まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File03 死体が歩いて脅迫状を持って来た件

#12 裏切り、裏取引、その裏をかく

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     1


 ニューロックの本店は、大きな店が並ぶサンブリッジ通りにある。

 この通りの北の端には大きな橋が架かっている。長さは50メートルくらいの橋は「サンブリッジ」と言う。通りの名は、この橋の名からきている。

 大きな橋があるということは大きな川があるということだ。

 ニューロックの本店をはじめ、サンブリッジ通りにある商店の裏はこの大きな川に面していて、設けた船着き場で荷物の積み下ろしを行っている。
 荷馬車での搬入もあるが、大量の荷物は船着き場を使うのが基本だ。

 ──深夜。

 サンブリッジ通りの店のすべてが閉店し、灯りを落としている。
 表通りには光魔法を点す街灯があるが、店の裏、川に面した場所には灯りはほとんどなく、川面も店の裏側も、真っ暗な闇に沈んでいる。

 その闇の中に、小さな光が点った。
 ニューロック本店の裏にある船着き場に、薄いオレンジ色のランプが点っている。

 そのランプを目指し、対岸にある倉庫から小舟が出た。

 小舟と言っても、10人くらいは乗れるサイズだ。
 だが乗っているのは一人だけだった。

 船尾でオールを取る船頭。そのオールさばきは、のろのろとしてぎこちないが、一瞬も休むことはない。

 ゾンビだ。あの船頭はゾンビなんだ。

 やがて、死人が操る小舟はニューロックの船着き場に着いた。

 船着き場には支配人のパレル氏と若い従業員が待機していて、支配人の指揮で大きなチェスト──箱を小舟に積んでゆく。

 身代金が入っている箱だ。

 箱には軽量化リフトの魔法が仕込まれていて、何十キロもあるそれを従業員たちが軽々と持ち上げ、船に積んで行く。

 箱は全部で13コあったが、あっと言う間に積み終わった。
 ちょうどそこで軽量化の魔法が切れたらしく、船の吃水が目に見えて下がった。

 支配人がランプを大きく横に振った。積み込み終了の合図だろう。
 合図の直後、身代金を積んだ船が、元来たほうへと戻っていった。

 ゾンビの船頭は漕いでいない。
 なのに小舟は対岸へと戻って行く。それも驚くほどの早さでだ。

 よく見ると、船尾に太いロープがくくりつけてある。ロープの先は、対岸の倉庫へと続いていた。

 薄暗い倉庫の中では、大きな巻上機があり、それを十数体の木の人形が動かし、ロープを巻き取っていた。

 ニューロックのゴーレムだ。

 頭のない紡績用、一本足の織布用、脚のない縫製用…それら木のゴーレムたちが身体を床に固定され、巻上機を回している。

 ロープはみるみる巻き取られ、身代金を乗せた小舟は倉庫の船着き場へとやって来た。

「やめ」

 薄暗い倉庫。その中の、見通せない濃い闇の中から発せられた命令に、ゴーレムたちは動きを止めた。
 その闇の中から、屈強な男たちが現れた。

 ガラン運輸の作業員たちだ。

 作業員たちは小舟を接岸させていると、倉庫の外に駐めてあった大きな馬車から、5,6体のゾンビが下りて来た。

 ゾンビたちは小舟から身代金の詰まった箱を陸揚げしてゆく。ゾンビの怪力で、13コの箱はあっと言う間に運び上げられた。

 倉庫の中から、赤ら顔の男──ウエストが現れた。

「やったぞ」

 ウエストがニンマリと笑った。

 もういいだろう。

「そこまでだ!」

 オレは叫んだ。


     2


 ぎょっとして立ちすくむウエスト。

 頭上に、鬼火のような光の精霊がいくつも現れ、辺りを昼間のように明るくする。

 建物の陰から密かに抱囲していた騎士、衛士、護民兵たちが姿を現す。その数50人以上。

「先に言うなよ! アタイが言いたかったのに」
「早い者勝ちだ」

 肩をぶつけて抗議するペイジを軽くいなす。

「き、ききき貴様! どうしてここに?」

 慌てふためくウエスト。

「それは──」
「てめぇらごとき出し抜くのなんざワケねぇんだよ! 大人しく縛につけ!」
「ちょ、ペイジ!」

 これからオレが名探偵よろしく種明かししようと思ったのに、遮りやがって!

「ええい! やっちまえ!」

 そしてウエストが叫び、ガラン運輸のマッチョたちが、うぉおおー! と雄叫びを上げて向かって来た。破れかぶれの抵抗だ。

 たちまちはじまる大乱闘。

 あ~あ、オレの見せ場はなくなってしまったよ。

「キメようと思ってたのに残念だったわね」
「自慢するほど大そうな計略でもなかろうが」

 一緒に来ていたクロエさん、のじゃ子さんが言う。

 それは…その通りなんだけど……。


     ×   ×   ×


 昨日、MZ1号で死人団のアジトを捜索している内、オレとクロエさんは無縁墓地に出た。
 そこからあらぬほうへ歩き出したMZ1号を追いかけているうち、ウエスト葬儀社を見つけたのだ。

 クルミの木。
 出入りするガラン運輸の男たち。
 そして葬儀屋。

 葬儀屋なら、墓に埋める前に死体をちょろまかすなんて簡単だ。
 2度目の脅迫状を持って来たゾンビに土が付いてなかったのは、埋葬する前の死体をゾンビにしたからだ。

 これらの状況証拠から、オレたちはウエスト葬儀社が死人団のアジトだとにらんだ。

 で、ペイジやのじゃ子さんと相談して、罠を仕掛けたのだ。

 昨日の朝、ニューロックの屋敷に行って、

「死人団のゾンビを操ってアジトに案内させる」

 と、言ったのは、ニューロックの関係者の中にいる内通者に伝えるためだった。

 エアリー夫人、パレル支配人、あるいは他の人間か。誰が裏切り者かはわからないけど、死人団に内通しているなら、動きがあるだろうと考えたんだ。

 案の定、オレたちが屋敷を去ってすぐにウエスト葬儀社にメールバードが届き、ウエストたちは大慌ててで動き出した。
 監禁していたブライズ氏、そしてゾンビたちを川沿いの倉庫へと移したのだ。
 その一部始終をハッチとハンナの老ドワーフ夫婦が見ているとも知らずに。

 オレとクロエさん、ペイジの三人がウエスト葬儀社に行ったのは、その後だ。
 ヤツらに工作する時間を与えるため、わざと時間をかけてアジトに到着した。
 もちろんオレが悔しがって地面を蹴ったのは演技だ。

 ちなみに、機能停止したMZ1号は、クロエさんが再びゾンビ化して回収した。

 事件が片付いたら、ちゃんと葬ってやるためにね。


     3


 そして今、ウエスト──歩く死人団は罠にかかったというわけだ。

「このガキが!」

 ガラン運輸の男がナイフを振りかざしてペイジを襲う。

「へんっ!」

 ペイジが手にしたこん棒──ガードロッドがトンファー型に変形、ナイフをガードして、拳を突き出すようにガードロッドで男の鳩尾を一撃する。
 男がよろめき、前屈みになる。
 ペイジの手の中で、ガードロッドがくるりと回り、男の首筋を打ち据えた。
 ペイジ、強い!

「神妙にしやがれ!」

 捕縄を取り出し、膝をついた男をペイジがふん縛った。

 他の場所でも衛士、護民兵たちがガラン運輸の作業員を制圧しつつあった。

「かかれぇ!」

 ウエストが叫ぶと、ゾンビたちがこちらに向かって来た。
 悪あがきか…いや、時間稼ぎだ!

 ウエストが船着き場に向かって階段を下りて行く。止めようにも、オレたちには5,6体のゾンビが向かって来ている。

「こんのっ!」

 ペイジが持つトンファー型のガードロッドが変形した。今度は2メートル近い長い棒になった。

 長い棒をペイジは巧みに操り、ゾンビの胸を突いて後退させ、脚の間に入れて引っかけ、転倒させる。

 しかし長さまで変わるとか、どうなってるんだあの棒は?

「形状記憶魔法じゃよ」

 オレの心を読んだみたいにのじゃ子さんが解説する。

「護民兵の使うガードロッドは、魔力を加えることで変形するよう作られておるのじゃ。長い棒がデフォルトで、変形は短いこん棒とサイドハンドル付きの2種類しかないがの」

 2種類に変形できるだけでもスゴイんだけど。

「クロエ、ペイジを手伝ってやれ。ソータは船着き場に行くのじゃ」

 のじゃ子さんは言いながら、空中に光るルーン文字を描きはじめた。

「お、おう」
「はいよ」

 のじゃ子さんの指示に従い、オレは船着き場へ。クロエさんは両手の指をからませ印を結んだ。

「生は仮初め、巡りしは魂魄。器は眠りに、魂魄は行くべき所へと向かえ。我、その道を示さん」

 後ろでクロエさんが呪文を唱えるのが聞こえた。

 次の瞬間、1体のゾンビが光に包まれ、倒れた。
 これ、ウエスト葬儀社の入り口でMZ1号を機能停止させたのと同じ魔法か?

 しかし確認しているヒマはない。
 オレはウエストを追いかけて船着き場へと続く階段を下りていった。

 ウエストはすでに小舟に乗り込んでいた。船頭のゾンビに命じて船を出させる。

「しまった!」

 もうちょっと、というところでオレは間に合わなかった。

「残念だったな!」

 船の上でウエストが汗をふきながら嘲笑う。

 小舟はどんどん離れて行く。もう船着き場から10メートルばかり離れてしまった。しかし──

 ウエストを乗せた小舟が、がくんと大きく揺れた。そして岸へと戻ってくる。

「あははは!」

 思わず爆笑してしまう。

 小舟はロープで巻上機とつながったままだったのだ。
 その巻上機を、のじゃ子さんが魔法で回していた。それはもうすごい勢いで回している。

 ウエストを乗せた小舟がものすごい勢いのまま船着き場に激突し、ウエストが川に放り出される。

「た、助け…助けて!」

 水面に浮かび上がったウエストがもがいている。

「あっ!」

 オレは思わず声を上げてしまった。

 ウエストの顔に異変が起きていた。
 顔の表面が溶け、下から別の色をした肌がのぞいている。
 ウエストの、不自然なまでに血色のいい赤ら顔は化粧だったんだ。

「お前、ネクロマンサーだったのか!」

 化粧が落ちたウエストの肌は、ネクロマンサー特有の、青みがかった灰色をしていた。


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