まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

GIN

文字の大きさ
41 / 43
File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件

#11 死者が導く誘拐犯のアジト

しおりを挟む


     1


「ニューロックの御家騒動って?」
「旦那方の親戚と、エアリー夫人の実家ハースト男爵の一族がやり合っている。旦那が死んだあと、ニューロックの財産をどう分けるかでな」

 ペイジが手帳をめくり答える。

「なんだそりゃ」
「〈都〉でも有数の金持ちだもんね。大変だ」

 あきれるオレと、面白がっている様子のクロエさん。

「ハースト男爵家はけっこうな額の借金があったンだ。で、娘をヨメにやって一息ついたンだが、それがニューロックの親戚たちは面白くない。ヨメに来た時から相当な嫌がらせがあったらしい」
「嫁ぎ先の親戚にいびられる嫁かあ。政略結婚だし、旦那殺して財産いただこうって気になってもおかしくないわね」

 クロエさんがこわいことを言う。

「もしブライズ氏が殺されたらどうなるんだ?」

 魔捜研立ち上げの時、この国の法律をちょっと勉強したけど、相続とかは見てなかった。

「法律じゃあ、財産の半分は夫人のものになる。それが許せないってんでニューロックの親戚たちは夫人の評判を落とそうと躍起になっている」
「スキャンダル見つけて追い出そうっていうの? 醜悪ねぇ」

 と言いながら、うれしそうですよ? クロエさん。

「騎士団はどう考えているんだ?」
上層部うえは、エアリー夫人が死人団と通じていると疑っている。もし死人団を取り逃がしたら、夫人を捕まえて締め上げる気だ」
「ほとんど八つ当たりじゃないか!」

 共犯者を捕まえたことにしてメンツを守るつもりか。冤罪かもしれないのに。

「だが、今のところ、夫人が一番あやしいのは事実だ」

 不本意そうにペイジが言う。

 ニューロックの関係者の中に、死人団と内通しているものがいるのは間違いない。

 ニューロックのを恨む職人と工場主。
 シェアを独占しているニューロックを快く思わない商売敵たち。
 その手下とかがニューロックに入り込んでいる可能性はある。

 そして、莫大な財産を狙っている(かもしれない)夫人とその親族だ。
 ブライズ氏が殺されたら、得をするのはエアリー夫人とその親族だ。

 恨みか、シェアの独占か、莫大な財産か。
 どこが死人団に協力していてもおかしくない。

 朝に会ったエアリー夫人の姿をオレは思い出した。

 MZ1号でアジトを見つけることを話したら、ヒステリー気味にオレたちを追い払った。

 内通者は、やはり夫人なのだろうか? それとも──


     2


 ゾンビ──MZ1号を先に歩かせ、オレとクロエさん、そしてペイジが続く。

「そろそろね」

 ゾンビを操るクロエさんがつぶやいた。

 場所は墓荒らしがあった無縁墓地。

 無縁墓地は、身寄りの無い遺体や葬儀費用のない貧民たちの墓地だ。
 その名を聞いた時は、ボロボロの墓石と枯れ木や石ころだらけの不気味な場所を想像したのだが、そんなことはなかった。

 芝生と花壇が整えられていて、四角い石のプレートがたくさん地面に置いてある。これが墓石だ。
  この簡素な墓石がなければ公園だと思うかもしれない。そんなきれいな場所だった。

 その中をMZ1号が、ぎくしゃくしたゾンビ特有の足取りで歩いてゆく。
 オレたちは、MZ1号の後に続き、無縁墓地を通り抜けていった。

 無縁墓地の先は、辺りに人家はなく、ちょっとした森みたいになっていた。
 森の中の道を進むこと少し、急に森が開け、鉄柵に囲まれた大きな建物が現れた。

 背の高い平屋で、横に広いその作りは、さっき見たニューロックの工場に似ている。
 大きさはニューロックの工場の半分もないけど、この建物は、屋敷ではなく工場なのだ。建物の奥のほうには高い煙突があった。

「お、あの木は」

 ペイジが指差す先、工房のすぐ横に大きな木があった。

 緑の葉と垂れ下がった小さなツブツブの集まりみたいな花が風に揺られている。

「クルミの木だね」

 その葉は、最初に脅迫状を持って来たゾンビ──このMZ1号に着いていたのと同じものだった。

 そして鉄柵の門には

 ──ウエスト葬儀社。

 と、看板が掲げられている。

「最新の魔法技術がウリの葬儀屋が、歩く死人団のアジトだったとはね」

 クロエさんが低い声でつぶやいた。

「ようし! 早速踏み込むぜ!」

 こん棒を抜くとペイジは、ずかずかと建物に向かって行く。

「さて、何が出て来るか」

 苦笑してクロエさんとオレ、そしてMZ1号が後に続く。

 ペイジが鉄柵の門をくぐったところで、建物から屈強な男たちが出て来た。

「お上の御用だ! 中をあらためさせてもらうぜ!」

 男たちが何か言う前にペイジが宣言した。

「御用ってなんでぇ?」
「お前さんひとりかい?」

 屈強な男たちがペイジの前に立ちはだかる。
 どいつもゴツい体格で、ランニングシャツと作業ズボンという格好だ。その何人かには見覚えがあった。

 ガラン運輸の作業員。身代金受け渡しの4番倉庫にいた作業員たちだ。

「嬢ちゃん、ホントに護民兵かい?」
「ンだとぉ? このベストとガードロッドが見えねぇのかっ!」

 ペイジがこん棒を一振りした。
 すると、まっすぐだった棒がトンファーみたいな形に変形した。

 ──ガードロッド。

 黒ベストと並ぶ護民兵の装備である魔法の警棒だ。
 その変形をオレははじめて見た。


     3


「四の五の抜かしていると、ぶっ飛ばすぞ!」

 ペイジが怒鳴る。屈強な男たちを前にしてもまるで恐れてない。

「お、やんのか?」

 と、男たちが身構える。

「危ないわねぇ」

 クロエさんがつぶやいて指を小さく振った。

 すると、ゾンビMZ1号が、男たちに向かって歩き出した。

「なんだてめぇは?」

 ガラン運輸の作業員の一人がすごむ。
 人相とガラの悪いマッチョににらまれる…一般人ならビビるだろうけどゾンビには通用しない。
 MZ1号は、ペイジの横を抜け、建物へと向かう。

「待てコラ!」

 作業員が止めようとしたが止められない。ゾンビの筋力はウマやクマに匹敵するからだ。

 二人がかり、三人がかりで止めようとしてもMZ1号は止まらない。押し合っている弾みに、被っていたフードが外れた。

「こいつゾンビだ!」

 屈強な男たちも、ゾンビはこわいらしい。
 半分腐りかけの顔があらわになった途端、腰砕けになってしまう。

「その調子!」

 印を結びながらクロエさんが楽しそうに叫ぶ。

 クロエさんに操られたMZ1号はウエスト葬儀社の工房、その入り口の前にまで進むと、ドアを開けた。その直後──

 まばゆい光が炸裂した。

「なっ!?」

 クロエさんが驚きの声を上げる。

 MZ1号が光に包まれたかと思った次の瞬間、ゾンビは糸が切れた人形みたいに膝からくずおれたのだ。

 これ、ゾンビが元の死体に戻ったのか? オレがそう思った時、

「困りますなぁ。穢らわしいモノを持ち込まれては」

 工房の中から、赤ら顔の男──ウエストが現れた。

「今のは?」

 オレが思わずつぶやくと、

「防御結界ですよ。不浄の存在を寄せ付けぬための。我が社は安心と清潔がモットーですからな」

 ウエストが赤ら顔をゆがめて笑った。

「あんたがここの頭か?」
「左様でございます」

 ペイジの問いに、ウエストが礼をして答える。
 慇懃無礼っていうんだっけ? 礼儀正しいようで小馬鹿にしてる感じがプンプン伝わって来る。

「ここに、誘拐された人間が閉じ込められているって情報があった。中を見させてくんな」
「どこの誰がそのようなデマを! 大方、私を妬む者でしょうが」

 ウエストは、ペイジに大げさに嘆いて見せると、

「どうぞ、存分にお検めを」

 と、入り口から退いて道をあけた。

「ただし! ネクロマンサーはご遠慮願いたい」

 クロエさんを見て、ウエストは唇を歪めた。嘲りの笑みだ。

「何故ですか?」
「企業秘密がありますからな。何より、ネクロマンサーのような穢れた存在を入れると評判にキズがつきます」

 それがウエストの答えだった。
 一々ムカつくヤツだ。


     ×   ×   ×


「邪魔したな」

 ペイジとオレは、時間をかけてウエスト葬儀社の工房の中を調べてまわった。

 たくさんの棺桶や、葬儀で使う道具、死体を焼く炉、黒塗りの霊柩馬車などはわかったけど、大半のものは何に使うのかオレにはわからなかった。

 人を隠せそうな場所は片っ端から調べたけど、ブライズ氏はもちろんゾンビの1体すらなかった。

「クッソ! ここだと思ったのに!」

 オレは大声で叫び、地面を蹴った。

「行くぜ」
「またフリダシからかぁ」

 ペイジが促し、クロエさんが大げさにため息をついた。

 そんなオレたちを、

「お役目、ご苦労に存じます」

 ウエストとガラン運輸のマッチョたちが、嘲りの笑みを浮かべ見送った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

処理中です...