にきてテージャスに離婚の申し立てに行ったんだろう」
「だけど、神殿まで来たら迷いが出たんでしょう」
ペイジに続けてハッチが言う。
「証人はミルトンって流れ者。職にあぶれて神殿の世話になってる男でさ。そいつが夜中、門前で入るかどうか迷っている様子のサナさんを見ている」
「頭に血ぃ上って神殿まで来たけど、いざその場に来たら頭が冷えたんですよ。夫婦やってりゃ一度や二度はありますよ」
ハッチ、そしてハンナがうなずきながら言った。
神殿なのに縁切り寺とか、武装した神官が離婚届持ってきてサインを迫るとか、ツッコミたいところはあるが……とにかく、奥さんにはちゃんとしたアリバイがあって良かった。
「残る容疑者はコールだけだ。彼の家の調査に行こう!」
「ガッテンだ!」
不安がなくなったオレとペイジは、足取りも軽く歩き出した。
「これでコールの家でも凶器が出なかったら、笑っちゃうわね」
後ろでぼそっとクロエさんがつぶやく。
いや、笑えませんてクロエさん……。
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