まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件

#05 クルミと〈都〉のお墓事情

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     1


 クルミの木がある墓地を探して、オレはクロエさんとラボを出た。

「そうだ。〈都〉にはどのくらい墓地があるの? クロエさん」

 表通りに出たところで尋ねた。

 たしか東京都には7つか8つ…いや、あれは青山とか多摩とかの大きな墓地、霊園ってヤツだっけ。お寺とかの墓地はかなりの数があるんじゃ?

 この〈都〉の人口は100万人くらいって前に聞いた。東京の1/10以下だ。だとすればそんなに多くはないはずだ。

「大きな共同霊園は8つね」
「それなら今日中に回れるか」

 よかった。何十ヶ所もあったら大変だった。

「小さいのは1,500くらいかなぁ?」
「せ、せんごひゃくう?」

 思わず、裏返った声が出た。

「これでもだいぶ減ったのよ。国営の大きな霊園が出来たから」

 1,500とか…全部調べるのにどれだけかかるんだ? 1ヶ月や2ヶ月で終わらないぞ。
 オレが立ちつくしていると、
 
「ホント、ソータっていい顔するわね」

 クロエさんがくすくす笑った。

「墓地は死の神ナラカンの神殿が統括管理しているから、各ブロックの神殿に聞いて回ればいいのよ」
「ブロックはどれくらい?」
「23コ」
「よかったぁ……」

 一日で回りきれる数じゃないげと、1,500より大分マシだ。

「最初に言ってくれればいいのに」

 安心したのでクロエさんに文句を言う余裕が出来た。

「最初に墓地の数を聞かれたから、答えただけよ」

 クロエさんは笑って言う。

 その顔、絶対、ワザとだ。このいたずらっ子め。


     ×   ×   ×


 ラボから歩くこと15分ほど。
 一番近い、死の神ナラカンの神殿に到着した。

「普通だ……」

 それがナラカンの神殿を見たオレの感想だった。

 死の神の神殿というから、おっかないのをイメージしていたけど。

 デザインは、前に行ったダンカン地区のテージャスの神殿とそっくりだ。三角の屋根をたくさんの円柱が支えている。
 違うのは大きさで、テージャスの神殿と比べると敷地も建物も半分くらいだ。あと、敷地内に土産物売り場がない。

 神官の人たちの服装も似たようなデザインだった。黒と白の喪服っぽいもので、ドクロの紋章とかはついていない。

 後で聞いたのだが、ナラカンは冥界の支配者ではなく、墓地の守り神みたいな存在だった。

 オレが辺りを見回している間に、クロエさんは受付っぽいところで話しを聞いていた。

 そのまま待つことしばらく……。

「この地区に、クルミの木を植えている墓地はありませんね」

 との返事だった。

「いきなりアタリはないか」

 つい、ため息が出た。

「アタリだとしても、他も確認しないとダメじゃない」
「そうでした」

 一ヶ所だけとは限らないもんな。5ヶ所も10ヶ所もあったらどうしよう。

「それじゃ次行こうか」

 軽いノリで言うと、クロエさんが先に立って歩いてゆく。

「こういうクロエさんのお気楽なとこ、うらやましいよ」
「心配するのはソータに任せているから」
「えぇ~?」

 そりゃないよ、と思ったけど。
 クロエさんのお気楽な笑顔に助けられている、そうも感じたオレだった。


     2


 次のナラカンの神殿へは舟を使った。

 この〈都〉は水路が発達していて、タクシーや軽トラ代わりをしている舟がある。
 ラクするためじゃないぞ。早く移動するためだ。

「3,900円になります」
「為替手形でおねがいします」

 為替手形というのは、いわゆる小切手だ。今日はこういうこともあるだろうと思い、用意してきた。

 船頭に魔捜研の身分証を見せて、金額とサインした為替手形を渡す。

「まいど」

 受け取ったほうは、銀行にこの手形を持ち込めば換金してもらえる。そして銀行から魔捜研に為替の写しと請求書が届くという仕組みだ。アナログなクレジットカードみたいなものだね。

 舟を下りたオレとクロエさんは、この地区のナラカン神殿へと向かった。

 しかし、この地区にもクルミの木がある墓地はなかった。

 オレたちはまた舟に乗り、3つ目のナラカンの神殿へと向かった。
 ここもハズレだった。

「そろそろお昼だね」

 4番目のナラカン神殿に向かっていると腹の虫が鳴った。

「どんなお店がお好み?」

 クロエさんが言った。

「この辺りはアタシの縄張りだったの。希望のお店があるなら案内するわよ」
「縄張りって…ああ、葬儀屋の」

 クロエさんはネクロマンサー。魔捜研に参加する前は葬儀屋をしていた。その頃は、ここに住んでいたのか。

「?」

 前からやって来た通行人が、いきなり不愉快な顔になり、道の端に寄った。
 さっきから何人もいる。オレたちを避ける人たちが。

 ……あ。

 クロエさんか。

 クロエさんはネクロマンサー。
 死体を扱うのが仕事だから、忌み嫌う人がいるんだっけ。

 ネクロマンサーは、みな青みがかった灰色の肌をしている。死霊魔法は体質で、その使い手はみなこういう姿になるという。だからネクロマンサーだと一目でわかってしまう。

 クロエさんは慣れているのか平気な顔をしているけど。
 露骨にクロエさんを避ける人たちに、オレはハラが立った。

「そうだ」

 いきなりクロエさんが言った。

「知り合いが近くにいるから、寄ってみない? 手掛かりがつかめるかも」

 知り合いというと、葬儀屋関係かな? 現場のひとの声を聞くのもいいかもしれない。

 クロエさんの案内で、オレは町の小さな墓地へとやって来た。

 小さいといっても墓は100以上はありそうだ。木々に囲まれ、あちこちに花壇もある。
 墓地っていうより霊園かな。

 今も葬儀が行われていて、お棺が土に納められるところだった。

「クロエさん、あれは?」

 霊園の外れに、大きな石のテーブルがある。
 ダブルベッドより一回りおおきいくらいで、土台から何からすべて石でできている。

「ああ、あれは焼き台ね」

 焼き台? この世界ではお墓でバーベキューでもするのか?

「遺体を焼く場所よ」

 うげっ。火葬場か、あれ。

「火葬を希望する人は昔からいてね。火葬屋があの焼き台で遺体を焼くのよ」
「火葬屋? そういう職業があるんだ」
「そ、ちょうど来たわ」

 見れば焼き台のそばに、男が一人やって来た。
 バケツとかブラシを持っているのをみると焼き台の手入れに来たのだろう。
 年齢は30歳くらいだろうか。疲れたような顔をしている。

「ラマンド」
「クロエじゃないか! 久しぶりだな」

 クロエさんが呼びかけると、男──ラマンドがこっちを見て、笑顔になった。


     3


 ラマンドは精霊魔法の使い手で、火の精霊を得意としている。それで火葬屋をやっているという。

「今はお上の研究所に勤めているんだって?」
「魔法捜査研究所よ。この子はソータ。同僚よ」
「どうも」

 さっきは不景気な顔をしていたけど、ラマンドは快活な青年だった。

「クロエは腕のいいネクロマンサーだったからな。いなくなって弱ってるぜ」
「今の葬儀屋は腕が悪いの?」
「悪いっていうか、仕事が雑だ。この前も、火葬中に遺体が踊りやがった」
「死体が踊るぅ?」

 思わず、声を上げてしまった。
 それってゾンビに関係しているのか?

「ゾンビと関係ないわよ」

 オレの顔を見てクロエさんが笑った。

「熱で筋肉や筋が縮むと、手足とかくねくね動くことがあるのよ。それを〈踊る〉って言うの。魚焼くと、反ったりするじゃない? アレと同じよ」

 うげげげ…! 焼き魚とかに例えないでよ。それでなくてもこの前のゾンビー魚がプチトラウマになって、魚が苦手になっているんだから。

「クロエは手ぇ抜かないから、そんなことはなかったけどな」

 ラマンドが言う。
 クロエさんって、おちゃらけているけど、仕事はマジメにするんだよな。
 そんなことを考えた時──

「死霊術なぞ使わなければ、そんな心配もないのですがね」

 後ろから声がかけられた。

 向こうで行われていた葬式の中にいた一人だ。
 ツヤツヤと顔色が良い…というか良すぎる赤ら顔だから、遠くからでも目に付いたんだ。

「誰?」
「ウエスト葬儀社の代表、ウエストです」

 不機嫌なクロエさんの視線。それをニヤニヤと笑って受け止め、赤ら顔──ウエストが名乗った。

「あなたも葬儀屋?」
「最新の魔法技術を用いる葬儀屋です」

 オレの問いに胸を張って答えるウエスト。

「現代は効率と清潔が求められる時代。死霊術も火葬屋も時代遅れ。潔く廃業なさってはいかが?」
「余計なお世話だ!」

 ウエストにラマンドが怒鳴り返す。

「おお、これはこわい。間違って燃やされないうちに退散するとしますかな」

 そういうと、赤ら顔のウエストは去って行った。

「なんだあの人?」

 登場から退場までムカつくヤツだった。

「最新の魔法技術をウリにしている葬儀屋だ。──刻止めの魔法でご遺体を保存、忌まわしい死霊術では死者は眠れない。ゾンビ化しないよう処置します──がうたい文句だ」
「刻止めの魔法? あいつが使えるの?」

 クロエさんが尋ねた。
 刻止めの魔法って、のじゃ子さんがエクトプラズムを保存するのに使った魔法だよな。かなり高度な魔法のはずだ。

「ヤツはルーン魔法の使い手を何人も抱えているらしい」

 そう言うと、ラマンドはため息をついた。

「悔しいが、ヤツの言う通り、時代の流れだな。目の前で遺体を焼くより、見えない場所で焼いて灰にするのを客は好むからな」

 また、大きなため息をついた。

 火葬は見えない場所で…オレだってそのほうがいいと思う。
 だけど、あのウエストの、クロエさんやラマンドがを見下した言い方にはハラが立つ。

「火葬屋を廃業したら、園芸で食ってけばいいじゃないの」

 後ろから女性の声がかかった。

「あら、ウィロウ」
「クロエ、お久しぶり」

 声の主はクロエさんと同い年くらいの女性で、知り合いでもあるようだ。

「オヤジから受け継いだ家業だ。簡単に辞められるか!」
「お、元気出たね。あんたはそうでないと」

 怒鳴ったラマンドに、ウィロウと呼ばれた女性がニッと笑った。


     ×   ×   ×


 ウィロウさんはラマンドの奥さんだった。
 二年前に結婚したばかりの新婚さんである。

 あの後、オレとクロエさんは、近くにある二人の家でランチをご馳走になった。

「さあ、たくさん食べてねっ」

 出て来たのはベーコン入りのクリームソースのパスタでパセリを散らしてあった。
 カルボナーラのコショウをパセリにしたみたいなもので、シンプルだけどうまかった。

「クロエさんに、こんな知り合いがいるとは思いませんでしたよ」
「アタシはへそ曲がりだけど、友だちも同じとは限らないのよ」

 自分で言いますか、へそ曲がりって。しかも自慢げに。

 それにしても、葬儀屋関係なのに明るい人たちばかりだ。葬儀屋=陰キャというのは勝手な思い込みだったな。

「ウィロウはいま園芸家やっているの?」
「悔しいがオレより稼いでいるよ」
「庭木のことで困ったら声をかけてね」

 知り合い三人の和気あいあいの会話。

 うん? 園芸家?

「ウィロウさんって、植物のこと詳しいんですか?」

 思いついて尋ねてみた。

「植物の精霊魔法の使い手よ。霊園の植物の世話をしている内に、才能があることがわかったのよ」
「それじゃ、クルミの木がある墓地を知りませんか?」

 園芸家で、火葬屋の奥さんなら知っているかもしれない。

「墓地にクルミの木は植えないわよ」
「え?」

 予想外の答が返ってきた。

「クルミは他の植物の生長を邪魔するのよ。ひどい場合は、周りにある草木を枯らしてしまうくらい。だから墓地には植えないの。芝生や花が育たなくなるから」
「へぇ、そうなんだ」

 感心する旦那のラマンド。
 その横で、オレとクロエさんは顔を見合わせてしまった。

「思いがけず、ケリが着いたわね」

 苦笑するクロエさん。

 この〈都〉に、クルミの木がある墓地はない。
 それがわかっただけで収穫だ。しかし──

 だとしたら、あの脅迫状を持って来たゾンビは、どこから来たんだ?

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