まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File02 ファンタジー世界に岡っ引き娘がいた件

#11 容疑者確保! しかし……

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     1


 表通りから男が一人、オレたちのいる裏通りに入って来た。……コールじゃないな。

 すぐ後ろには木製ゴーレム馬が牽く荷馬車が一台。男に続いてゆっくりとやって来る。

「運送屋か」

 ペイジがつぶやく。

 そういえば、さっき聞いたな。この辺りの飲食店は二階部分は貸し倉庫になっているとこが多いって。

 この〈都〉には大きな物流拠点というものはなくて、外から入ってくる物品はこういう個人商店の倉庫に一時保管される。
 この副業はそこそこいい稼ぎになるため、店とは別に家を持つ店主が多いという。『歌うクジラ亭』もその一つで、酒場の店主夫婦の家は店の裏手にあった。

 荷馬車を店の裏、階段のすぐ脇に停めた運送屋は、店の裏にある家の呼び鈴を押した。すぐに中から30代後半の女性が出て来た。

「あれが奥さんのサナさんか」

 彼女は、この世界ではあまり見かけない黒い髪をしていて、それを丸く結っていた。顔色が悪いのは、旦那さんを亡くしたばかりだろう。

 この人がコールと不倫を? それが元で旦那のヨナさんは殺されたのか?
 オレには信じられなかった。

「引っ込めよッ。見つかるだろ」

 ペイジが小声で怒鳴り、オレの腕をつかんで隙間の奥に引っ張り込んだ。

 むぎゅう…狭い隙間だからペイジと密着してしまう。

 あわ…わわわ…!

 ペイジの身体のやわらかさ、体温を服越しに感じる。
 普段はまるで気にしてなかったけど、こいつも女の子だったんだ。

「もじもじすンなよ。小便か?」
「そういうわけじゃないんだが……」

 コイツ、男と密着しているのに平常運転だな。オレのほうは、こんなにドキドキしているのに。なんか不公平だ。

「あ、髪がくすぐったかったのか。ワリぃ」

 誤解したペイジは、ポニテにしている赤い髪をかき上げ、オレの顔の反対側に下ろした。すると、うなじが露わになってしまう。

 ドキンっ! と心臓が跳ねた。

 首の後ろを見ただけで、なんでこんなにドキドキするんだ?
 それに相手はペイジだ。ガサツなべらんめぇ女だぞ? こんなヤツにドキドキするなんて、オレは自分が許せない。

 意思の力を総動員して、うなじから目を逸らす。すると今度は、彼女の胸の谷間が目に飛び込んで来た!

 コイツ…けっこう大きい?

 マズい…これはマズいと思いながらも、やわらかそうな谷間から視線を離せない。

「おい」
「は、はいっ!」

 ペイジに声を掛けられ、思わず上ずった声を上げてしまう。

「行ったぜ」
「へ?」

 見れば運送屋の馬車が表通りへと出て行くところだった。奥さんも家に戻ったのか姿はなかった。

 のそのそとオレたちは隙間から出た。
 まだ心臓がバクバクいってる。

「大丈夫か? 顔が赤いぜ」

 ペイジが首を傾げる。

「あ、暑くってさ」
「そうか?」

 クロエさんみたいにわざと見せつけてからかうのも困るけど、コイツみたいに無自覚なのも問題だ。
 まあ、密着してドキドキしていたことを知られるよりはいいかもだけど。

「──おい」

 急にペイジの眼が鋭くなった。
 ま、まさか、オレが胸の谷間を覗いていたこと、バレた? そう恐怖したのだけど──

「そこにいるのは誰でぇ?」

 ペイジが見ていたのはオレの後ろだった。
 誰か隠れている? コールか?


     2


「バレやしたか」

 のっそりと建物の陰からじーさんのドワーフが出て来た。ペイジの下っ匹のハッチだ。

「弁当をお届けに来やした」
「そうか。手間かけて悪ぃな」

 ハッチが差し出した小さなバスケットをペイジは受け取り、

「なんで隠れてたんだ。声かけろよ」
「お楽しみのトコを邪魔しちゃいけねぇと思いやしてね」

 微かに笑ってハッチがオレを見た。
 見てた? オレがペイジにドキドキしてたのも知ってる?

「あん?」
「それじゃ、あっしはこれで」

 首を傾げるペイジに、ハッチは一礼すると表通りに足を向けた。
 途中、オレの前で、ちょいちょいと指で合図する。なんだ? かがめっていうのか?

 ドワーフの身長に合わせてかがんだオレにハッチは、

「お嬢のこと、頼みやす」

 と、囁いた。

「え? どういう意味?」

 マンガとかで、娘の保護者が「うちの娘をよろしく」って男子に言うネタがあるけど、それか?
 いやまさか?

「ウチのお嬢は、小さい頃は神殿で修行、護民兵になってからは荒くれ男と、周りに年の近い友人がおりやせん。ですんで、仲良くしてやっていただけると有り難いんでさ」
「ああ、そういうことなら」

 うなずいたオレに、ハッチはニンマリと笑った。

 な、なんだその意味ありげな笑いは?

「んじゃ、よろしく」

 困惑するオレを置いて、ハッチは帰って行った。

「ハッチのヤツ、何て言ったんだ?」
「えっと…わからない」
「なんだそりゃ」

 ペイジはため息つくと、バスケットからベーグルみたいなパンを取り出し、かぶりついた。

 ……オレも、サミちゃんが作ってくれたお弁当を食べよう。


     ×   ×   ×


 ランチの後、何事もない時間がダラダラと流れていった。

 一度、荷馬車が来たけど、別の店の倉庫に荷物を納めると、すぐに帰って行った。

 ドラマや映画と違い、リアルの張り込みは退屈なものだ。容疑者や犯人が現れるまで、何事もない時間をただひたすら過ごすだけだ。

 気がつけば、太陽の光に赤みが増していた。そろそろ午後か。

「今日は来ないのかな」
「かもな」

 思わずもらしたつぶやきに、ペイジが答える。投げやりな口調だった。

 ガイシャの奥さんを張り込むのはいい考えだと思ったけど、間違いだったのかもしれない。そもそもコールと奥さんが不倫関係にあるという情報自体、間違っていたのかも。

 と、弱気になった時だ。

「来たぜ」

 ペイジが低い声で言った。

 表通りに続く道に、フード付きのマントを来た男がやって来る。

 ──コールだ。

 オレとペイジは建物の隙間に身を潜め、コールが近づいてくるのを待った。

 コールはフードを目深に下ろし、周りをキョロキョロ見回している。絵に描いたような挙動不審だな。

 コールが奥さんの家の前まで来た。
 ヤツはオレたちに背を向ける格好だった。

 ペイジがオレの肩を叩いて合図した。

 あやうく「わかった」と声に出して返事しそうになって、オレは自分の手で口を塞いだ。そして小さく頷いてペイジに了解の合図をする。

 そろりそろり…隙間を出たオレとペイジはコールの背中に迫る。
 コールは、呼び鈴を押すか押すまいかと躊躇っているみたいだった。

 ペイジはオレに目で合図すると、こん棒を抜いて叫んだ。

「コール! 御用だ!」


     3


 ぎょっとしてコールが顔を上げた。
 ペイジはその横手に、ばっと跳んで逃げ道を塞いだ。その反対側、コールを挟む感じでオレは両手を広げて通せんぼする。

「く、くそっ!」

 左右をオレとペイジに挟まれたコールは、フードを取って叫んだ。
 逃げ道を探すようコールは首を左右に巡らせる。だがそんなものはない。

 ……あ。

 コールがオレを血走った目で見た。次の瞬間、

「わぁあああ!」

 と叫んでオレに向かって来た!

「ちょ…っ!」

 タックルするようにコールが飛びかかってきた。

 避けたら逃げられる!

 この時、オレの頭にあったのはそれだけだった。

 ぶつかって来たコールを受け止め──られず、二人揃って地面に転がってしまう。

「は、放せ!」
「放すか!」

 もみ合いながら、オレは必死にコールにしがみついた。

「往生際が悪いぜ!」

 ペイジの叫びと共に、こん棒が振り下ろされる。肩の辺りを叩かれたコールが、うめいて脱力した。

「神妙にしろい!」

 コールを後ろ手にしたペイジが、捕縄という細いロープで縛りあげた。

「よくやったなソータ!」

 ペイジがニッと笑って言う。

「オレだってこのくらい…ツ」

 言いかけて、肘の辺りをすりむいていることに気づいた。

「ペイジ。治癒魔法をたのむよ」

 すりむいた場所を見せると、ペイジは

「あぁん? その程度で神の奇跡を使えっかよ。ツバでも付けときゃ治るって」

 と言うと、ペイジは自分の指を舐めた。

 ちょ…ツバつける気?

 彼女の赤い唇、ツバで濡れた舌に、心臓がドキンっ! と鳴った。

「え、遠慮する」

 オレは慌てて後ずさった。その時──

「兄さんっ!」

 という女性の叫びが上がった。

 声のしたほう見ると、サナさん──ガイシャの奥さんが驚きの目でオレたちを見ていた。

「兄さんって…コールが?」

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