まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件

#03 臨場、ニューロック屋敷

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     1


「うわ……」

 馬車を見てオレはうめいてしまった。

 ニューロックの屋敷。その庭に誘拐されたブライズ氏が乗っていた馬車があった。

 豪華だけど頑丈そうな馬車。その馬車の、片側のドアが引き剥がされている。ブライズ氏を誘拐したゾンビたちがやったのだ。

「ゾンビって力強いの?」

 映画なんかだと、数こそ力みたいな感じで、あまり腕力がある感じじゃなかったような。

「生前の身体能力が基本になるから、バラつきはあるけど、ウマかクマくらいのパワーはあるんじゃないかな」
「そんな強いの!」

 人の形をした猛獣じゃないか。おっかねぇ。

 話している間に、サミちゃんがフォトクリスタルで馬車の内外を撮影してゆく。
 前の事件でも使っていた、プロジェクターにもなる魔法のカメラだ。

 見た目はレモンくらいの大きさの多面体のクリスタル。デフォルトでは水平・垂直360度の空間を撮影する。個別の対象を撮りたい場合は、クリスタル越しに対象をのぞき込み、多面体のどこかをなでるのだ。
 カメラを構えるポーズは似ているけど、シャッター音はしない。機械パーツは一切ないからね。

 ちなみに撮影した映像はクリスタルに直接記録される。この世界ではフィルムカメラより前にデジカメが誕生したというわけだ。

「微物と指紋の採取はじめます」

 サミちゃんは長い青色の髪をペン1本でくるくると頭の後ろでまとめる。ドジっ子だけどこの子は器用なんだよね。

「きゃあっ!」

 と思ったそばからコケた!

「あぶない!」

 とっさに抱きとめる。すぐ近くにいてよかった。あやうくサミちゃんの顔が馬車のシートに激突するところだった。
 それにしても……。

 女の子ってやわらかい。

 いけない場所をさわっているわけじゃない。なのに感動的なやわらかさだ。
 それに髪をアップしたことで普段見えない、彼女の白い首筋が露わになっている。そこにもドキドキしてしまう。

「ありがとうございます」

 はっ! サミちゃんの声で我に返った。胸とかおしりとかをうっかりさわらないよう注意して、彼女が立つのを助ける。

「またコケちゃいました」

 えへへ、と笑うサミちゃん。

 その笑顔に、ちょっと罪悪感。

 それと、オレはかなりドキドキしているのだけど、サミちゃんはなんにも意識していない様子だ。
 それは彼女がピュアだからなんだけど…オレを男と見てないような気がして、ちょっとモヤる。

「気をつけてね。証拠品の中にサミちゃんの髪とか入ったら大変だからね」
「は、はいっ! 気をつけます」

 モヤる心を隠す注意の言葉に、サミちゃんはまじめに返事する。
 また、ちょっと罪悪感。

「よろしくね、サミちゃん」

 馬車の証拠採取はサミちゃんに任せ、オレとクロエさん、のじゃ子さんは、ペイジの案内で屋敷の中に入った。


     2


 ──ニューロックは〈都〉でも有数の大富豪。

 と聞いていたから、その屋敷の中は金ピカ、豪華絢爛、贅沢三昧なものだと思っていたけど、そんなことはなかった。

 たしかに広いけど、シンプルで落ち着いた雰囲気だ。たぶん素材とかデザインとかにカネがかかっているんだろう。

「ここだ」

 ペイジがドアを開けたその部屋は、イスやテーブルが積まれた物置だった。パーティなんかの時に追加で出すイスとかだろう。

 その部屋のまん中に、シーツがかけられた死体──脅迫状を持って来たゾンビがあった。

「これがメッセンジャーゾンビか」

 クロエさんはそう言うと、シーツをはいだ。

「うわ……」

 顔の半分が腐りかけの死体に、オレはうめいてしまう。
 そんなオレを見て、クロエさんはニっと笑うと、ゾンビを検め始めた。

 死体に顔を寄せ、見て、においを嗅ぎ、触って確かめる。
 本職だからだろうけど、よく平気だよな。

「服装がちぐはぐじゃな」

 同じく、平気な顔をしたのじゃ子さんが言う。

「上衣はかなり上等なもの。じゃが下は労働者がよく着るものじゃ」
「上衣は、さらわれたブライズ氏のものだ。奥さんたちが証言した」

 ペイジが言う。
 こいつも平気な顔をしている。この部屋で死体を見ても平気じゃないのはオレだけだ。

「なるほど。脅迫状だけでは誘拐した証しにはならんからな。メッセンジャーゾンビに上衣を着せて届けたわけか」

 のじゃ子さんがうなずく。
 服からこのゾンビだった死体の身元を調べるのは無理か。

「気分悪ぃのか?」

 ペイジが目ざとく、オレの顔色が悪いのを見つけた。

「無理すンな。気分悪ぃなら外出てろよ」

 からかわれるかと思ったら心配された。

「大丈夫だ。オレは主任研究員だからな」

 やせ我慢する。ペイジが相手だと、心配されるほうがシャクだ。

「これは自然死──多分、病気で死んだ死体ね」

 死体から顔を上げ、クロエさんが言った。

「病死? どういうことでい?」

 ペイジが尋ねる。

「この死体は、ゾンビ化するために殺されたんじゃないってこと。多分、病気で死んで葬られた死体を掘り出して利用したのね」
「ゾンビにするために殺されたわけじゃないのか」

 ちょっとほっとした。

「ゾンビにされてどのくらいかわかるかな? クロエさん」

 ゾンビ化された時期がわかれば、それは死体が盗まれた時だろう。その時期、墓荒らしがあった墓地を見つければ、犯人の手掛かりになる。

「今はちょっとわからないわね。ゾンビ化すると腐敗は止まるから」

 むぅ…そうなんだ。

「今わかるのは、この死体は死後1週間から10日くらいってことね。それも土とかお棺とか、条件によって幅があるけど」

 クロエさんはペイジを見て、

「荷馬車を一台頼める? この死体、ラボに持って帰りたいんだけど」

 と、頼んだ。
 予算が限られている魔捜研には馬車とかもないんだよな。

「ガッテンだ。あとで手配しとくぜ」
「クロエさんなら死体をゾンビにできるよね? 今回はやらないの?」

 酒場の主殺人事件の時は、被害者の遺体を運ぶのにゾンビ化した。

「やれるけど、それやると手掛かりが消えちゃうのよ」
「手掛かりって?」
「ゾンビ化した術者の手掛かりが残っているのよ」

 クロエさんが語ったのは、この世界おける生命、そしてゾンビを作る仕組みだった。

 人間をはじめとする生物には、物質である肉体とエネルギー体の幽体とがある。

 肉体には様々な精霊エネルギーが働いていて、幽体はこのバランスを調整している。
 精霊エネルギーのバランスが崩れた状態が「病気」や「老化」であり、大きく崩れると肉体は活動不能──「死」を迎える。
 そして肉体が死ぬと幽体も壊れ、消滅する。

 オレたちの世界──物質がエネルギーより優位な下位世界では、死ねばそれで終わりだ。だが、この世界のようにエネルギーと物質に優位の差がない、あるいはエネルギーが優位な上位世界では事情が違う。

 魔法で人工的な幽体を作り、それを死体に入れることで蘇らせることができるのだ。

 これがゾンビと呼ばれる存在だ。

 もっともこの人工幽体には、生前の記憶や経験といったものは入っていない。だからゾンビは自我も感情もないし、生前の記憶も無い。頭が空っぽのロボットみたいな存在なのだ。

「その人工幽体をエクトプラズムって言うんだけど、ゾンビが機能停止しても、このエクトプラズムの残りカスが残っているのよ。でもアタシがこの死体をゾンビ化すると、それは消えちゃうの」

 ファイルを上書きしするようなものか。だからもう一度ゾンビにすることはできないと。

「残っているエクトプラズムを抽出できれば、ゾンビを作った術師の手掛かりになるはずよ」

 おお、爆弾の残骸から爆弾作った犯人の特徴を見つける感じだな。

「じゃあ馬車の手配を待つ間、脅迫状を調べよう」


     3


 オレたちが通された部屋は、応接室っぽい部屋だった。

 内装は多分、品良くお高いものだと思うのだけど、そんなもの気にしている余裕は無かった。

 部屋には、30歳手前くらいの女性と、丸眼鏡の神経質そうな40代の男。そして、

「何用だ?」

 ゴーワン騎士団長と騎士が数人いた。

 オレたちが入ると、ギロリとこっちをにらみつけた。
 その迫力と、何より、前に捕まって拷問されかかった記憶に、一瞬、すくんでしまった。
 クッソ…負けるか!

「脅迫状を調べに来ました」

 自分を奮い立たせて言うと、ゴーワン団長は「ふん」と鼻を鳴らした。

「脅迫状から何がわかるというのだ?」
「まず文字です。文字の特徴は犯人を特定する手掛かりになります。紙は、犯人の指紋や手掛かりがついている可能性があります。また購入した店を見つけることができれば、その近くに住んでいる可能性が高いです」

 オレの説明に、女性と丸眼鏡の男が「おお」と感嘆の声を上げた。

「えっと、こちらは?」
「ブライズ氏の奥さんのエアリーさん。こちらはニューロック服作店の支配人のパレル氏だ」

 ペイジが教えてくれた。

「お願いします。主人を助けて下さい」

 奥さん──エアリーさんが涙目で言った。
 誘拐されたブライズ氏は55歳だっけ? その奥さんにしてはかなり若いな。

「ご主人を助けるためには情報が必要です。ご主人の周囲に、恨んでいる人とか、お金に困っている人とかはいませんか?」
「それは──」
「そんなことは我々騎士団が調べる! 貴様らは証拠品の鑑定だけしておれ」

 奥さんが何か答える前、ゴーワン団長が怒鳴った。

 うわぁ…鑑識はすっこんでろとか、日本の鑑識ものの定番だよ。

「奥さま、捜査よりも旦那さまの無事が第一です。身代金の用意を急ぎませんと」

 丸眼鏡──支配人のパレル氏が言う。

「身代金を支払えば、誘拐された者は無事に帰ってきております。次の使者が来るまで──」
「第一にするのは犯人逮捕だ!」

 パレル氏を遮って、またゴーワン団長が怒鳴った。

「これ以上、死人団の跳梁を許せば国の威信に関わる。ヤツらは必ず殲滅する! そのためには人質の命など二の次だ! いやしくも王国の民ならそのように考えよ!」
「そんな──」

 奥さんが叫んでソファにへたり込む。

「貴様らはラボに籠もり、手紙でも死体でも調べるがいい。鑑定とやらはヤツらをみな殺しにしたあとで読んでやる」

 そう言うと、ゴーワン団長は「しっしっ」というふうに手を振った。

「ラボに戻ろうかの」
「はい」

 のじゃ子さんにオレはうなずいた。

 ゴーワン、この脳筋騎士団長は、話しが通じる相手じゃない。
 ヤツの頭には歩く死人団を殲滅することしかない。

 コレに任せていたらブライズ氏が危ない。
 家族やニューロックのお店の人たちのためにも、死人団のアジトを突き止めないと!


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