僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

83.隔たり

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 ――不夜島のミゼアス。
 その名が聞こえて、アデルジェスは頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚える。頭がひび割れそうで、男たちの言葉が耳鳴りのように響く。

「不夜島のミゼアスっていったら、上級貴族でも相手をしてもらえるとは限らないって話じゃないか。俺たちなんて相手にしてもらえないだろ」

「ああ……確かに、不夜島を離れたっていう話は聞いたような気がする。だが、それにしたってまともにお相手なんてしてもらえないだろ」

「もちろん、まともにお相手はしてくれないさ。おさわり禁止で、足でしてくれるんだってよ。行った奴の話だと、蔑んだ眼差しを向けられながら足でされるのが、とんでもなく興奮したって」

「足か……そっちの趣味はないなあ」

「でも、どんなものか一回くらいは……って気にはなるかも……」

 男たちがわいわいと盛り上がっているのを尻目に、アデルジェスは一人その場を離れる。
 これ以上、聞きたくなかった。
 いつの間に娼館で働いていたのだろう。ミゼアスはアデルジェスの『およめさん』ではなかったのか。裏切られたような気分だ。
 おさわり禁止で足だけというから、身体は許していないのだろう。だから裏切りではないということだろうか。これもミゼアスとの隔たりなのだろうか。
 とぼとぼと歩きながら、アデルジェスは考え続ける。

 思えば、ミゼアスは楽器を欲しがっていた。値段が張る楽器のため、稼ごうとしていたのだろうか。
 好きでやっていることではなく、きっと金のために仕方がなかったのだろう。
 アデルジェスの稼ぎが少ないのが悪いのだ。
 しかし、それならばどうすればよいのだろう。
 答えを探し続けるが、見つからない。二人とも幸せで、楽器も手に入るという満足いく結果が導き出せない。

 どれかを諦めなくてはならないというのなら、いつもならばアデルジェスは自分が諦める道を選ぶ。
 もし、美味しい食べ物がひとつしかなかったとしたら、迷わずミゼアスに渡すだろう。狭い寝台がひとつしかないのなら、ミゼアスに寝台を譲って、アデルジェスは床で寝る。

 だが、こればかりは譲れなかった。
 直接身体に触れさせるわけではないにしろ、いかがわしいことはやめてほしい。育ち方が特殊なので感覚が違うのかもしれないが、アデルジェスには許容できないことなのだと、ミゼアスとはきちんと話し合おう。
 陰鬱な決意を秘めて、アデルジェスは宿に帰る。

「ジェス、お帰りなさい!」

 ミゼアスはいつものように、嬉しそうな顔をして飛びついてくる。

「ミゼアス……えっと、その……」

 話を切り出そうとするが、なかなかうまく言葉が出てこない。ミゼアスは首を傾げたようだったが、すぐに納得した表情になる。

「ああ、ごめん。ジェスは働いてきたんだから、お腹が空いているよね。夕食にしよう」

「あ、う、うん……」

 つい流され、アデルジェスは話を後回しにすることにして、席に着く。
 その後もなかなか話を口に出せないまま、結局部屋に戻って風呂まですませてしまった。ミゼアスが寝台で待っている。

「ミゼアス……話があるんだ」

 とうとうアデルジェスは切り出した。このままの状態で、ミゼアスを抱くことはできそうにない。
 ミゼアスはなあに、と首を傾げた。愛らしい姿にアデルジェスの心がくじけそうになるが、頭を振って気持ちを切り替える。
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