まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件

#12 そして誰もいなくなっちゃったよ

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     1


「この人──コールが、あんたの兄さんだってのかい?」
「はい。昔、生き別れた兄なんです」

 ガイシャの奥さん──サナさんが言う。

 驚きの展開だ。
 そう言えば、コールもサナさんも黒髪だった。この〈都〉で黒髪はちょっと珍しい。よく見ると顔もなんとなく似ている。

 サナさんの話をまとめると、こうだ。

 二人の故郷は、〈都〉から少し離れた田舎町だった。
 ある日、父親が事故で亡くなり、母親一人の稼ぎではやっていけなくなった。そこで兄のコールが〈都〉の運送屋に奉公に出た。
 コールが11歳、サナさん6歳の時だった。

 しかしコールが勤めた運送屋はひどいところだった。大人や先輩たちからの暴力は当たり前。食事は最低限。密輸品の配達までやらされたという。

 耐えられずコールは運送屋から逃げ出した。
 その後は、物乞いやかっぱらいをしては逮捕されて監獄にぶち込まれる、の繰り返しだった。

 監獄で知り合った飾り職人から、飾り職の手ほどきを受けたが、それで稼げるほどの腕にはなれなかった。
 少ない稼ぎの大半は酒代に消え、ハンパ仕事をしては酒を呑む。
 ツケが多い上、酒癖が悪いから出禁になった店も多かった。

 『歌うクジラ亭』でも、たまったツケと酒グセの悪さでヨナさんと何度か揉めていたが、ある日、奥さんのサナさんが妹だと気づいたのだった。

「このペンダント。母の形見なんですよ」

 サナさんが首にかけたペンダントを外して見せた。

「ナリイのお守りか」

 ペイジが言う。

「ナリイって神さま?」
「農耕神だ。農村には信者が多いが〈都〉じゃかなりマイナーだよな。あとナリイのお守りは土地ごと、年ごとにデザインが違うので有名なンだぜ」

 サナさんにペンダントを返しながらペイジが言う。

「ああ、だからコールは、一目で母親のペンダントだって気づいたのか」

 そして抱き合っていたのは、不倫の現場ではなく、生き別れた兄妹の感動の再会シーンだったわけだ。

「オレは殺しちゃいない! 信じてくれ!」

 縛られたコールが叫ぶ。そういやまだ縛られたままだったな。

「じゃあなんで逃げた?」

 しかしペイジはまだ縄を解く気は無いようだった。

「借金取りだと思ったんだよ」
「そんな言い訳が通ると思ってンのか? ていうか、今のはカネ目当てに殺したと疑われるぞ」
「そんな! オレはヨナが殺された晩、店には行ってねぇんだ」
「ちょっとペイジ」

 コールを犯人と決めつけ、追い込んでいるみたいなペイジに、思わず割って入った。

「その言い方、ハナからコールを犯人だって決めつけているみたいだぞ」

 ペイジは冤罪を憎んでいる。冤罪を防ごうとしているんじゃなかったのか?

「だからだよ。衛士の旦那も、手柄を上げようと眼の色変えている護民兵らも、納得させられるモンが要るんだよ」
「そういうことか。ゴメン」

 オレの早とちりだったか。
 ペイジもコールを犯人だと思っていない。いや思いたくないんだろう。だから疑われるポイントをつぶそうとしていたんだな。

「コロシのあった晩、店には来てねぇって言ったな?」

 ペイジはコールに向き直り確認した。

「ああ、あの日は急ぎの仕事があって、一晩中、作業してたんだ」
「それを証言する人は?」
「それは……」

 口ごもってうつむくコール。

「思い出せよ! 誰か来たとか、近所でハデな夫婦ゲンカがあったとか、何かねぇのか? 今、この状況じゃ、お前を詰め所に連行しなきゃならねぇんだよ!」

 ペイジもアセっていた。
 でも証人がいないんじゃ、コールが家にいたって証明できない。

 ……まてよ。

 あるぞ。証明する方法が。

「ラボに来てくれ。それとハッチ、ハンナの二人に連絡を」

 ペイジ、コールそしてサナさんがそろってオレを見た。

「証明、できるかもしれない」


     2


「コールは殺人のあった夜、店に来ていないと言っています」

 魔捜研のラウンジである。
 いつものメンバーに加えてペイジとハンナ、そしてシドの旦那にも来てもらっている。

 コールは取りあえず詰め所の牢に入ってもらい、ハッチが番をしている。コールには悪いけど、容疑が晴れない内は勾留するしかない。

「サミちゃん、お願い」
「はいっ」

 と、元気よく返事して、サミちゃんはテーブルの上にある水晶プロジェクターに手をかざした。
 すると空中に撮影した下足痕が投影された。

「これはコールが履いていた靴の下足痕──足跡です」

 オレの言葉が終わると、サミちゃんが事件現場で撮影した他の下足痕を追加で投影させた。

「判別が可能な下足痕は4つ。そのどれもがコールの靴とは一致しませんでした」

 サミちゃんが操作して、コールの下足痕と撮影採取された下足痕が重ねられる。大きさが合わないのが2つ、大きさが同じものでも模様やキズが一致しない。

「念のため、ハンナさんにコールの家に他に靴がないか調べてもらいました」
「あったのはサンダルが一つ。念のため、部屋中探したけどありやせんでした」

 ハンナがサンダルを見せて言う。下足痕の違いは比較するまでもない。

 この世界の、庶民の靴はローファーに似たタイプである。材料は革か布。錬金術で布を革っぽく加工したものもある。
 値段は、安いものでも平均的な労働者の賃金1ヶ月ぶんと高価だ。だから2足も3足も持っているものは稀だった。

「事件当夜、コールは一晩中、作業していたと言っています。自宅にいたかは不明ですが、現場に来ていないことはたしかです」
「判別不能の足跡があったな? そこにコールの足跡がある可能性は?」

 ジドの旦那が確認してきた。うん、ここは想定内。

「判別不能の下足痕は犯行時よりかなり前に付けられたものです。上から他の判別できた4つの下足痕が重なっていたり、遺体から離れた場所にあるものばかりです」
「では、コールが別の靴を履いて犯行に及んだ可能性は?」

 う…それは否定できない。と、内心アセったが、

「いや、このコロシは計画的なものじゃない。そのセンはないか」

 と、シドの旦那は自ら否定した。

「もし計画的なモンなら、コールは現場にいなかったことを証明する証人なり証拠なりを用意していたハズですよね」

 続いてペイジが言った。

「その通りだ」

 そう言うと、シドの旦那は大きくため息をついた。

「魔捜研の」

 シドの旦那はオレのことをそう呼ぶと決めたみたいだ。

「はい?」
「手間掛けたな」
「いえ、仕事ですから」

 そう言ったオレに、シドの旦那は苦笑した。

「容疑者いなくなっちまったな」
「あ……」

 奥さんはアリバイがあって。
 船頭のガスの家に凶器はなく。
 コールは現場に来ていないことが確認された。

 そうだった!
 容疑者、誰もいなくなっちゃったよ!


     3


「アタシまでゴチになって悪ぃな」

 シドの旦那が帰った後、オレたちはペイジを交えて遅い夕食となった。
 ちなみにハンナさんは、コールの釈放をサナさんに知らせるのと、旦那の晩メシを作るため帰っていった。

「今日はリノ叔母さんに頼んで、届けてもらいました」

 サミちゃんが言う。

 リノ叔母さんというのは、サミちゃんが魔捜研に来る前に住み込みで働いていた大衆食堂『日の出』の女将さんである。
 サミちゃんが研究で忙しい時なんかに、こうしてデリバリーしてくれるのだ。

「サミはルミノール液の改良で大変じゃったろ」
「料理運ぶのはアタシたちがするから、座っててね」

 のじゃ子さん、クロエさんがサミちゃんを強引に座らせるとキッチンに向かった。
 ドジッ子のサミちゃんに運ばせると、コケてせっかくの料理をぶちまけかねないからな。

「ルミノール液の改良?」
「はい。ダイコンやニンジンに反応しちゃうって聞きましたから。血液だけに反応できないか改良してみたんです」

 科学捜査の薬品作りに、下足痕の分析、分類に、ほんとサミちゃんはよくやってくれているよな。

「まだちょびっと反応しちゃいますけど、血液は、はっきり強く光るようにできました」
「おお! すばらしい」
「でも、寿命が短くなってしまったんです」

 困った顔でサミちゃんが言う。

「寿命?」
「薬を作ってからすぐ使わないと、反応が起きなくなるんです」

 反応が良くなったぶん、劣化しやすくなったのか。

「なら現場で作るというのはどうかな? 二つか三つの薬品を混ぜればできるって感じで」
「あ、できます! それでいきましょう!」

 ぱぁって明るい笑顔になるサミちゃん。

「問題はひとつずつ、できるものから解決すればよい」
「そうそう。まずはこの空腹からね」

 のじゃ子さんとクロエさんが料理を並べて行く。

 シチューみたいなトリの肉団子のクリーム煮。チーズとスモークサーモンのサラダ。クルミ入りパン。そして様々なピクルスの盛り合わせ。

「オレの世界にあるのと同じもの、こっちにも結構あるんだな」

 コーヒーと紅茶はないけど、ニンジンやダイコン、キャベツ、カブといった野菜はこっちでも普通に食べられていた。鶏、牛に馬、魚はアジ、イワシ、シャケ(サーモン)なんかもある。

「世界同士が近いのじゃ。この場合の近いというのは、違いが少ないという意味じゃ。故にお主のように転移する人間がおる」

 肉団子をふーふーしながらのじゃ子さんが言う。

 パラレルワールドってヤツか? 違いが少ない世界はお隣って感じか。
 それはそうと、肉団子のシチューがうまい。

「魔法がある世界とない世界なのに?」

 ものすごく違いがあるんだけど。
 でもサーモンはサーモンの味がする。スモークしたものを薄く切ってあるところも同じだ。

「それは世界の階層による差異であって、世界の隔たり──異質さとは別ものじゃ」
「異質さ?」
「例えば、お主の世界にも、この世界にも馬がいる。じゃが馬という生き物がいない、あるいは家畜化できない世界もあるじゃろう」

 ちぎったパンを咀嚼、飲み込んでのじゃ子さんは続けた。

「ヒトもそうじゃ。──ちなみに、ここでいうヒトとは、我ら人間だけでなく、エルフやドワーフといった種族も含むのじゃが──こちらの世界も、そちらの世界もヒトは腕と足が二本ずつ、頭は一つじゃろ。しかしヒトの手足が三本も四本もあったり、頭が四つ、五つとある世界もあるかもしれぬ。世界の隔たりとはそういうことじゃ」
「なるほど」

 ──どっちの世界も同じだな。

 ペイジと張り込みしていた時の会話を思い出した。無意識に彼女のほうを見ると、

「……なんでぇ?」

 視線が合ってしまった。

「えっと、またイチから仕切り直し。大変だなって」

 なんでか、オレは誤魔化してしまった。

「でも、間違って誰かが罪に問われなかった。それだけでもめっけもんだぜ」

 ニッと笑うペイジ。その笑顔は、心からそう思っているように見えた。


     ×   ×   ×


 ──翌朝、ペイジがラボに駆け込んできた。

「サナさんが捕まった!」

 サナさんってガイシャの奥さん? なんで?

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