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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件
#08 第二の容疑者 酒飲みのコール
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オレとクロエさんそしてペイジが、第二の容疑者コールが住んでいるユシアの町に到着したのは、そろそろ日が暮れようという時間だった。
コールが住むのは低所得者向けの集合住宅だった。
「……団地みたい」
四角い、シンプルなデザインの4階建ての建物。それがいくつも並んでいる姿は、あっちの世界の団地によく似ている。
違うのは、1階が商店や倉庫になっていること。あと家賃は上の階ほど安い、ということだった。
「コールは職と住み処を転々としているヤツで、〈都〉の市民になったのは一昨年。歳も40代くらいだってことしかわからねぇ」
四角い建物のひとつを見上げてペイジが言う。
この4階にコールが住む部屋がある。
「家族はいないの?」
クロエさんが尋ねた。
「独り暮らしだ。親しいヤツもあまりいねぇ。酒癖が悪いって話しだからな」
答えながら、ペイジは建物に入ってゆく。オレとクロエさんが後に続く。
「意外とキレイなんだな」
予想に反して、建物の内も外もキレイだった。
低所得者向けの集合住宅というから、アメリカの刑事ドラマに出て来るスラムみたいな場所を想像していたのだけど。
「清掃は週に二度。手伝うと賃金がもらえるから、小遣い、飲み代がほしいヤツは進んで手伝うって寸法さ」
「なるほど」
ペイジによると、この団地はいわゆる国営で、貧民対策の一環として、前の王さまリカルド王が作らせたものだという。
前王リカルドはいわゆる名君で、国を住みよく豊かにする改革、政策を多く行ったことで「英明王」とも呼ばれている。
話している内に4階に着いた。
「ふぅ……」
階段を上りきったところで、クロエさんが息をついた。ちょっと色っぽい。
この世界には魔法動力のエレベーターはあるけど、ここの建物にはない。たから家賃が安いんだろう。オレも、足がちょっと張っている。
「こっちだ」
一方、ペイジは平気な様子だった。オレにあれこれ説明しながら階段を上がっていたのに、息も乱してない。さすが岡っ引き、いや護民兵だな。
「護民兵だ。コール、いるか?」
奥の部屋のドアをドンドン、と乱暴にたたいてペイジが怒鳴る。
しかし、返事はない。
「やっぱ、いねぇのか」
つぶやいて、ペイジは管理人から借りておいたマスターキーを取り出した。
「お上の御用だ。鍵貸してくんな」
ペイジがそう言っただけで管理人がマスターキーを渡したのには驚いたな。
護民兵の黒ベストが身分証で、令状もナシで家宅捜索ができるんだ。
刑事ドラマでは、礼状ナシで捜索して怒られたり、礼状が下りなくてイライラする状況がよくある。
みてた時はイライラして、法律って面倒だなって思ってた。
けど、こうしてホイホイ家宅捜索ができてしまうと、ちょっとこわくなる。
鍵を開けると、ペイジは念のためこん棒を手にした。
そして、ゆっくりとドアを開けた。
2
薄暗い部屋は無人だった。
コールが暮らしている部屋は広さが10畳くらい。入ってすぐに小さなキッチンが付いたダイニング兼リビング。奥が狭い寝室という構成だった。
あっちの世界でオレが暮らしていたアパートより広い。でもこっちの団地はバスとトイレは共同だという。
家具や物が少ないから、室内はがらんとしていた。部屋のすみにはゴミや酒の空き瓶がいくつも転がっている。
「ヤニくせぇ」
入ってすぐ、ペイジが顔をしかめた。
薄暗い部屋の中は、タバコと酒のにおいが充満していた。テーブルの上の小皿にはタバコの吸い殻が山盛りになっている。
「安物ばかりね」
酒の空き瓶を眺めてクロエさんが言う。
「コロシの凶器は酒瓶って可能性は?」
ふと思いついてクロエさんに尋ねた。
「大きなものなら。あとは中身がいっぱい入ったものならあり得るわね」
可能性はあるってことか。
「とっとと探すぜ」
窓を開けてペイジが言う。新鮮な空気と一緒に、日暮れの赤い光が入って来る。
凶器になりそうな、重くてカドのあるものを集めて、ダイニングの小さなテーブルに乗せる。
空き瓶が二本と、重そうな金属の塊が二つ。
「これは?」
「こいつは金床だ。こっちは鋳造型だ」
ペイジが説明する。
「へぇ、こんな金床ってあるんだ」
オレが知ってる金床は、小学校の図工室にあった片方がツノみたいにとんがってるものだった。コールの家にあった金床はツノがなく四角いシンプルなものだった。大きさも15センチくらいと小さい。
「コールはアクセサリの職人らしいな」
なるほど。鋳造型は文字通り、溶かした金属を流し込む型か。
酒瓶、金床、鋳造型の順でルミノールをかけてみる。
「どれも反応ナシか……」
だけど、どれからもルミノール反応は出なかった。
酒瓶や金床をひっくり返したり、上も下も前も後ろも見てみるけど、光ってる場所はない。
コールは犯人じゃないのか? だとしたら──
「おい」
ペイジが声を上げた。
「光ってるぜ?」
「え?」
ペイジが指差す先、テーブルの上に青白い、ぼんやりとした光がいくつもあった。大きいのは指先ほどで、小さいのはギリギリ目で見えるかどうかっていうほど小さい。
酒瓶や金床にルミノールを噴射した時、テーブルの上にもかかってしまったのだろう。
気になったオレは、テーブル全体にルミノールをかけてみた。
「うわっ?」
テーブルのほぼ全体が光ってる!
これ、ちょっと手を切ったって量じゃないぞ?
「魚かトリでも捌いたのか?」
「あるいは人…とか……!」
オレは飛び退くようにテーブルから離れた。自分で言ってこわくなったのだ。
ペイジもぞっとした顔でテーブルを見ている。
まさか? まさかコールってのはシリアルキラーじゃないよな?
「違うわよ」
クロエさんは笑うと、テーブルに近づいた。
「この部屋には、血のにおいも肉の腐敗臭もしないもの」
「わかるの?」
「ネクロマンサーよ、アタシは。血と屍臭には敏感なの」
赤い光の中、微笑むクロエさん。
ゾっとしながらも、その笑顔にオレは一瞬見とれてしまった。
クロエさんはテーブルに顔を寄せ、においを嗅いだ。
「ダイコン…かな? これ、テーブルの上にスープをぶちまけたのよ」
「あっ!」
思い出した。ルミノール液って血液以外にも、たとえば植物の酵素にも反応するんだった。たしかダイコン、ニンジンもだっけか。
「なんだ、こぼしたスープかよ。おどかしやがって」
ペイジがホッと吐息をついた。
オレも、おっかない妄想が外れてホッとした。
なんでも凶悪犯罪に結びつけるのは、刑事ドラマの見過ぎだな。
そう思った時だった。
オレたちの後ろで、ドアが開く音がした。
「「え?」」
振り向いたオレ、そしてドアを開けた男、二人同時に声が出た。
ドアを開けたのは40歳くらいの男だった。
ヨレヨレの服を半分はだけただらしない格好をしている。ぼさぼさの髪は黒色。こっちの世界ではわりと珍しい髪の色だ。
「お前、コールだな」
「うわわわ!」
ペイジが怒鳴った途端、男──コール(仮)は悲鳴のような声を上げ、逃げ出した。
10
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