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File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件
#11 死者が導く誘拐犯のアジト
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「ニューロックの御家騒動って?」
「旦那方の親戚と、エアリー夫人の実家ハースト男爵の一族がやり合っている。旦那が死んだあと、ニューロックの財産をどう分けるかでな」
ペイジが手帳をめくり答える。
「なんだそりゃ」
「〈都〉でも有数の金持ちだもんね。大変だ」
あきれるオレと、面白がっている様子のクロエさん。
「ハースト男爵家はけっこうな額の借金があったンだ。で、娘をヨメにやって一息ついたンだが、それがニューロックの親戚たちは面白くない。ヨメに来た時から相当な嫌がらせがあったらしい」
「嫁ぎ先の親戚にいびられる嫁かあ。政略結婚だし、旦那殺して財産いただこうって気になってもおかしくないわね」
クロエさんがこわいことを言う。
「もしブライズ氏が殺されたらどうなるんだ?」
魔捜研立ち上げの時、この国の法律をちょっと勉強したけど、相続とかは見てなかった。
「法律じゃあ、財産の半分は夫人のものになる。それが許せないってんでニューロックの親戚たちは夫人の評判を落とそうと躍起になっている」
「スキャンダル見つけて追い出そうっていうの? 醜悪ねぇ」
と言いながら、うれしそうですよ? クロエさん。
「騎士団はどう考えているんだ?」
「上層部は、エアリー夫人が死人団と通じていると疑っている。もし死人団を取り逃がしたら、夫人を捕まえて締め上げる気だ」
「ほとんど八つ当たりじゃないか!」
共犯者を捕まえたことにしてメンツを守るつもりか。冤罪かもしれないのに。
「だが、今のところ、夫人が一番あやしいのは事実だ」
不本意そうにペイジが言う。
ニューロックの関係者の中に、死人団と内通しているものがいるのは間違いない。
ニューロックのを恨む職人と工場主。
シェアを独占しているニューロックを快く思わない商売敵たち。
その手下とかがニューロックに入り込んでいる可能性はある。
そして、莫大な財産を狙っている(かもしれない)夫人とその親族だ。
ブライズ氏が殺されたら、得をするのはエアリー夫人とその親族だ。
恨みか、シェアの独占か、莫大な財産か。
どこが死人団に協力していてもおかしくない。
朝に会ったエアリー夫人の姿をオレは思い出した。
MZ1号でアジトを見つけることを話したら、ヒステリー気味にオレたちを追い払った。
内通者は、やはり夫人なのだろうか? それとも──
2
ゾンビ──MZ1号を先に歩かせ、オレとクロエさん、そしてペイジが続く。
「そろそろね」
ゾンビを操るクロエさんがつぶやいた。
場所は墓荒らしがあった無縁墓地。
無縁墓地は、身寄りの無い遺体や葬儀費用のない貧民たちの墓地だ。
その名を聞いた時は、ボロボロの墓石と枯れ木や石ころだらけの不気味な場所を想像したのだが、そんなことはなかった。
芝生と花壇が整えられていて、四角い石のプレートがたくさん地面に置いてある。これが墓石だ。
この簡素な墓石がなければ公園だと思うかもしれない。そんなきれいな場所だった。
その中をMZ1号が、ぎくしゃくしたゾンビ特有の足取りで歩いてゆく。
オレたちは、MZ1号の後に続き、無縁墓地を通り抜けていった。
無縁墓地の先は、辺りに人家はなく、ちょっとした森みたいになっていた。
森の中の道を進むこと少し、急に森が開け、鉄柵に囲まれた大きな建物が現れた。
背の高い平屋で、横に広いその作りは、さっき見たニューロックの工場に似ている。
大きさはニューロックの工場の半分もないけど、この建物は、屋敷ではなく工場なのだ。建物の奥のほうには高い煙突があった。
「お、あの木は」
ペイジが指差す先、工房のすぐ横に大きな木があった。
緑の葉と垂れ下がった小さなツブツブの集まりみたいな花が風に揺られている。
「クルミの木だね」
その葉は、最初に脅迫状を持って来たゾンビ──このMZ1号に着いていたのと同じものだった。
そして鉄柵の門には
──ウエスト葬儀社。
と、看板が掲げられている。
「最新の魔法技術がウリの葬儀屋が、歩く死人団のアジトだったとはね」
クロエさんが低い声でつぶやいた。
「ようし! 早速踏み込むぜ!」
こん棒を抜くとペイジは、ずかずかと建物に向かって行く。
「さて、何が出て来るか」
苦笑してクロエさんとオレ、そしてMZ1号が後に続く。
ペイジが鉄柵の門をくぐったところで、建物から屈強な男たちが出て来た。
「お上の御用だ! 中を検めさせてもらうぜ!」
男たちが何か言う前にペイジが宣言した。
「御用ってなんでぇ?」
「お前さんひとりかい?」
屈強な男たちがペイジの前に立ちはだかる。
どいつもゴツい体格で、ランニングシャツと作業ズボンという格好だ。その何人かには見覚えがあった。
ガラン運輸の作業員。身代金受け渡しの4番倉庫にいた作業員たちだ。
「嬢ちゃん、ホントに護民兵かい?」
「ンだとぉ? このベストとガードロッドが見えねぇのかっ!」
ペイジがこん棒を一振りした。
すると、まっすぐだった棒がトンファーみたいな形に変形した。
──ガードロッド。
黒ベストと並ぶ護民兵の装備である魔法の警棒だ。
その変形をオレははじめて見た。
3
「四の五の抜かしていると、ぶっ飛ばすぞ!」
ペイジが怒鳴る。屈強な男たちを前にしてもまるで恐れてない。
「お、やんのか?」
と、男たちが身構える。
「危ないわねぇ」
クロエさんがつぶやいて指を小さく振った。
すると、ゾンビMZ1号が、男たちに向かって歩き出した。
「なんだてめぇは?」
ガラン運輸の作業員の一人がすごむ。
人相とガラの悪いマッチョににらまれる…一般人ならビビるだろうけどゾンビには通用しない。
MZ1号は、ペイジの横を抜け、建物へと向かう。
「待てコラ!」
作業員が止めようとしたが止められない。ゾンビの筋力はウマやクマに匹敵するからだ。
二人がかり、三人がかりで止めようとしてもMZ1号は止まらない。押し合っている弾みに、被っていたフードが外れた。
「こいつゾンビだ!」
屈強な男たちも、ゾンビはこわいらしい。
半分腐りかけの顔があらわになった途端、腰砕けになってしまう。
「その調子!」
印を結びながらクロエさんが楽しそうに叫ぶ。
クロエさんに操られたMZ1号はウエスト葬儀社の工房、その入り口の前にまで進むと、ドアを開けた。その直後──
まばゆい光が炸裂した。
「なっ!?」
クロエさんが驚きの声を上げる。
MZ1号が光に包まれたかと思った次の瞬間、ゾンビは糸が切れた人形みたいに膝からくずおれたのだ。
これ、ゾンビが元の死体に戻ったのか? オレがそう思った時、
「困りますなぁ。穢らわしいモノを持ち込まれては」
工房の中から、赤ら顔の男──ウエストが現れた。
「今のは?」
オレが思わずつぶやくと、
「防御結界ですよ。不浄の存在を寄せ付けぬための。我が社は安心と清潔がモットーですからな」
ウエストが赤ら顔をゆがめて笑った。
「あんたがここの頭か?」
「左様でございます」
ペイジの問いに、ウエストが礼をして答える。
慇懃無礼っていうんだっけ? 礼儀正しいようで小馬鹿にしてる感じがプンプン伝わって来る。
「ここに、誘拐された人間が閉じ込められているって情報があった。中を見させてくんな」
「どこの誰がそのようなデマを! 大方、私を妬む者でしょうが」
ウエストは、ペイジに大げさに嘆いて見せると、
「どうぞ、存分にお検めを」
と、入り口から退いて道をあけた。
「ただし! ネクロマンサーはご遠慮願いたい」
クロエさんを見て、ウエストは唇を歪めた。嘲りの笑みだ。
「何故ですか?」
「企業秘密がありますからな。何より、ネクロマンサーのような穢れた存在を入れると評判にキズがつきます」
それがウエストの答えだった。
一々ムカつくヤツだ。
× × ×
「邪魔したな」
ペイジとオレは、時間をかけてウエスト葬儀社の工房の中を調べてまわった。
たくさんの棺桶や、葬儀で使う道具、死体を焼く炉、黒塗りの霊柩馬車などはわかったけど、大半のものは何に使うのかオレにはわからなかった。
人を隠せそうな場所は片っ端から調べたけど、ブライズ氏はもちろんゾンビの1体すらなかった。
「クッソ! ここだと思ったのに!」
オレは大声で叫び、地面を蹴った。
「行くぜ」
「またフリダシからかぁ」
ペイジが促し、クロエさんが大げさにため息をついた。
そんなオレたちを、
「お役目、ご苦労に存じます」
ウエストとガラン運輸のマッチョたちが、嘲りの笑みを浮かべ見送った。
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