まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件

#06 身代金受け渡し

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     1


 ──翌朝。

「またメッセンジャーゾンビが来たぜ!」

 ラボにペイジが飛び込んで来た。

「来たか!」
「それで中身は?」
「ちょっと待ってくんな」

 ペイジが新たに届いた脅迫状の写しを取りだした。

 その中身は、こうだった。
 
「身代金42億円を用意せよ。すべて金貨だ。

 17日の17時、クリークベルの4番倉庫に持って来い。

 運ぶのは支配人のパレル一人。

 他の人間がいるのを見たら取引は中止する」

 最後に、ブライズ氏のサインがしてあった。
 これは氏の生存を伝えるためだろう。ゾンビにすると文字は書けないそうだからな。

「17日っていうと3日後か」
「そっちの進展は?」

 ペイジが尋ねた。

「馬車の中にあった土で二つはニューロックのお屋敷と王宮のものと判明しました。あとの二つは不明です」
「一つは墓地の土っぽいけどね」

 サミちゃんが答え、クロエさんが補足する。

「それと最初のメッセンジャーゾンビに着いていたクルミの葉だけど、この〈都〉に、クルミの木を植えている墓地はないことがわかった」

 ちなみにのじゃ子さんに頼んだ追跡犬は、「心当たりを当たってもらっている」という状況だ。

「進展はねぇか」

 ペイジがため息つく。

「騎士団のほうはどうじゃ?」
「こっちはもっとさっぱりだ」

 のじゃ子さんの質問にペイジが両手を広げる。

「ネクロマンサーを片端から尋問しているンだけど、手が足りねぇ」
「モグリの術師も多いしね」

 クロエさんが言う。

「モグリのネクロマンサーって? もしかして犯罪組織のために死体を始末したりとか?」

 刑事ドラマというより時代劇でみた気がする。

「あとは死因を病気や事故に見せかけたり、ゾンビにして外国に売ったりね」
「ゾンビって売れるの?」
「この国では禁止されておるが、ゾンビを労働力として使う国はあるからの」

 のじゃ子さんが言う。

「生身の奴隷より力は何倍も強いし、食費もかからない。何より逃げたり反乱起こしたりしないからね」

 こういうとこが魔法のあるファンタジー世界だ。
 たしかにメリットがあるのはわかるけど、死体に労働させるとか…一緒に働いてる人は平気なのか? やっぱ異世界ってこわい。

「モグリのネクロマンサーは調べているの?」
「葬儀屋やってるヤツよりモグリの術師を当たるほうが手っ取り早いって、シドの旦那にも言ったんだけどさ。上からの命令だから仕方ないってさ」

 オレの質問に、ペイジがため息をついた。

 あの脳筋団長の指示か。しかしこれじゃ捕まるものも捕まらないぞ。

「どうします? ソータさん」

 サミちゃん、そして他のみんなもオレを見ていた。

「二番目のメッセンジャーゾンビと脅迫状を調べよう。新しい手掛かりがあるかもしれない」
「すぐ届けるよう、手配しとくぜ」
「頼む、ペイジ」

 オレたちは鑑識。証拠品を調べることしかできない。

 取引まで3日。それまで、できることをがんばろう。


     2


 ──5月17日。

 結局、新しい手掛かりは得られないまま、身代金受け渡しの日を迎えた。

「これが42億円分の金貨か」

 ニューロックの屋敷。その玄関ホールに、鉄で補強された木箱が置かれている。チェストってヤツだ。宝箱というほうが近いか。

 騎士団立ち会いの下、銀行職員とニューロックの支配人たちが袋詰めされた金貨を、チェストの中に入れてゆく。
 42億円ぶんの金貨は13箱にもなった。いったい何百キロあるんだろう?

 銀行職員の一人が、空中に光る文字を書きはじめた。
 ルーン魔法の使い手だ。のじゃ子さん以外ではじめて見た。

 文字列は2行で終わり、フィニッシュ線を引いた。すると金貨を入れた箱に光る魔法陣が現れた。

「リフト──軽量の魔法じゃ」

 のじゃ子さんが解説する。

「荷物の運搬によく使われるからこの名がある。魔法陣が出ている間、対象の重さを軽くするのじゃ。あれは1/10くらいになっておるな」
「あの銀行の人、簡単に使いましたけど、すごい術師なんですか?」
「リフトの魔法は箱に仕込んであったものじゃ。あの者は起動しただけじゃよ」

 へぇ、あらかじめ魔法がしかけてあるなんて便利だな。
 さっきのルーン魔法は、起動のためのパスワードみたいなものか。

 オレたちが話している間に、ニューロックの事務方の人たちが、金貨の入った箱を軽々と持ち上げ、外の荷馬車へと積んでゆく。

「行って参ります、奥さま」
「よろしくお願いします」

 取引の時刻が近づき、支配人のパレル氏が、ブライズ氏の奥さんに見送られ、馬車に乗り込んだ。

 まだ太陽は赤く染まってはいないけど、取引の場所クリークベルに到着する頃には、夕陽となっているだろう。

「追跡隊、出ろ。気取られぬなよ」

 ゴーワン騎士団長の命令で、平民の格好をした追跡隊が尾行を開始した。

 彼らはいわゆる特殊部隊みたいな存在で、身分は平民だという。
 全員が通信石のピアスをしている。これは魔法の通信機で、耳ではなく幽体に声を届けるというもので、テレパシー通信機みたいなものらしい。

「オレたちも行きましょう」

 オレはラボのみんなと馬車に乗り、ペイジが張り込んでいる見張りの拠点へと向かった。


     ×   ×   ×


「ここは何? 果物屋?」

 バナナとマンゴー、パイナップル、あとヤシの実…ペイジが見張りの拠点としたのは、南国から来たらしい果物が何種類も置かれた店だった。

「南方産フルーツの問屋だ」

 二階へと続く階段を上がりながらペイジが言う。

「クリークベルは港に届いた荷、逆に港へ運ぶ荷を集積し、一時保管する中間倉庫がたくさんある。だからこういう異国から来たものを買い付ける問屋があるンだ」

 二階からその上、屋根裏へとペイジは上がる。

 薄暗く、天井の低い屋根裏。小さな窓の一つが開いていた。
 ペイジはその窓に寄って言った。

「あれがその倉庫街だ」

 ペイジの横からのぞくと、運河沿いにたくさんの倉庫が並んでいるのが見えた。
 その中に、半分消えかかった「4」の数字がついた倉庫がある。

 あれが死人団が取引の場所に指定した4番倉庫か。


     3


 オレたちが隠れている場所から倉庫までの距離は30メートルほど。

 倉庫の大半は閉じるか開いていても人気は無い。人がうろうろしているのは4番倉庫だけだ。

「あまり人がいないな」
「仕事じまいだろう」

 ペイジが言う。

「川下に大きな倉庫街が出来たせいで、ちっと寂れてンだよ。ここは」

 気がつけば太陽は赤く変わり始めている。
 もうじき死人団が指定した17時だ。

「人気は少ないが、こんな場所に身代金を持って来いだなんて、どういうつもりだ?」

 階段のほうから声がしたと思うと、シドの旦那とシーマンたち護民兵が5人ほど上がって来た。

「魔捜研の、来てたのか」
「どうも」

 挨拶を交わすなり、

「お前さんはどう思う?」

 と、シドの旦那が聞いてきた。

「死人団が、ここを身代金の受け渡し場所に選んだ理由ですか?」
「そうだ」

 どう思うと言われても、オレはこっちの世界に来たばかりで、ここクリークベルに来るのもはじめてなんだけど。

 考えながら窓から倉庫を見る。

 オレたちの位置から見ると手前に倉庫、その向こうに運河がある。倉庫で隠れて見えないけど、建物の向こう側は船着き場になっているっぽい。

 運河、船着き場…屋根裏にまで充満する南国から来たフルーツの香り。

 もしかしたら……。

「死人団は、ここで身代金を小舟に積み替えて、港に運ぶつもりなのかも」
「港に…ってことは」

 シドの旦那が、あっという顔になった。

「そうです。死人団は、身代金を外国に運ぶ。つまり身代金受け取りと高飛びを、同時に行うつもりなんじゃ──」
「来た!」

 オレの言葉はペイジの声に遮られた。

「身代金を乗せたニューロックの馬車が来たぜ」


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