83 / 133
第三章 巡り会い
83.隔たり
しおりを挟む
――不夜島のミゼアス。
その名が聞こえて、アデルジェスは頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚える。頭がひび割れそうで、男たちの言葉が耳鳴りのように響く。
「不夜島のミゼアスっていったら、上級貴族でも相手をしてもらえるとは限らないって話じゃないか。俺たちなんて相手にしてもらえないだろ」
「ああ……確かに、不夜島を離れたっていう話は聞いたような気がする。だが、それにしたってまともにお相手なんてしてもらえないだろ」
「もちろん、まともにお相手はしてくれないさ。おさわり禁止で、足でしてくれるんだってよ。行った奴の話だと、蔑んだ眼差しを向けられながら足でされるのが、とんでもなく興奮したって」
「足か……そっちの趣味はないなあ」
「でも、どんなものか一回くらいは……って気にはなるかも……」
男たちがわいわいと盛り上がっているのを尻目に、アデルジェスは一人その場を離れる。
これ以上、聞きたくなかった。
いつの間に娼館で働いていたのだろう。ミゼアスはアデルジェスの『およめさん』ではなかったのか。裏切られたような気分だ。
おさわり禁止で足だけというから、身体は許していないのだろう。だから裏切りではないということだろうか。これもミゼアスとの隔たりなのだろうか。
とぼとぼと歩きながら、アデルジェスは考え続ける。
思えば、ミゼアスは楽器を欲しがっていた。値段が張る楽器のため、稼ごうとしていたのだろうか。
好きでやっていることではなく、きっと金のために仕方がなかったのだろう。
アデルジェスの稼ぎが少ないのが悪いのだ。
しかし、それならばどうすればよいのだろう。
答えを探し続けるが、見つからない。二人とも幸せで、楽器も手に入るという満足いく結果が導き出せない。
どれかを諦めなくてはならないというのなら、いつもならばアデルジェスは自分が諦める道を選ぶ。
もし、美味しい食べ物がひとつしかなかったとしたら、迷わずミゼアスに渡すだろう。狭い寝台がひとつしかないのなら、ミゼアスに寝台を譲って、アデルジェスは床で寝る。
だが、こればかりは譲れなかった。
直接身体に触れさせるわけではないにしろ、いかがわしいことはやめてほしい。育ち方が特殊なので感覚が違うのかもしれないが、アデルジェスには許容できないことなのだと、ミゼアスとはきちんと話し合おう。
陰鬱な決意を秘めて、アデルジェスは宿に帰る。
「ジェス、お帰りなさい!」
ミゼアスはいつものように、嬉しそうな顔をして飛びついてくる。
「ミゼアス……えっと、その……」
話を切り出そうとするが、なかなかうまく言葉が出てこない。ミゼアスは首を傾げたようだったが、すぐに納得した表情になる。
「ああ、ごめん。ジェスは働いてきたんだから、お腹が空いているよね。夕食にしよう」
「あ、う、うん……」
つい流され、アデルジェスは話を後回しにすることにして、席に着く。
その後もなかなか話を口に出せないまま、結局部屋に戻って風呂まですませてしまった。ミゼアスが寝台で待っている。
「ミゼアス……話があるんだ」
とうとうアデルジェスは切り出した。このままの状態で、ミゼアスを抱くことはできそうにない。
ミゼアスはなあに、と首を傾げた。愛らしい姿にアデルジェスの心がくじけそうになるが、頭を振って気持ちを切り替える。
その名が聞こえて、アデルジェスは頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚える。頭がひび割れそうで、男たちの言葉が耳鳴りのように響く。
「不夜島のミゼアスっていったら、上級貴族でも相手をしてもらえるとは限らないって話じゃないか。俺たちなんて相手にしてもらえないだろ」
「ああ……確かに、不夜島を離れたっていう話は聞いたような気がする。だが、それにしたってまともにお相手なんてしてもらえないだろ」
「もちろん、まともにお相手はしてくれないさ。おさわり禁止で、足でしてくれるんだってよ。行った奴の話だと、蔑んだ眼差しを向けられながら足でされるのが、とんでもなく興奮したって」
「足か……そっちの趣味はないなあ」
「でも、どんなものか一回くらいは……って気にはなるかも……」
男たちがわいわいと盛り上がっているのを尻目に、アデルジェスは一人その場を離れる。
これ以上、聞きたくなかった。
いつの間に娼館で働いていたのだろう。ミゼアスはアデルジェスの『およめさん』ではなかったのか。裏切られたような気分だ。
おさわり禁止で足だけというから、身体は許していないのだろう。だから裏切りではないということだろうか。これもミゼアスとの隔たりなのだろうか。
とぼとぼと歩きながら、アデルジェスは考え続ける。
思えば、ミゼアスは楽器を欲しがっていた。値段が張る楽器のため、稼ごうとしていたのだろうか。
好きでやっていることではなく、きっと金のために仕方がなかったのだろう。
アデルジェスの稼ぎが少ないのが悪いのだ。
しかし、それならばどうすればよいのだろう。
答えを探し続けるが、見つからない。二人とも幸せで、楽器も手に入るという満足いく結果が導き出せない。
どれかを諦めなくてはならないというのなら、いつもならばアデルジェスは自分が諦める道を選ぶ。
もし、美味しい食べ物がひとつしかなかったとしたら、迷わずミゼアスに渡すだろう。狭い寝台がひとつしかないのなら、ミゼアスに寝台を譲って、アデルジェスは床で寝る。
だが、こればかりは譲れなかった。
直接身体に触れさせるわけではないにしろ、いかがわしいことはやめてほしい。育ち方が特殊なので感覚が違うのかもしれないが、アデルジェスには許容できないことなのだと、ミゼアスとはきちんと話し合おう。
陰鬱な決意を秘めて、アデルジェスは宿に帰る。
「ジェス、お帰りなさい!」
ミゼアスはいつものように、嬉しそうな顔をして飛びついてくる。
「ミゼアス……えっと、その……」
話を切り出そうとするが、なかなかうまく言葉が出てこない。ミゼアスは首を傾げたようだったが、すぐに納得した表情になる。
「ああ、ごめん。ジェスは働いてきたんだから、お腹が空いているよね。夕食にしよう」
「あ、う、うん……」
つい流され、アデルジェスは話を後回しにすることにして、席に着く。
その後もなかなか話を口に出せないまま、結局部屋に戻って風呂まですませてしまった。ミゼアスが寝台で待っている。
「ミゼアス……話があるんだ」
とうとうアデルジェスは切り出した。このままの状態で、ミゼアスを抱くことはできそうにない。
ミゼアスはなあに、と首を傾げた。愛らしい姿にアデルジェスの心がくじけそうになるが、頭を振って気持ちを切り替える。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】トラウマ眼鏡系男子は幼馴染み王子に恋をする
獏乃みゆ
BL
黒髪メガネの地味な男子高校生・青山優李(あおやま ゆうり)。
小学生の頃、外見を理由にいじめられた彼は、顔を隠すように黒縁メガネをかけるようになった。
そんな優李を救ってくれたのは、幼馴染の遠野悠斗(とおの はると)。
優李は彼に恋をした。けれど、悠斗は同性で、その上誰もが振り返るほどの美貌の持ち主――手の届かない存在だった。
それでも傍にいたいと願う優李は自分の想いを絶対に隠し通そうと心に誓う。
一方、悠斗も密やかな想いをを秘めたまま優李を見つめ続ける。
一見穏やかな日常の裏で、二人の想いは静かにすれ違い始める。
やがて優李の前に、過去の“痛み”が再び姿を現す。
友情と恋の境界で揺れる二人が、すれ違いの果てに見つける答えとは。
――トラウマを抱えた少年と、彼を救った“王子”の救済と成長の物語。
─────────
両片想い幼馴染男子高校生の物語です。
個人的に、癖のあるキャラクターが好きなので、二人とも読み始めと印象が変化します。ご注意ください。
※主人公はメガネキャラですが、純粋に視力が悪くてメガネ着用というわけではないので、メガネ属性好きで読み始められる方はご注意ください。
※悠斗くん、穏やかで優しげな王子様キャラですが、途中で印象が変わる場合がありますので、キラキラ王子様がお好きな方はご注意ください。
─────
※ムーンライトノベルズにて連載していたものを加筆修正したものになります。
部分的に表現などが異なりますが、大筋のストーリーに変更はありません。
おそらく、より読みやすくなっているかと思います。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
竜人息子の溺愛!
神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。
勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。
だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。
そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。
超美形竜人息子×自称おじさん
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる