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File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件
#04 1枚の葉っぱから
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──翌日。
魔捜研のラウンジで、持ち帰った証拠品の分析、その報告会が行われた。
「まずは馬車の微物から。サミちゃん」
「はいっ」
と、サミちゃんが立ち上がり、メモを読み上げる。
「馬車に残されていた微物は、異なる場所のものと思われる土壌が四つありました。照合できたのは一つ。ニューロックのお屋敷で採取した土だけです」
「あとの三つの土…一つは王宮として、あとはゾンビに付着していた土かな?」
「後で王宮の土の採取を申請しておこう」
「お願いします、のじゃ子さん」
王宮の中にはオレたちでは入れない。
「あとでこっちに回してサミちゃん。墓地の土には独特の成分があるから」
クロエさんが言う。
「お願いします。あと、もう一つ。人間の爪っぽいものがあったんですが」
サミちゃんが証拠袋をクロエさんに手渡した。
「……死体から剥がれたものね」
軽くにおいを嗅いでクロエさんが断言した。
におい…そうだ!
「のじゃ子さん。犬使えませんか?」
「犬じゃと?」
「オレの世界では、犯罪者のにおいを追いかけて立ち回り先や居場所見つける警察犬っていうのがいるんですよ。こっちの世界で、その役割ができそうな犬いませんか?」
「追跡犬か。地方の護民兵が使っていると聞いたことはあるが、〈都〉にいたかのう?」
そうか。犬ならなんでもいいってわけじゃないもんな。
「それじゃあ次はのじゃ子さん。脅迫状のほうはどうですか?」
「結論から言うと外れじゃな」
のじゃ子さんはテーブルの上のフォトクリスタルに手を伸ばすと、空中に脅迫状の映像を投映させた。
「紙は上質のもので、指紋も少し。文書は筆跡と使われている単語から、書いたのは教養のある人物だとわかるのじゃが」
筆跡だけで、そこまでわかるのか。
でもなんでハズレ?
「ニューロックの屋敷でもらって来たサンプルと比べると」
脅迫状とは別の文書が表示された。「15日、王宮。文官用」と書かれている。何かのメモらしい。
「これを書いたのは誘拐されたブライズじゃった。指紋も同じ。紙は馬車の引き出しに同じものがあった。おそらく、犯人に脅されて書いたのじゃろう」
「はぁ」
ガッカリのため息が出た。
ドラマと違って、ハズレの証拠品って結構あるよな。
それにしても、人質に脅迫状を書かせるなんて、この犯人は用心深いヤツみたいだな。
騎士団が捕まえられないわけだ。
2
「アタシからは二つ」
クロエさんはそう言うと、テーブルの上に小さなガラス瓶を置いた。
彼女が死霊術を使う時、赤く光る液体──人工の幽体エクトプラズムを作り出すあの小瓶だ。中に赤く光るエクトプラズムが入っている。
「これ、メッセンジャーゾンビに残っていたエクトプラズムよ」
「おおーっ」
オレはじめ、みんなが驚きの声を上げる。
「これで何がわかるの? クロエさん」
勢い込んで尋ねると。
「いまは何にも」
「えぇ~?」
ガッカリするオレにクロエさんは笑うと、
「まあちょっと見てて」
小瓶のフタを開け、クロエさんはそこに右の人差し指を置いた。
細いキレイな指先に、小さな赤い雫が生まれた。
血? と一瞬思ったけど、それはクロエさんのエクトプラズムだった。
赤い雫が、小瓶の中にしたたり落ちた。
「よく見て」
クロエさんが小瓶をかるく振り、それをオレに手渡した。
「あれ?」
小瓶の中の赤く光る液体。その上のほうに、小さな丸い塊がある。
これ、今落とした、クロエさんのエクトプラズムか。まるで水に落とした油みたいに、透明な境界線があって、小瓶の中にあったエクトプラズムと混ざり合ってない。
「違う術者のエクトプラズムは混じり合わないのよ」
「なるほど! これは使える!」
「え? どういうことですか?」
サミちゃんがクロエさんとオレを見くらべるようにして言う。
「誘拐に関与したと思われるネクロマンサーがいたら、エクトプラズムを提出してもらうんだ。この小瓶のものと混ざり合ったら、そいつがメッセンジャーゾンビを作ったヤツってことだよ」
「なるほど!」
サミちゃんが感嘆する。
「問題は、この採取したエクトプラズムの寿命が短いことね」
クロエさんがまた小瓶に指先を当てた。小瓶の中にあったクロエさんのエクトプラズムの雫が、逆再生みたいに彼女の指先に戻って消えた。
「どのくらい?」
「もって3日…ってところかな」
「そんなに短いの? 冷凍とかで期限伸ばせない?」
「エクトプラズムは物質じゃないからね」
クロエさんが困ったように言う。そこに、
「ちと待つがよい」
そう言って、のじゃ子さんが空中に光るルーン文字を書きはじめた。
かなりの量の文字列が並ぶ。テレポートゲートより量が多いぞ。
そう思った時、フィニッシュの二重線が引かれ、魔法が完成。テープルの上に、直径5センチくらいの小さな魔法陣が現れた。
「そこに置くのじゃ」
のじゃ子さんに言われ、クロエさんはエクトプラズムの小瓶を小さな魔法陣の上に置いた。
その直後、魔法陣は強く輝き、そして消えた。
「刻止めの魔法じゃ。これで10日は持つはずじゃ」
時間を停止させて保存するのか!
「すげぇ」
思わずつぶやくと、
「ふふん。わしは大賢者じゃからなっ」
と威張って、ない胸を張った。
「もう一つあるといったが、なんじゃ?」
「あ、そうそう。コレ」
のじゃ子さんに言われ、クロエさんが証拠袋からテーブルの上に出したのは、一枚の葉っぱだった。
「メッセンジャーのゾンビに着いてたのよ」
「サミ、わかるか?」
「えぇっと、見覚えはあるんですが……」
サミちゃんが小首を傾げる。
「サミちゃんって植物にも詳しいの?」
「錬金術では薬草も一通り習いますから」
そう言って、サミちゃんは、うーん…と、かわいくうなってまた首を傾げた。
3
「よう、調子はどうでい?」
そこにペイジがやって来た。
「陣中見舞いだぜ」
と、紙袋をサミちゃんに手渡す。
「わあ、ありがとうございます」
「ちょうどいい。休憩にするかの」
のじゃ子さんが言い、サミちゃんが
「お茶淹れてきますね」
と、キッチンへと向かう。
入れ替わるように、ペイジがどっかとソファに座る。コイツ、自分の家みたいにくつろいでるな。
「んで? 何かわかったかい?」
オレはペイジに今まで分かったことを説明した。
説明し終わる頃、サミちゃんがお茶と皿に載せたクッキーを持って来た。
「とりあえず、下手人を判別できる目途は立ったわけだな」
うなずくとペイジはクッキーをボリボリかじった。
「このクッキーは?」
「ああ、ハンナが焼いてくれたンだ。イケるぜ」
「へぇ」
あのドワーフのばあさんってお菓子も作るんだな。
ナッツがたくさん入ったクッキーで、チョコチップみたいなものも混じっている。
「これ、チョコじゃないか!?」
一口食べて驚いた。味もチョコそっくりだったのだ。
「ちょこって?」
「カカオっていう豆から作る、オレの世界にあったお菓子だよ」
まさか異世界にチョコレートがあるとは感動だ。
「これはイナゴマメじゃぞ」
と、思ったら、のじゃ子さんが否定した。
「へ? チョコじゃないの?」
「うむ。わりと大きな木でな、サヤの中にある果肉は砂糖が普及する前、甘味料として使われていたのじゃ」
「この茶色いツブは豆じゃなく、サヤの果肉なの?」
「その通りじゃ。豆のほうは食用には向かないのでな。薬かハーブティーに使われるくらいじゃな」
豆のほうじゃないなら、やっぱりカカオじゃないんだな。
言われてみると、チョコとは風味が違うような? 気のせいかもだけど。
「ああっ!」
突然サミちゃんが叫んで立ち上がった。
「この葉っぱ、きっとクルミです!」
言うなり、サミちゃんはラウンジの隣の書庫へと駆け込んだ。
直後、どさどさーっ!と、本がなだれ落ちる音と、「きゃあああ!」というかわいい悲鳴があがった。
「さ、サミちゃん?」
「大丈夫です! それよりこれを」
書庫の前に駆け寄ったオレの前に、サミちゃんが図鑑を開いて見せた。
「間違いありません。さっきの葉っぱはクルミです。ナッツのクッキーで思い出しました。クルミの葉は、乾燥して虫除けにしたり、染料を取ったり。お茶にも出来るんです」
虫除けに染料に…クルミの葉っぱって色んな利用法があるんだな。
「な、なんだ? どうしたんだ?」
ペイジが驚きに目を見開いている。
「ペイジ!」
「お、おう」
「最近、墓地が荒らされたり、死体が盗まれたりした事件はないか調べてくれ」
「ガッテンだ! で、ソータたちは?」
オレはクロエさんたちを振り返り、言った。
「オレとクロエさんはクルミの木が植えられている墓地を探す。のじゃ子さんは王宮の土と犬の件を頼みます」
「任せるのじゃ」
「サミちゃんはラボで証拠品の分析を続けて。何かあったら連絡するから」
「お任せください!」
まだ手掛かりというには心許ない。
でも、最初の手掛かりはこんなものだ。
ここからだ。次はもっと大きな手掛かりを。
そして、必ず、犯人にたどり着くぞ!
10
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