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第二章 南へ
28.風の向く先
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「じゃあ、とりあえず南方に向かっていく? 南方はおおらかな気質の場所だし、陽気な人も多いみたいだから楽しいんじゃないかな」
ゆるやかな手つきでミゼアスの髪を撫でながら、アデルジェスが切り出す。
「そういえば、ロシュも南方に向かうって言っていたね。ああ……そうだ、覚えている? 島で何回か会っているヴァレン。あの子も南方の出身だったはずだよ」
「あ……はは……なるほど……」
一瞬、目を見開いた後で苦笑するアデルジェス。やや不自然な動作にも見えたが、おそらくヴァレンのとんでもないところでも思い出したのだろう。あまり気に留めず、ミゼアスは口元に微笑みを浮かべる。
「南方でいろいろな町を回るのも楽しそうだね。さすがに、住人全体がヴァレンの群れのようなところだったら、僕はごめん被りたいけれど……」
まさか、そこまでひどくはないだろう。口にしながらミゼアスは自らの考えを否定する。
「ま、まあ、普通の人たちは普通なんじゃないかな。きっと……」
アデルジェスもやや慌てたような調子で否定した。
「そうだよね。あぁ……そうだ。もし、料理を教えてくれるようなところがあったら、しばらく滞在してみたいな。料理を勉強するんだ」
「ミゼアス……まだ、覚えていたの?」
目を丸くしてアデルジェスはミゼアスを見つめる。
「もちろん。旅をしていれば、料理をする機会はそんなにあるわけじゃないだろうけれど、できるようになっておいて損はないだろう?」
以前、まだ結ばれる前にアデルジェスは、料理ができればいいおよめさんになれるといったようなことを言っていたのだ。当然ミゼアスはずっと心にその言葉が刻まれている。
「確かに損はないだろうけれど……俺があのとき言ったのは、冗談だからね。料理ができようができまいが、ミゼアスは俺の『およめさん』でしょう?」
「ジェス……うん、でもやっぱり僕は立派な『およめさん』になりたいんだ。きみのために、ね。できたほうがいいことは、できるようになっておきたい。それがかえってきみのためにならないのなら、別だけれど……」
不安げにアデルジェスを見上げる。
「いやいや、やるなって言っているわけじゃないんだ。無理はしないでほしいっていうだけで……。ミゼアスがそんなに俺のことを想ってくれているなんて、嬉しいよ。ありがとう」
やや照れくさそうにアデルジェスは述べ、ミゼアスの髪に口づけを落とす。
ミゼアスは微笑み、両腕でアデルジェスの頭を絡めとって口づけた。互いに啄むようにじゃれあい、どちらからともなく舌を絡めて深く貪る。しばし堪能した後、ミゼアスはゆっくりと口を離す。
「ん……」
不満げな声を漏らすアデルジェスに、ミゼアスは笑いをこぼす。アデルジェスの瞳の奥には、欲望の炎がちらちらと燻ぶっているようだった。
「今は朝だから、これ以上は駄目。さ、起きる準備をしないと」
軽やかな笑い声をたて、ミゼアスはアデルジェスの腕から逃れて立ち上がる。外側の窓に向かって歩いていくと、恨めしげな呻き声が後ろから聞こえてきた。
「ほらほら、良い天気だよ!」
窓を開けながら、ミゼアスは快活に叫ぶ。温かい風が頬をくすぐり、まるで朗らかに笑いかけられているようだった。
きっと南方には楽しいことが待っているに違いない。いや、アデルジェスと一緒ならば、どこだって楽しい場所になるはずだ。
振り返れば、アデルジェスは寝台の上で上半身を起こしながら、眉根を寄せて情けない顔を晒していた。
ミゼアスはわずかでも昨晩の仕返しができただろうかと、満面の笑みでアデルジェスの視線に応えた。
ゆるやかな手つきでミゼアスの髪を撫でながら、アデルジェスが切り出す。
「そういえば、ロシュも南方に向かうって言っていたね。ああ……そうだ、覚えている? 島で何回か会っているヴァレン。あの子も南方の出身だったはずだよ」
「あ……はは……なるほど……」
一瞬、目を見開いた後で苦笑するアデルジェス。やや不自然な動作にも見えたが、おそらくヴァレンのとんでもないところでも思い出したのだろう。あまり気に留めず、ミゼアスは口元に微笑みを浮かべる。
「南方でいろいろな町を回るのも楽しそうだね。さすがに、住人全体がヴァレンの群れのようなところだったら、僕はごめん被りたいけれど……」
まさか、そこまでひどくはないだろう。口にしながらミゼアスは自らの考えを否定する。
「ま、まあ、普通の人たちは普通なんじゃないかな。きっと……」
アデルジェスもやや慌てたような調子で否定した。
「そうだよね。あぁ……そうだ。もし、料理を教えてくれるようなところがあったら、しばらく滞在してみたいな。料理を勉強するんだ」
「ミゼアス……まだ、覚えていたの?」
目を丸くしてアデルジェスはミゼアスを見つめる。
「もちろん。旅をしていれば、料理をする機会はそんなにあるわけじゃないだろうけれど、できるようになっておいて損はないだろう?」
以前、まだ結ばれる前にアデルジェスは、料理ができればいいおよめさんになれるといったようなことを言っていたのだ。当然ミゼアスはずっと心にその言葉が刻まれている。
「確かに損はないだろうけれど……俺があのとき言ったのは、冗談だからね。料理ができようができまいが、ミゼアスは俺の『およめさん』でしょう?」
「ジェス……うん、でもやっぱり僕は立派な『およめさん』になりたいんだ。きみのために、ね。できたほうがいいことは、できるようになっておきたい。それがかえってきみのためにならないのなら、別だけれど……」
不安げにアデルジェスを見上げる。
「いやいや、やるなって言っているわけじゃないんだ。無理はしないでほしいっていうだけで……。ミゼアスがそんなに俺のことを想ってくれているなんて、嬉しいよ。ありがとう」
やや照れくさそうにアデルジェスは述べ、ミゼアスの髪に口づけを落とす。
ミゼアスは微笑み、両腕でアデルジェスの頭を絡めとって口づけた。互いに啄むようにじゃれあい、どちらからともなく舌を絡めて深く貪る。しばし堪能した後、ミゼアスはゆっくりと口を離す。
「ん……」
不満げな声を漏らすアデルジェスに、ミゼアスは笑いをこぼす。アデルジェスの瞳の奥には、欲望の炎がちらちらと燻ぶっているようだった。
「今は朝だから、これ以上は駄目。さ、起きる準備をしないと」
軽やかな笑い声をたて、ミゼアスはアデルジェスの腕から逃れて立ち上がる。外側の窓に向かって歩いていくと、恨めしげな呻き声が後ろから聞こえてきた。
「ほらほら、良い天気だよ!」
窓を開けながら、ミゼアスは快活に叫ぶ。温かい風が頬をくすぐり、まるで朗らかに笑いかけられているようだった。
きっと南方には楽しいことが待っているに違いない。いや、アデルジェスと一緒ならば、どこだって楽しい場所になるはずだ。
振り返れば、アデルジェスは寝台の上で上半身を起こしながら、眉根を寄せて情けない顔を晒していた。
ミゼアスはわずかでも昨晩の仕返しができただろうかと、満面の笑みでアデルジェスの視線に応えた。
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