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第二章 南へ
38.泥棒騒ぎ
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「この泥棒が!」
意味を成さない言葉をわめきちらしていた男が、はっきりとした叫びをあげる。
「盗んでなんかいない!」
殴られそうになりながらも、少年はきっぱりと否定する。
すると男が目を見開き、拳を振り下ろそうとする素振りを見せる。少年は自らをかばうように両手で頭を押さえ、目を閉じた。
「へえ……やっぱり人のものを盗ろうとするんだ」
ミゼアスがつかつかと歩いていって割り込むと、男が動きを止めてミゼアスを見た。少年もおそるおそる目を開けてミゼアスを見る。
「ち……違う! 俺は盗んでなんかいない!」
少年はミゼアスをしっかりと見つめ、否定を繰り返した。その瞳に嘘をついているような様子は見出せない。
「嘘をつくな! 俺の財布が消えていた! 鞄に入れていたはずなのに!」
拳はいったん元に戻したが、男は興奮したままだった。目が血走っており、酒も大分入っているように見える。
「俺は仕事の対価としての金しか受け取っていない! 勝手に盗んだりはしない!」
「男娼風情の言うことが信用できるか!」
男は少年の必死の言葉をあっさりと切り捨てる。
ミゼアスは男に対する苛立ちがふつふつとわきあがってきた。
少年が嘘をついているようには思えない。これで嘘だったら、少年は辣腕の詐欺師だ。むしろ男が酒の飲みすぎで思考力を失っているように見えた。
ミゼアスは男の全身を眺め、おかしなところがないか観察する。
「……ねえ、そこのあんた。胸のあたりが膨らんでいるようだけれど、それは何?」
ミゼアスは男の胸のあたりに違和感を覚え、問いただす。おそらくそこに目的のものがあるはずだと勘が騒いだのだ。
男はミゼアスの言葉に、自らの胸の隠しに手を入れる。続いて手と一緒に出てきたのは、どう見ても財布だった。信じられないような面持ちで男は財布を眺め、決まり悪そうに斜め下を向く。
「あ……こ、こいつが紛らわしいから悪いんだ!」
悔し紛れのように吐き捨て、男は背を向けて立ち去ろうとする。
「待ちな」
去ろうとする男の背中に向け、ミゼアスは一言、鋭く放つ。
怯んだように男の足が止まる。
「謝りなよ」
「……男娼ごときに謝る必要なんざない!」
振り返ってミゼアスを睨みつけ、男が叫ぶ。うるさく言うようならば殴るぞとでも言わんばかりの様子だったが、ミゼアスは怯みもせず、呆れたように鼻を鳴らした。
「謝りな、って言っているんだよ。何度も言わせるんじゃない」
わずかに目を細め、冷たく言い放つ。
男は言葉を失い、わなわなと立ち尽くしていたが、ややあって少年に向き合った。
「わ……悪かったな……これでいいだろっ!」
言い捨てて、今度こそ男は逃げるように立ち去っていった。
意味を成さない言葉をわめきちらしていた男が、はっきりとした叫びをあげる。
「盗んでなんかいない!」
殴られそうになりながらも、少年はきっぱりと否定する。
すると男が目を見開き、拳を振り下ろそうとする素振りを見せる。少年は自らをかばうように両手で頭を押さえ、目を閉じた。
「へえ……やっぱり人のものを盗ろうとするんだ」
ミゼアスがつかつかと歩いていって割り込むと、男が動きを止めてミゼアスを見た。少年もおそるおそる目を開けてミゼアスを見る。
「ち……違う! 俺は盗んでなんかいない!」
少年はミゼアスをしっかりと見つめ、否定を繰り返した。その瞳に嘘をついているような様子は見出せない。
「嘘をつくな! 俺の財布が消えていた! 鞄に入れていたはずなのに!」
拳はいったん元に戻したが、男は興奮したままだった。目が血走っており、酒も大分入っているように見える。
「俺は仕事の対価としての金しか受け取っていない! 勝手に盗んだりはしない!」
「男娼風情の言うことが信用できるか!」
男は少年の必死の言葉をあっさりと切り捨てる。
ミゼアスは男に対する苛立ちがふつふつとわきあがってきた。
少年が嘘をついているようには思えない。これで嘘だったら、少年は辣腕の詐欺師だ。むしろ男が酒の飲みすぎで思考力を失っているように見えた。
ミゼアスは男の全身を眺め、おかしなところがないか観察する。
「……ねえ、そこのあんた。胸のあたりが膨らんでいるようだけれど、それは何?」
ミゼアスは男の胸のあたりに違和感を覚え、問いただす。おそらくそこに目的のものがあるはずだと勘が騒いだのだ。
男はミゼアスの言葉に、自らの胸の隠しに手を入れる。続いて手と一緒に出てきたのは、どう見ても財布だった。信じられないような面持ちで男は財布を眺め、決まり悪そうに斜め下を向く。
「あ……こ、こいつが紛らわしいから悪いんだ!」
悔し紛れのように吐き捨て、男は背を向けて立ち去ろうとする。
「待ちな」
去ろうとする男の背中に向け、ミゼアスは一言、鋭く放つ。
怯んだように男の足が止まる。
「謝りなよ」
「……男娼ごときに謝る必要なんざない!」
振り返ってミゼアスを睨みつけ、男が叫ぶ。うるさく言うようならば殴るぞとでも言わんばかりの様子だったが、ミゼアスは怯みもせず、呆れたように鼻を鳴らした。
「謝りな、って言っているんだよ。何度も言わせるんじゃない」
わずかに目を細め、冷たく言い放つ。
男は言葉を失い、わなわなと立ち尽くしていたが、ややあって少年に向き合った。
「わ……悪かったな……これでいいだろっ!」
言い捨てて、今度こそ男は逃げるように立ち去っていった。
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