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第二章 南へ
63.白花第一位
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「ところで、この間探していた奴がいるって言っていたよね」
「あ、ああ……商人風の奴だったよ。カリナ嬢様が本当は生きていて売られたんだ、っていう話をした」
ミゼアスの問いかけに男は一瞬、虚を突かれたようでびくっとしたが、素直に答えた。
「それ以外のことは何か言った?」
「いや、俺はそれ以上のことは何も知らないし、言いようがない」
男は首を横に振る。言葉に嘘はなさそうだった。
「……カリナ嬢様は懐こくて、可愛い子だったよ。店が潰れたとき、最後に旦那様はどうにかある程度の金を工面して、俺たち使用人への給料を払ってくれた。後から思えば、あれはカリナ嬢様を売った金だったんだろうなぁ」
しみじみと語る男。
「どうして、死んだことにしていたんだろう」
「金の工面のために子供を売るなんて、外聞が悪いからな。面子のためじゃないか」
ミゼアスは唇に指をあてて考え込む。
先日、宿場町で赤味がかった金髪の子供をさらおうとしていた輩がいた。そのときから、どうも引っかかるものがあったのだ。
単なる偶然かもしれない。しかし、胸騒ぎがわきあがってくる。
「そうか……どうも引っかかるんだよなぁ……」
「……隣町に住んでる俺の親父なら、もっと詳しいことを知ってると思う。今はすっかり弱っちまって姉夫婦の家で日向ぼっこしているが、まだ頭はしっかりしてるはず」
ミゼアスの思案に何か感じたのか、男が口を開く。
「そのことは探していた奴に言った?」
「いや、こっちは言っていない」
「……紹介してもらえるかな?」
「ああ、手紙を書けばいいか? カリナ嬢様が元気だって聞けば、親父だって喜ぶだろうよ。カリナ嬢様はみんなに好かれていたからな」
無言のまま、ロシュがペンと紙を渡してくれた。男は簡単な手紙と、住所を書き記す。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。まさかカリナ嬢様が今どうしているか聞けるたぁ、思わなかった。ありがとうよ。それと、ご馳走さん!」
男はしっかりと酒瓶と食べ物を持ったまま、足取りも軽く去っていった。
「フェイちゃん……きみはいったい、何者なんだ……」
男が去るのを待って、ロシュがぼそっと口を開く。
ミゼアスは軽く目を伏せた。先ほどの男は浮かれていてそこまで考えが及ばなかったようだが、さすがにロシュは気付いたようだ。
「……僕は、ヴァレンの上役だった。だから、ヴァレンのことはよく知っている」
「上役? 四花の上といえば、五花だけだろう。五花の白花は二人しかいないはず……」
訝しげなロシュの声に、そこまで知っていたかと苦笑が浮かびそうになってくる。
「ヴァレンが見習い時代の上役だけれどね。でも、五花っていうのは正しいよ。フェイは女性略称。僕の男性略称は……ミゼアス」
苦い思いと共に言葉を吐き出すと、ロシュがぽかんと口を開けて、ミゼアスを眺めてきた。
「ミゼアス……白花第一位の……?」
「もう、僕は白花を引退したんだ。今はジェスの『およめさん』だよ」
「白花第一位のミゼアスがジェスの『およめさん』……? え……? およめ、さん……?」
すっかり混乱した様子のロシュ。信じられないものを見るような目をミゼアスに向けてくる。
悪夢の言葉がまた浮かび上がってくる。男娼だった自分には、『およめさん』になる資格などないのだろうか。
暗闇に落ちかけたミゼアスの手を、ぎゅっと強く握り締める温もりがあった。ミゼアスははっと引き戻される。
「部屋に戻ろう」
優しく、力強い声が響く。アデルジェスはミゼアスを引き寄せ、労わるように頭を撫でる。
「うん……」
安堵に涙が滲むのを感じながら、ミゼアスはアデルジェスに寄り添った。
「あ、ああ……商人風の奴だったよ。カリナ嬢様が本当は生きていて売られたんだ、っていう話をした」
ミゼアスの問いかけに男は一瞬、虚を突かれたようでびくっとしたが、素直に答えた。
「それ以外のことは何か言った?」
「いや、俺はそれ以上のことは何も知らないし、言いようがない」
男は首を横に振る。言葉に嘘はなさそうだった。
「……カリナ嬢様は懐こくて、可愛い子だったよ。店が潰れたとき、最後に旦那様はどうにかある程度の金を工面して、俺たち使用人への給料を払ってくれた。後から思えば、あれはカリナ嬢様を売った金だったんだろうなぁ」
しみじみと語る男。
「どうして、死んだことにしていたんだろう」
「金の工面のために子供を売るなんて、外聞が悪いからな。面子のためじゃないか」
ミゼアスは唇に指をあてて考え込む。
先日、宿場町で赤味がかった金髪の子供をさらおうとしていた輩がいた。そのときから、どうも引っかかるものがあったのだ。
単なる偶然かもしれない。しかし、胸騒ぎがわきあがってくる。
「そうか……どうも引っかかるんだよなぁ……」
「……隣町に住んでる俺の親父なら、もっと詳しいことを知ってると思う。今はすっかり弱っちまって姉夫婦の家で日向ぼっこしているが、まだ頭はしっかりしてるはず」
ミゼアスの思案に何か感じたのか、男が口を開く。
「そのことは探していた奴に言った?」
「いや、こっちは言っていない」
「……紹介してもらえるかな?」
「ああ、手紙を書けばいいか? カリナ嬢様が元気だって聞けば、親父だって喜ぶだろうよ。カリナ嬢様はみんなに好かれていたからな」
無言のまま、ロシュがペンと紙を渡してくれた。男は簡単な手紙と、住所を書き記す。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。まさかカリナ嬢様が今どうしているか聞けるたぁ、思わなかった。ありがとうよ。それと、ご馳走さん!」
男はしっかりと酒瓶と食べ物を持ったまま、足取りも軽く去っていった。
「フェイちゃん……きみはいったい、何者なんだ……」
男が去るのを待って、ロシュがぼそっと口を開く。
ミゼアスは軽く目を伏せた。先ほどの男は浮かれていてそこまで考えが及ばなかったようだが、さすがにロシュは気付いたようだ。
「……僕は、ヴァレンの上役だった。だから、ヴァレンのことはよく知っている」
「上役? 四花の上といえば、五花だけだろう。五花の白花は二人しかいないはず……」
訝しげなロシュの声に、そこまで知っていたかと苦笑が浮かびそうになってくる。
「ヴァレンが見習い時代の上役だけれどね。でも、五花っていうのは正しいよ。フェイは女性略称。僕の男性略称は……ミゼアス」
苦い思いと共に言葉を吐き出すと、ロシュがぽかんと口を開けて、ミゼアスを眺めてきた。
「ミゼアス……白花第一位の……?」
「もう、僕は白花を引退したんだ。今はジェスの『およめさん』だよ」
「白花第一位のミゼアスがジェスの『およめさん』……? え……? およめ、さん……?」
すっかり混乱した様子のロシュ。信じられないものを見るような目をミゼアスに向けてくる。
悪夢の言葉がまた浮かび上がってくる。男娼だった自分には、『およめさん』になる資格などないのだろうか。
暗闇に落ちかけたミゼアスの手を、ぎゅっと強く握り締める温もりがあった。ミゼアスははっと引き戻される。
「部屋に戻ろう」
優しく、力強い声が響く。アデルジェスはミゼアスを引き寄せ、労わるように頭を撫でる。
「うん……」
安堵に涙が滲むのを感じながら、ミゼアスはアデルジェスに寄り添った。
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