まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件

#13 時間稼ぎの現場検証、そのハズが…

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     1


「サナさんが逮捕? なんで?」

 サナさんは殺されたヨナさんの奥さんだ。
 彼女には殺害時にアリバイがあったはずだ。

「事件の夜、サナさんを神殿で見たって証言したヤツがいたろ」
「ミルトン…だっけ?」

 仕事にあぶれて、神殿で世話になっているという男だったよな。

「そのミルトンが、あの夜見たのはサナさんじゃなかったって証言を翻したんだ」
「どうして急に……」

 朝食の準備をしていたサミちゃんが声を上げた。
 のじゃ子さん、クロエさんもキッチンから出て来て、ラウンジに集まる。

「シーマンの野郎だ」

 ペイジが吐き捨てるように言った。

「誰?」
「詰め所で会ったろ? エラぶってた護民兵が」

 あいつか。三人組の護民兵、そのリーダー格のヤツ。

「シーマンがミルトンを脅して、証言を取り消させたんだ」
「なんでそんなこと!?」
「手柄のためね」

 クロエさんが言う。

「手柄のために犯人をでっち上げるってこと? そんなことあるの? だって殺人は死罪でしょ!」

 この国の法律では殺人は死刑だ。
 それを知りながら、犯人をでっち上げるのか?

「処刑された人間の四割くらいは無実みたいよ」

 淡々と、そしておそろしいことをクロエさんが言った。

「葬儀屋──ネクロマンサーの間じゃ有名な話しよ。処刑された人の死体を処理するのも仕事だからね。で、試しに霊を呼び出して聞いてみると四割くらいは言うのよ。自分は無実だって」
「ほんとうですか?」
「ちゃんと統計とったわけじゃないから体感的なものだけどね。アタシも試したら、ちょくちょくいたわよ。自分はやってないって恨み言を言う霊が」
「四割が冤罪って…! そんなことが許されるのか? 霊は無実だって言ってるのに!」

 驚きと怒りで声が大きくなる。
 ありえないだろ、こんなこと。

「許可無く死者の霊を呼び出すのは違法だからね。それにアタシらネクロマンサーが何言っても、捏造、狂言、カネ目当ての脅迫って言われるのがオチよ」

 そうだった。この国ではネクロマンサーは忌み嫌われ、差別されていたんだ。

「それと、冤罪と分かっても、捜査に関わった者を罰する法がないことも理由じゃな」

 のじゃ子さんが言う。

「冤罪をやらかしても処罰する法がない。だから罰せられない」
「騎士団──特に護民兵には手柄や手当て目当てに、誰彼構わずしょっ引いて、無理矢理罪を認めさせる輩が多いンんだ」

 のじゃ子さんに続いてペイジが言う。

「市民のほうにも問題はあるのじゃ。犯人が早く捕まるなら、冤罪があっても構わない。そう考える者は少なくない。事件が凶悪なほど、その傾向は強いのじゃ」
「その人たちは、自分が間違って逮捕されちゃうかもって考えないんですか?」

 サミちゃんが手を上げて尋ねた。

「考えないんじゃろうな。──50年ほど前、通り魔による連続殺人があった。真犯人が捕まるまで4人が冤罪で処刑されたが、特に問題にはならなかった」

 オレは、もう、言葉もなかった。

 昨日は、こっちの世界もオレらの世界も同じだと思った。
 でも、大間違いだった。

 ──人権がある世界とない世界は、あまりに違う。

 治安を守る人間の意識も、人命の重みも、何もかも違う。

 まさに異世界だ。


     2


「で、どうするのじゃ? ソータ」
「えっ?」

 のじゃ子さんの声で我に返った。

「このままじゃサナさんは拷問され、下手人に仕立て上げられちまう! いい考えはねぇか?」

 ペイジがオレに詰め寄る。

 そうだった。
 今はサナさんを助けることを考えないと。

 でも、どうやって?

 この手のシチュ、ドラマではどうにかして真犯人を見つけるんだけど、オレたちの事件は真犯人どころか有力な容疑者もいない。
 今から聞き込みとかして容疑者を見つけるにも時間がない。

 時間…時間があれば……。

「……時間を稼ごう」
「「「え?」」」

 のじゃ子さんたちの声がハモった。

「現場検証だ。殺害現場をサナさんに確認してもらうんだ。無くなった物、不自然な物、そういうものがないのか、そういうのを調べるんだ」
「なるほど! そいつを名目に取り調べを待ってもらうって寸法だな」

 ペイジがうなずく。

「本当なら、事件直後にやることなんだけど。色々あってすっかり忘れてた」

 こういうのやはり素人だな、と思ってしまう。

「はじめての殺人事件だもんね」

 珍しくクロエさんがオレを労るように言ってくれた。

「時間稼ぎでしかないけど。これで一日…うまくすれば数日、サナさんへの取り調べは止められる」
「その間に、真犯人を見つけるんですね」
「そうだ」

 サミちゃんにオレはうなずいてみせた。

「では、わしが騎士団に話をつけに行こう」

 空中に光るルーン文字を描きながら、のじゃ子さんが言う。

「奥さんを現場に連れて来るよう頼んでください」
「うむ」

 うなずいて、のじゃ子さんがフィニッシュの二本線を引いた。床に、光る転移門テレポートゲートの魔法陣が現れた。

「おお、そうじゃった」

 転移の魔法陣の前で足を止めたのじゃ子さんは、肩掛け鞄から小さな鳥の人形を取り出した。

「前に話していたブツじゃ。持って行け」

 と、投げてよこすのをキャッチする。

「これがですか?」

 大きさは15センチくらい。頭でっかちなフクロウの人形だった。金色の金属製だからロボットみたいである。見た目に反してとても軽い。足の下に金属のピンみたいなものがついていた。

「では後でな」

 そう言うと、のじゃ子さんは光る魔法陣の中に消えた。


     3


 オレたちが現場の酒場に着いたのとほぼ同時に、シドの旦那と護民兵に連れられたサナさんが到着した。

 サナさんは手枷をはめられていなかったけど、逃走防止に腰に縄がかけられ、護民兵のシーマンがその先を手にしていた。

「確認させるなら早くしてもらおうか」

 シーマンが露骨にイヤな顔をして言う。

「こんな場合ですが、現場の確認をお願いします」

 シーマンを無視して、オレはサナさんに頼んだ。

「何をすれば良いのですか?」
「なくなった物、逆に見かけない物があったりしないか、みてください」
「はあ」

 返事ともため息もつかぬ声で、サナさんはうなずいた。

「……特にないようです」

 しばらく店内を見て回ったサナさんが言った。

「そうですか……」

 マズい。思ってたより早く終わってしまった。狭い店だもんな。
 でも、これじゃ時間稼ぎにもならない。その時だった。

「あ……」

 オレはに気づいた。

 カウンターからテーブル席への出入り口、その脇に、翼を持った獣──グリフォンの像があった。

「クロエさん! サミちゃん! あれ!」
「ええっ?」
「ラッキーグリフォン?」

 オレが指差すと二人は驚きの声を上げた。

 そのグリフォン像は、船頭のガスの家にあったものと同じくらいの大きさだった。やはり四角い台座に載ってて、その台座はヨナさんを殺した凶器──とがってないけどカドがあるもの、そのものだった。

 でも、オレたちが驚いたのはそこじゃない。

「アレ、はじめに調べに来た時にはなかったわよ?」

 クロエさんが、目をパチクリして言う。

 そうなんだ。
 初日にオレたちがここを調べた時、あのグリフォン像はなかったんだ。あればクロエさんが見逃すはずはない。

 どうして、これがここにある? いや、そんなことより──

「サミちゃん」
「お任せ下さい」

 オレが指示した時には、サミちゃんは薬品鞄を手に、グリフォン像へと向かっていた。

「サナさん、あの像は?」

 念のため、サナさんに確認する。

「亭主の道楽ですよ。金運を呼ぶラッキーグリフォンとかで。ウチの亭主はいくつも買い込んでいたんですよ。病気ですよ」

 ガスの家にも5つほどあったよな。

「あの像はいつからあそこに?」
「10日ほど前…からでしょうか。──あの日、これを競り落とすため、新たに借金していたことを知りました」

 奥さんが大きなため息をついた。

 あの日とは旦那さんが殺された日だ。
 そして口論になり、怒って先に家に帰った、と。
 口論が、旦那さんと交わした最後の言葉になんて、ツラいよな。

「この像のことで、ご主人と揉めていた人はいませんでしたか?」

 オレは話を戻した。今は事件に集中しないと。

「しつこく譲ってくれっていう人がいましたよ。運河で船頭している人で、名前はガス…いえガストンだったか……」

 そこに、

「出ましたぁ」

 と、サミちゃんが声が上がった。

 グリフォン像に、ぼんやりと青紫色に光るシミが浮かび上がっていた。

「なんだこれは?」

 シドの旦那や護民兵たちが驚きの声を上げた。
 サミちゃんとクロエさんが照明を消したり、雨戸を下ろしたりして店内を暗くする。

「ルミノール反応ですよ。血液に反応して光る薬品を使ったんです」

 グリフォン像のそばに行きながら、オレは答えた。

「そして、これが凶器です」

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