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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件
#09 追跡! ゾンビー魚!
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「待ちやがれ!」
叫んでペイジはコールの後を追って駆け出した。
「何してるの! 追うのよ!」
と、クロエさんに背中を叩かれる。
「お、おう」
と、クロエさんと肩を並べてコールの部屋を飛び出した。
4階から3階へと階段を駆け下りる。3階から2階へ──
「うわっ!」
先行するペイジの声が上がった。
2階でドアを開けて出て来た住民とぶつかったらしい。
「悪い! ケガはねぇな? すまない!」
相手にケガがないことを確認して先を急ぐペイジ。
オレとクロエさんが2階から1階に続く階段の半ばに来た時、建物の外で左右をキョロキョロしているペイジの背中が見えた。
コールを見失ったんだ。右か左、どっちに行くか……。
「えぇい!」
ペイジが迷ったのは一瞬だった。叫んで右へと走り出す。
外に出たオレもペイジの背中を追いかけ──
「待った!」
ようとしたオレのえり首をクロエさんがつかんだ。
ぐえっ! となったオレに、
「同じほうに行ってどうするの! こっちよ!」
と、ペイジと反対方向に駆け出すクロエさん。
「そうだね!」
クロエさんの後を追い、団地みたいな四角い建物の向こう側に回り込む。コールの姿は──見えない。
でもクロエさんは走り続ける。夕陽の中、銀の髪が踊るように揺れる。オレはそれを追いかけ、そして横に並んだ。
左右に同じデザインの建物が並ぶ中、オレとクロエさんは駆けて行く。
建物と建物の間に来た。コールがいないか左右を確認するが、姿は見えない。オレたちは先へと進む。
コールはなぜ逃げた? ヤツが犯人なのか?
そんなことを思いながら、オレはワクワクしていた。
刑事ドラマで憧れた刑事になった気分だ。
「いた!」
団地を通り抜けたところで、コールの後ろ姿を見つけた。
ペイジを呼んだほうがいいか? ああ、でもスマホとかはないし!
その時、オレのすぐ隣でかん高い音がした。
クロエさんだった。二本の指をくわえて指笛を吹いたのだ。
ピッ! ピィイイーっ! と、最初は短く、次は長く吹く。すると遠くからピィイイーッ! ピッ! と長短を逆さにした笛の音が上がった。
時代劇で、岡っ引きが合図に吹く笛みたい…って、もしかして……。
「今のってペイジ?」
「護民兵が仲間を呼ぶ時の合図よ」
クロエさんは笑うと、もう一度、ピッ! ピィイイーっ! と指笛を鳴らした。
「よく知ってましたね」
そしてそれを指笛で行うなんて。やはり魔法使いって頭がいいんだな。
「護民兵には何度も追いかけられたからね。自然に覚えたの」
追いかけられる側だったんですか、クロエさん。
いきなりコールが振り返ってこっちを見た。
オレたちに気づいて、あわてて逃げ出す。
でもその走りはヨタヨタ、ヨロヨロと、歩くより少し早い程度だった。
中年だし、不健康な生活してるから息が上がってきたんだろう。それに比べてこっちは若くて活きが良いんだ!
「はぁはぁ……」
と、ドヤりたいところだけど、オレとクロエさんも同じようなものだった。
息が上がり、早足よりちょっと早いくらいの速度である。オレもクロエさんもインドア派だからな。
歩くより少し早いコールと、早足よりちょっと早いオレたち。
その差はじりじりと、でも確実に縮まって行く。
2
もう少しだ…!
そう思った時、進行方向に広い川が見えて来た。
川沿いには屋台みたいな小さな店がたくさん並んでいる。
この辺りはいわゆる下町で、移動・組み立て式の店で品物を売る人たちが集まっている。いわゆる市というやつだ。
「店じまい前だ。安くしとくよぉ!」
「さらってくれたら半値だよ!」
野菜売り、魚売りが声を上げている。
やっとオレたちはコールに追いついた。
コールはオレたちから逃げようとヨタヨタ走る。しかし彼の進行方向に、
「そこまでだ!」
ずざざざーっと足をドリフトさせてペイジが現れ、コールの行く手を塞いだ。
「お上の御用だ! 神妙にしやがれ!」
こん棒を抜いてペイジが叫ぶ。
コールは肩で息しながら、ペイジとオレ&クロエさんを見くらべた。そして、
「あっ!」
いきなり八百屋と魚屋の間に飛び込んだ。
露店のすぐ後ろは川だ。泳いで逃げる気か?
八百屋と魚屋の間に駆け込んだオレたちが見たのは、小舟を漕ぎ出すコールの姿だった。
「やられた!」
ペイジが地団駄ふむ。川をのぞきこんだけど、近くにオレたちで動かせそうな小舟はなかった。
「こういう時に使える魔法ありませんか?」
「アタシはネクロマンサーよ。霊も死体もないのにどうしろと?」
お手上げ、と両手を広げるクロエさん。
「ですよね」
と、ため息付いたその時、魚屋に並ぶ魚が目に入った。
赤や青、大小の魚が、魔法で作られた氷の上に乗せられて並んでいる。切り身はなく丸のままの魚ばかりだ。閉店間際ということで全部で10匹ほどだが。
「コレ、死体といえば死体だけど」
ぽろっとつぶやいてしまった。
つぶやいてから、ちょっと気分が悪くなった。魚の目がなんかこわい。
「その手があった!」
クロエさんはニンマリと笑みを浮かべた。
妖艶…という言葉がピッタリの笑顔だけど、その目はイタズラっぽい。
……イヤな予感がする。
クロエさんは腰のポーチから小瓶を取り出し、呪文を唱えはじめた。
「生は仮初めにして肉体は器なり。虚ろなる器に、我、失われし魂魄を注ぐ」
ガラスの小瓶の中に、赤く光る液体が生み出された。
クロエさんがそれを魚屋の魚たちの上にふりまく。すると、魚屋に並ぶ魚たちがビチビチと動きはじめた。
ゾンビだ。魚のゾンビだ!
魚屋のご主人はじめ周りにいた人たちから悲鳴が上がる。
「沈黙の掟はここに破られた。目覚めしものどもよ、我に従え!」
周りの悲鳴なんかおかまいなし、いやむしろ嬉しそうに笑いながら、クロエさんは舟を漕ぐコールを指差した。
「行け! 捕らえよ!」
ビチビチビチビチ! 大小の魚ゾンビたちが跳びはねて川に飛び込む。水面を裂いて進む背びれの群れがコールのボートを追いかける。
ゾンビというとヨロヨロゆっくり動くイメージだけど、このゾンビー魚たちはものすごい早さで泳いでいる。まるで小さなサメの群れだ。
岸から20メートルくらい離れたところで、ゾンビー魚たちがコールの舟に追いついた。
突然、川の中から襲いかかってきた魚の群れに、コールが恐怖の叫びを上げる。
すぐにボートの速度が落ちた。
次々と襲いかかって来るゾンビー魚たちを払いのけようと、コールがオールから手を離したからだ。舟を進ませる水流の魔法が途切れ、ボートは惰性で進むだけだ。
「舟! 舟はねぇか?」
ペイジが舟を探して声を上げる。
今から舟を出せば追いつける。その時──
「くっ!」
クロエさんが小さく呻いた。
彼女は人差し指と中指を揃えて立て、それをコールの小舟に向けている。その手が苦しそうに震えていた。
「クロエさん?」
「術の範囲が…そろそろ限界…!」
ゾンビを操る術って効果範囲があったのか?
見ればコールの舟と岸との距離は30メートルくらいになっていた。動力を切っても船はすぐには止まらない。惰性で進むからだ。
コールに飛びかかるゾンビー魚の数が減った。10匹はいたのに、今コールを攻撃しているのは5、6匹くらいだ。
「あっ!」
コールが頭をかばいながらオールに手を掛けた。今がチャンスと気がついたんだ。
たちまちボートが速度を上げて走り出す。ゾンビー魚が2、3匹飛びかかったけど、振り切られた。
クロエさんが大きく息を吐いた。
コールの舟が遠くに去って行く。もう追いかける手段はない。
「惜しかったな」
ペイジがクロエさんの肩をぽんぽんとたたいて労った。
「アタシもまだまだ未熟ね」
なんとか息を整えて笑うクロエさん。そこに──
「ちょっとあんたら!」
太い声がかけられた。振り向くと魚屋の主人がこわい顔でにらんでいた。
「ウチの魚! 買い取ってくれるんだろな?」
あ、魚屋さんの魚、全部ゾンビになって川の中だ。
「ソータ、立て替えといて」
クロエさんが言う。
「オレが?」
「持ち合わせがないのよ。それにあんたのアイデアでしょ」
えぇ~?
幸い、閉店間際だということで魚屋さんはかなりオマケしてくれた。あとで魔捜研の経費ということにしよう。
出費以上に、容疑者のコールを逃がしたのはイタかった。
それにしても、コールは何故逃げたのか?
やっぱりやつが犯人なのだろうか?
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