僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

86.まずは軽く

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「え……? 足で……?」

 辛辣なアデルジェスの疑いに胸を痛めていたミゼアスは、思いがけない言葉に涙を止めて呟いた。

「そ、そう! 足! 足でしてほしいんだ!」

 上擦った声で叫ぶアデルジェス。
 ミゼアスは慌てふためいた様子を見下ろしながら、考え込む。

 アデルジェスとの性交は、いつもミゼアスが気持ちよくしてもらってばかりだ。ミゼアスはせいぜい口でする程度で、それも多くはない。
 もしかしたら、アデルジェスは不満を抱いていたのではないだろうか。もっといろいろなことをしてみたいが、なかなか言い出せなかったのかもしれない。
 気付かなかったのは、ミゼアスの落ち度だ。ミゼアスのほうが年齢も、不本意ながら経験も上なのだから、アデルジェスを導くべきだったのに、怠ってしまった。

 自らの驕りに、ミゼアスは気付かされる。
 以前、性交関連の技術を磨くのが花嫁修業だと言われたとき、そんな技術くらいとっくに身に付いていると一笑に付した。国一番の高級娼館で、長年頂点に君臨していた自分には当たり前のことだと、まともに考えもしなかったのだ。
 ところが、アデルジェスの切なる願いに気付くことができなかった。これでは到底、立派な『およめさん』などと言えたものではない。
 ミゼアスは己の傲慢さを恥じる。

 思いを伝えようとして、かえって回りくどく相手の機嫌を損ねるような物言いをしてしまうことは、珍しくもない。
 まして、アデルジェスは駆け引きなど苦手だろう。
 先ほどはうまく自分の言いたいことを伝えられず、違う方向へと進んでいってしまったのだ。

 アデルジェスの視線が泳いでいるのは、とうとう思いのたけをさらけ出したことによる戸惑いだろう。もしかしたら、そういった行為は恥ずかしいと思っているのかもしれない。
 せっかくアデルジェスが勇気を振り絞って願いを吐き出したのだ。応えることができずして、何が『およめさん』だろうか。

「気付かなくてごめんね、ジェス……」

 ミゼアスは寝台に腰掛けたまま、床に座るアデルジェスの夜着の合わせ目に足を伸ばす。
 足の親指と人差し指でつまみ、軽く引っ張ると、アデルジェスがびくりと震えた。

「えっと……その……お手柔らかに……」

 不安そうなアデルジェスに向け、ミゼアスは安心させるように微笑みかける。

「大丈夫、まずは軽くやっていくから」

 男性自身を踏まれて罵られることによって恍惚とする者もいるが、アデルジェスには無理だろう。仕込んでいけば可能かもしれないが、もともとそういった素質は薄いように思えた。
 ミゼアスの見立てでは、アデルジェスは特に嗜虐嗜好や被虐嗜好のない、ごく単純な性質の持ち主だ。あえてどちらかと言われれば、嗜虐寄りだろうか。
 ただ、それは今現在のことでしかない。どちらにもさほど偏っていないということは、どちらにも転びうるということだ。
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