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第一章 旅立ち
12.椅子と駄犬
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店内の中心には、低めの椅子に足を組んで座っているミゼアスがいた。手には長い棒のようなものを持っている。つまらなさそうな顔をしており、手に持った棒らしきものを弄んでいた。
ミゼアスの前には何かが転がっているようだった。よく見れば、転がっている物体は人間のようだ。しかも下半身に下着を纏っただけの姿だった。
さらに見れば、ミゼアスが腰掛けている椅子も人間らしい。こちらは服こそ着ているものの、じっと四つん這いになっている。背中に乗せられたクッションの上に、ミゼアスが座っているようだ。
最後にミゼアスの手に視線を移す。どうやら持っているのは棒ではなく、鞭だ。
何が起こっているのか、よくわからない。ただ、この場にミゼアスが支配者として君臨していることだけは、わかる。
「あっ! ジェス、迎えに来てくれたの?」
ミゼアスがアデルジェスに気がついた。
たちまち、つまらなさそうだった顔がぱっと華やぐ。持っていた鞭を放り投げると、嬉しそうな声をあげてアデルジェスに走り寄り、飛びついてきた。
「う……うん……ところで、そちらは……」
アデルジェスはミゼアスを受け止めながら、ミゼアスが走ってきた方向をおそるおそる伺う。
そこには今までミゼアスが椅子として腰掛けていた男と、床に転がる下着姿の男がいた。
「え? あれ? 椅子と駄犬」
アデルジェスを見つめたまま、平然とミゼアスは答える。
「ひどいんだよ。僕にいきなり客を取らせようとしたの。僕はジェスの『およめさん』なのに……ジェス以外の奴になんか、触れられるのも嫌だよ」
ミゼアスは唇を尖らせ、不満げな声を漏らす。
確かにいきなり客を取らせようとするのはひどい。アデルジェスとしても、そんなことは冗談ではなかった。
だが、ミゼアスがやらかしたであろう仕打ちもかなりひどそうだ。
ちらりとアデルジェスは二人の男を見る。
椅子になっていた男は口枷と目隠しをされていた。
ミゼアスが立ち上がった後も四つん這いのまま動かない。顔がよくわからず、艶やかな髪の黒さだけが異様に際立っている。
床に転がる男はうつ伏せのまま痙攣していた。赤茶色の髪が床に広がっている。下着は半分ほどずり落ちていて、尻から何か棒のようなものが生えているように見えたが、アデルジェスは何も見なかったことにして視線をそらす。
「僕、花嫁修業になる仕事だっていうから来たのに……何だかいかがわしいところで、騙されたって思ったよ。ひどいことしてこようとするし……腹立たしかったから、お仕置きしちゃった」
にっこりと笑うミゼアス。
以前、見習い時代にミゼアス付きだったというヴァレンが言っていた、『ミゼアス兄さんのお仕置きはきっつくて、えげつないんで』という言葉がまざまざと蘇る。
「あぁ……そうなんだ……大変だったね……」
乾いた笑いを浮かべ、アデルジェスはどうにかそれだけを口にした。とりあえず自らを落ち着かせるために深呼吸をし、ミゼアスの柔らかい黄金色の髪をそっと撫でる。
とにかく、ミゼアスは無事らしい。それでよしとしよう。アデルジェスは己にそう言い聞かせる。
髪を撫でられたミゼアスはうっとりとした表情を浮かべ、アデルジェスに寄りかかってきた。相変わらず、撫でられるのが好きなようだ。
周囲では遠巻きにミゼアスの様子を伺っている姿がいくつもあり、どれも怯えているように見えた。
花嫁修業とは、こういうものだっただろうか。
「疲れちゃった。帰ろうよ」
ミゼアスはアデルジェスの裾をつかみ、あどけない笑顔を浮かべて見上げてくる。あんなことを仕出かしたとは思えないほど、とても可愛らしい。
あの二人の男が気になったが、あまり関わりたくない。もうこのまま一刻も早く立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。アデルジェスはミゼアスの言葉に頷く。
するとミゼアスが満面の笑みでアデルジェスの手を握ってきた。アデルジェスも握り返し、二人で仲良く手を繋いで、帰路に就く。
店内には言葉にならないざわめきが満ち、二人の男はそのまましばらく放置され続けたのだった。
ミゼアスの前には何かが転がっているようだった。よく見れば、転がっている物体は人間のようだ。しかも下半身に下着を纏っただけの姿だった。
さらに見れば、ミゼアスが腰掛けている椅子も人間らしい。こちらは服こそ着ているものの、じっと四つん這いになっている。背中に乗せられたクッションの上に、ミゼアスが座っているようだ。
最後にミゼアスの手に視線を移す。どうやら持っているのは棒ではなく、鞭だ。
何が起こっているのか、よくわからない。ただ、この場にミゼアスが支配者として君臨していることだけは、わかる。
「あっ! ジェス、迎えに来てくれたの?」
ミゼアスがアデルジェスに気がついた。
たちまち、つまらなさそうだった顔がぱっと華やぐ。持っていた鞭を放り投げると、嬉しそうな声をあげてアデルジェスに走り寄り、飛びついてきた。
「う……うん……ところで、そちらは……」
アデルジェスはミゼアスを受け止めながら、ミゼアスが走ってきた方向をおそるおそる伺う。
そこには今までミゼアスが椅子として腰掛けていた男と、床に転がる下着姿の男がいた。
「え? あれ? 椅子と駄犬」
アデルジェスを見つめたまま、平然とミゼアスは答える。
「ひどいんだよ。僕にいきなり客を取らせようとしたの。僕はジェスの『およめさん』なのに……ジェス以外の奴になんか、触れられるのも嫌だよ」
ミゼアスは唇を尖らせ、不満げな声を漏らす。
確かにいきなり客を取らせようとするのはひどい。アデルジェスとしても、そんなことは冗談ではなかった。
だが、ミゼアスがやらかしたであろう仕打ちもかなりひどそうだ。
ちらりとアデルジェスは二人の男を見る。
椅子になっていた男は口枷と目隠しをされていた。
ミゼアスが立ち上がった後も四つん這いのまま動かない。顔がよくわからず、艶やかな髪の黒さだけが異様に際立っている。
床に転がる男はうつ伏せのまま痙攣していた。赤茶色の髪が床に広がっている。下着は半分ほどずり落ちていて、尻から何か棒のようなものが生えているように見えたが、アデルジェスは何も見なかったことにして視線をそらす。
「僕、花嫁修業になる仕事だっていうから来たのに……何だかいかがわしいところで、騙されたって思ったよ。ひどいことしてこようとするし……腹立たしかったから、お仕置きしちゃった」
にっこりと笑うミゼアス。
以前、見習い時代にミゼアス付きだったというヴァレンが言っていた、『ミゼアス兄さんのお仕置きはきっつくて、えげつないんで』という言葉がまざまざと蘇る。
「あぁ……そうなんだ……大変だったね……」
乾いた笑いを浮かべ、アデルジェスはどうにかそれだけを口にした。とりあえず自らを落ち着かせるために深呼吸をし、ミゼアスの柔らかい黄金色の髪をそっと撫でる。
とにかく、ミゼアスは無事らしい。それでよしとしよう。アデルジェスは己にそう言い聞かせる。
髪を撫でられたミゼアスはうっとりとした表情を浮かべ、アデルジェスに寄りかかってきた。相変わらず、撫でられるのが好きなようだ。
周囲では遠巻きにミゼアスの様子を伺っている姿がいくつもあり、どれも怯えているように見えた。
花嫁修業とは、こういうものだっただろうか。
「疲れちゃった。帰ろうよ」
ミゼアスはアデルジェスの裾をつかみ、あどけない笑顔を浮かべて見上げてくる。あんなことを仕出かしたとは思えないほど、とても可愛らしい。
あの二人の男が気になったが、あまり関わりたくない。もうこのまま一刻も早く立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。アデルジェスはミゼアスの言葉に頷く。
するとミゼアスが満面の笑みでアデルジェスの手を握ってきた。アデルジェスも握り返し、二人で仲良く手を繋いで、帰路に就く。
店内には言葉にならないざわめきが満ち、二人の男はそのまましばらく放置され続けたのだった。
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