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第三章 巡り会い
77.港町
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ヴァレンの実家や夕月花に絡んだ事件は、無事に解決した。
誘拐事件を引き起こした商人も誘拐した子供たちを帰し、枯れかけていた夕月花も元気を取り戻してきている。まだ完全に元どおりとはいかないが、道筋ははっきりと見えてきた状態だ。
ミゼアスとアデルジェスはローダンデリア領主の屋敷に滞在していたが、もう心配するようなことはないだろうと、旅立つことにした。
夕月花の生育の遅れを取り戻すべく、また、夕月花だけに頼るのではなく、新たな産業の種を芽吹かせようと、領主は多忙だった。あまり長居をして、邪魔になるのも悪いだろう。
「本当はもっとお話もしたかったのですが……お構いできずに申し訳ありません。もしよろしければ、冬にでもまたいらしてください。良い温泉があるのですよ。肌に吸い付くような心地よさで、特に冬は夢見心地になれますよ」
別れ際、領主からの言葉にミゼアスはぜひ、と頷いた。風呂好きのミゼアスにとっては、うっとりするような誘いだ。
ロシュは、まだ屋敷に残るという。商売のことで話し合いをしているそうだ。お互いの利益になる要素があったらしい。
ミゼアスは紹介状を書いて、ロシュに渡した。もし不夜島に行くのなら、助けになるだろう。
ここしばらくの憂いも消え去り、ミゼアスは再びアデルジェスとの新婚旅行に戻ったのだった。
「海だ……」
大きく息を吸い込みながら、ミゼアスは呟く。胸を満たすのは、懐かしさを覚えるような潮の香りだ。
ミゼアス付きだった見習いの中には海岸が大好きな者がいて、よく連れて行ってほしいとせがまれたものだった。勝手にうろついているのを探しに行って、叱ったこともある。
懐かしさに目を細めながら、ミゼアスはもう一度じっくり味わおうと、息を吸い込む。
ミゼアスを包むのは、慣れ親しんだ香りよりも、いろいろなものが混ざった雑多な香りだ。活気のある人々の動きが滲んでいるようでもあった。
「前に、港町がどうのっていう話をしたことがあったよね。ここも、それほど大きくないけれど港町だし、少し滞在してみるのはどうだろう?」
アデルジェスの申し出に、ミゼアスが否と答える理由はない。
いつものように浴室付きの宿を取ってから、二人は町を散策する。活気のあるざわめきに満ちた道を一緒に歩き、露店を眺めていく。
「何か欲しいものはある?」
「うーん……楽器が欲しいかな。島を出るときにバタバタして、持ってこられなかったし。楽器もなしじゃあ、楽士を名乗ることもできやしない。花月琴は大きすぎるから、竪琴あたりがいいな」
「ああ……そっか。ウインシェルド侯爵のところに顔を見せに行かないといけないしね」
「うん、そうだね……」
ミゼアスは胸に軽い疼きを覚え、そっと胸を押さえる。
ウインシェルド侯爵は、ミゼアスが島で見習いだった頃から目をかけてくれ、支援をしてくれた相手だ。大病を患ったときにも手を尽くして救ってくれ、ミゼアスにとっては客以上の存在だった。
島を出た後、落ち着いたら楽士としてでも会いに行こうという話をアデルジェスとしていたのだ。
「……島を出てから一ヶ月半くらいしか経っていないのに、もう随分と昔のことに感じられるよ。僕、こうしてジェスと一緒に旅が出て、本当に幸せ」
「俺も幸せだよ」
二人で視線を交わして微笑み、繋いだ手に力をこめる。
「そこのお熱いお二人さん! 夜のお供に、いい品がそろってるよ!」
見つめ合っていると、冷やかし混じりに呼び込みの声がかかる。ミゼアスは苦笑しただけだったが、アデルジェスははっとした様子で顔を伏せ、顔を赤らめた。
まだまだ初々しいアデルジェスが可愛らしい。ミゼアスは忍び笑いを漏らしながら、アデルジェスの腕に絡みついた。
誘拐事件を引き起こした商人も誘拐した子供たちを帰し、枯れかけていた夕月花も元気を取り戻してきている。まだ完全に元どおりとはいかないが、道筋ははっきりと見えてきた状態だ。
ミゼアスとアデルジェスはローダンデリア領主の屋敷に滞在していたが、もう心配するようなことはないだろうと、旅立つことにした。
夕月花の生育の遅れを取り戻すべく、また、夕月花だけに頼るのではなく、新たな産業の種を芽吹かせようと、領主は多忙だった。あまり長居をして、邪魔になるのも悪いだろう。
「本当はもっとお話もしたかったのですが……お構いできずに申し訳ありません。もしよろしければ、冬にでもまたいらしてください。良い温泉があるのですよ。肌に吸い付くような心地よさで、特に冬は夢見心地になれますよ」
別れ際、領主からの言葉にミゼアスはぜひ、と頷いた。風呂好きのミゼアスにとっては、うっとりするような誘いだ。
ロシュは、まだ屋敷に残るという。商売のことで話し合いをしているそうだ。お互いの利益になる要素があったらしい。
ミゼアスは紹介状を書いて、ロシュに渡した。もし不夜島に行くのなら、助けになるだろう。
ここしばらくの憂いも消え去り、ミゼアスは再びアデルジェスとの新婚旅行に戻ったのだった。
「海だ……」
大きく息を吸い込みながら、ミゼアスは呟く。胸を満たすのは、懐かしさを覚えるような潮の香りだ。
ミゼアス付きだった見習いの中には海岸が大好きな者がいて、よく連れて行ってほしいとせがまれたものだった。勝手にうろついているのを探しに行って、叱ったこともある。
懐かしさに目を細めながら、ミゼアスはもう一度じっくり味わおうと、息を吸い込む。
ミゼアスを包むのは、慣れ親しんだ香りよりも、いろいろなものが混ざった雑多な香りだ。活気のある人々の動きが滲んでいるようでもあった。
「前に、港町がどうのっていう話をしたことがあったよね。ここも、それほど大きくないけれど港町だし、少し滞在してみるのはどうだろう?」
アデルジェスの申し出に、ミゼアスが否と答える理由はない。
いつものように浴室付きの宿を取ってから、二人は町を散策する。活気のあるざわめきに満ちた道を一緒に歩き、露店を眺めていく。
「何か欲しいものはある?」
「うーん……楽器が欲しいかな。島を出るときにバタバタして、持ってこられなかったし。楽器もなしじゃあ、楽士を名乗ることもできやしない。花月琴は大きすぎるから、竪琴あたりがいいな」
「ああ……そっか。ウインシェルド侯爵のところに顔を見せに行かないといけないしね」
「うん、そうだね……」
ミゼアスは胸に軽い疼きを覚え、そっと胸を押さえる。
ウインシェルド侯爵は、ミゼアスが島で見習いだった頃から目をかけてくれ、支援をしてくれた相手だ。大病を患ったときにも手を尽くして救ってくれ、ミゼアスにとっては客以上の存在だった。
島を出た後、落ち着いたら楽士としてでも会いに行こうという話をアデルジェスとしていたのだ。
「……島を出てから一ヶ月半くらいしか経っていないのに、もう随分と昔のことに感じられるよ。僕、こうしてジェスと一緒に旅が出て、本当に幸せ」
「俺も幸せだよ」
二人で視線を交わして微笑み、繋いだ手に力をこめる。
「そこのお熱いお二人さん! 夜のお供に、いい品がそろってるよ!」
見つめ合っていると、冷やかし混じりに呼び込みの声がかかる。ミゼアスは苦笑しただけだったが、アデルジェスははっとした様子で顔を伏せ、顔を赤らめた。
まだまだ初々しいアデルジェスが可愛らしい。ミゼアスは忍び笑いを漏らしながら、アデルジェスの腕に絡みついた。
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