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File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件
#07 血染めのシャツ
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人気のない倉庫街に、身代金を乗せた馬車がやって来た。
尾行している追跡隊の姿は見えない。うまく距離を取っているようだ。
「川に人員は?」
シドの旦那に尋ねる。
「上流、下流ともに配置ずみだ」
「え? そうなの」
「騎士団も馬鹿ではない。受け渡し場所が運河の倉庫となれば、金貨を船で運ぶことは予想が付く」
そりゃそうだ。
ううっ、ドヤってしまってハズい。
「だが外国にってのは盲点だった。念のため、港に人をやるよう上申しよう」
シドの旦那は右の耳の小さなピアスに手を触れた。あれが通信石か。
「こちらシド。死人団はカネを国外に持ち出す可能性あり。港に人を送るよう要請します」
通信石のピアス、その大きさはコメツブくらい。このサイズが通信機とか、魔法文明はすごいな。
この間に、身代金の馬車は4番倉庫の前に着いた。
倉庫にいた作業員たちが馬車に歩み寄る。いずれもゴツい体格で、ランニングシャツと作業ズボンという格好だ。
「あれが死人団の一味か?」
「荷物の積み下ろしをする作業員に見えますが」
シドの旦那とペイジが低い声で言った。
「ニューロックの馬車だな。中に入んな」
作業員のリーダーらしい男が言う。
人気の無い場所だから、なんとか聞こえる。
「旦那さまは?」
御者台のパレル氏が尋ねた。脅えているせいか声が小さくて聞き取りづらい。
「余計な口たたくんじゃねぇ。さっさっとしねぇか!」
リーダーに怒鳴られ、パレル氏は馬車を倉庫の中へと進めた。
たぶん、あの倉庫に人質──誘拐されたブライズ氏はいないだろう。
人質の解放は、身代金を受け取った後、というのが定番だ。
「あ…っ」
隣の窓から見ていたサミちゃんが、小さな声を上げた。
彼女の視線を追うと、建物の陰に追跡隊の姿が見えた。
よく見ると、あちこちに追跡隊、そして衛士と護民兵たちが潜んでいて、4番倉庫を包囲している。
いつの間に……。
驚くと同時に、オレはイヤな予感がした。
護民兵や衛士たちの様子が、刑事ドラマで見た、突入直前のSWATみたいに思えたからだ。
はっとしてシドの旦那が立ち上がった。
「捕縛命令が出た。全員、行くぞ!」
「ガッテンだ!」
ペイジが赤いポニテを揺らして真っ先に階段を駆け下りていった。あわてて他の護民兵たちが続く。
「制圧が完了するまで、魔捜研はここで待機しててくれ」
最後に、シドの旦那が下りていった。
外では、あちこちの建物の陰から衛士に率いられた護民兵たちが飛び出した。30~40人はいる。
「歩く死人団! 御用だ!」
「大人しく縛につけ!」
たちまち乱闘がはじまる……。
と思ったけど、倉庫にいたヤツらは抵抗らしい抵抗もしなかった。制圧は5分と立たず終了した。
2
「濡れ衣だ!」
縛られた作業員の一人が叫んだ。
「オレたちは、ガラン運輸に雇われた人足だ! 死体団とかじゃねぇ!」
口々に叫ぶ。
「旦那さまはどこだ! どこにいる!」
「知るか! オレたちゃニューロックが持って来る荷物を受け取って港に運ぶよう依頼されただけだ!」
パレルの問いに作業員のリーダーが叫んだ。
「依頼したのは?」
「エディポート海運だ。ウソじゃねぇ! 依頼書もある!」
リーダーの言う通り、エディポート海運の依頼書が出て来た。
エディポートは海運業界でビッグスリーの一つという大手だった。
騎士団はエディポート海運を調べたが、そんな依頼は出してないとのことだった。依頼書を見せたところ、偽造されたものだと判明した。
そしてニューロックの荷──身代金を積むはずだった船は外国籍の船で、騎士団が到着した時には港を出た後だった。
× × ×
「おのれ! 姑息な真似を!」
──クリークベルの逮捕劇から3時間後。
ニューロック屋敷でゴーワン団長が不機嫌なうなり声を上げた。
「どうして捕縛命令を出したのですか! 身代金を渡せば旦那さまは戻って来たはずなのに!」
エアリー夫人が騎士団長にくってかかった。
あの団長に抗議するなんて、それだけ旦那のブライズ氏の身を案じているのか。
「犯人逮捕が最優先だと言ったはずだ! 平民が騎士団の方針に口を出すでない!」
しかしゴーワン団長は1ミリも動じず、言い放った。
エアリー夫人は硬直し、そして泣き崩れた。
「犯人逮捕って、騎士団のメンツが優先なんだろ」
団長の態度に、ハラが立って、うっかり声に出してしまった。
「その通りだ」
ギロリとゴーワン団長がオレをにらんだ。
「騎士団の威信は国の威信。犯人にカネを払えば解決するという考えを改めない限り、同じ犯罪は何度も起きる。それが分からんのか!」
うっ…それはそうだけど。
って、納得しかけた。危ないあぶない。
団長が言ってるのは、「テロに屈しない」の考えだ。でもそれは相手をしっかり退治できることが前提だ。つまり、
「逮捕できなきゃ、威信も何もないでしょうが」
「何だと?」
やべ…また口に出して言ってしまった。
「昨日今日この国に来たばかりの他所者が、騎士団の方針に口を出すな!」
「他所者だからこそわかるんだよ!」
自分でも驚いたけど、オレはゴーワン団長に言い返していた。
「行き当たりばったりの捜査で冤罪ばかり生み出して、犯人の手掛かりすらないじゃないか! 葬儀屋ばかり取り調べて、モグリのネクロマンサーをガン無視とか、ありえないよ!」
この世界に来てムカついたこと。たまりにたまったそれが一気に噴き出した感じだった。
「小僧が図に乗りおって、わしに意見どころか批判までするか! 出て失せろ!」
怒りに真っ赤になってゴーワン団長が怒鳴った。
その直後──
「大変です! 旦那さまが!」
ニューロックの使用人が、部屋に飛び込んで来た。
その手には、血で真っ赤に染まったシャツが握られていた。
「なんだそのシャツは?」
「誘拐された時、旦那さまが着ていたものです」
支配人のパレル氏が叫んだ。
「もしや旦那さまは!」
エアリー夫人が真っ青な顔で叫ぶ。
身代金を手に入れ損なった死人団が、ブライズ氏を殺したのか?
最悪の想像が頭に浮かんだ。
それはオレだけじゃなく、室内にいた者たち全員も同じだったのだろう。室内が緊張に静まり返った。
3
「ちょっと待って」
沈黙を破ったのはクロエさんだった。
クロエさんは使用人が持ったシャツを受け取ると、ぱっと広げてみせた。
「血は胸の辺りに着いているけど、布地に傷はない。シャツに血をふりかけただけよ」
言われてみれば。
場所が心臓のあるあたりだから、みんな刺されたと思ってしまったんだ。
クロエさんはシャツに鼻を近づけると、そのにおいを嗅いだ。
「人の血じゃない。ネコの血よ」
ほっ、と何人かがため息をついた。
「慌て者が。取り乱しおって!」
支配人のパレル氏が怒鳴り、シャツを持って来た使用人が小さくなった。
「うん? これは」
クロエさんがシャツの中から二つ折りの紙を取りだした。
新しい脅迫状か?
「よこせ!」
ゴーワン団長がクロエさんの手から脅迫状をひったくった。
「ぬぬぬ…!」
中身を読んだ団長の顔がまた真っ赤になり──
「ふざけおって!」
「ああっ!」
ゴーワン団長は脅迫状をぐしゃぐしゃに丸めると床にたたきつけた。
おま…! 証拠品を!
「撤収!全員引き上げだ!」
そう言うとゴーワン騎士団長は、ドカドカと足音も荒く出て行く。慌てて部下の騎士たちが後に続く。
オレは投げ捨てられた脅迫状を手に取り、開いて中を見た。
「なんて書いてあるんですか?」
サミちゃんがオレを見上げて尋いた。
「このシャツは警告。騎士団と魔捜研は、すぐにニューロック邸より去れ。さもなくばブライズ氏は生きて屋敷に帰ることはない。身代金の受け渡しについては後日また連絡する。屋敷は常に見張っている。警告を忘れるな──とのことです」
「なんという…!」
「とにかく旦那さまは、まだ無事ということです。希望を捨ててはなりませんよ。奥さま」
頭を抱えるエアリー夫人をパレル支配人がなぐさめる。
「わしらも撤収するとするかの」
のじゃ子さんの言葉で、オレたちもニューロックの屋敷を後にした。
今回はオレたちの負けだ。
屋敷の門を出て空を見上げると、丸い月がぼんやりと輝いていた。
「残念でしたね」
落ち込んだオレを見てサミちゃんが言う。
「まだ勝負はついたわけじゃない」
強がりを言うと、
「そうですよね。早く帰って夕食にしましょう」
と、明るく言った。
そういや、メシ食うひまもなかったな。
気がついたら急に腹が減ってきた。
「しかし、アタシらも有名になったものよね」
クロエさんが呑気に言う。
「死人団から名指しで退去するよう言われるなんてね」
「新聞でも評判ですから」
サミちゃんが答える。
……うん?
「どうしたソータ?」
足を止めたオレを、不審そうにのじゃ子さんが見上げた。
「なんでわかったんだろう?」
「何がじゃ?」
「オレたち魔捜研がいるって、どうしてわかったんだ?」
騎士や衛士は鎧、護民兵は黒のベストと見ただけでそれわかるけど、オレたちはそんなもの着てない。
屋敷を見張っているとあったけど、見ただけで魔捜研だってわかるはずがない。
それはつまり──
「ニューロックか騎士団の中に、内通者がいる?」
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