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第三章 巡り会い
92.懐かしい姿
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「ミゼアス? どうしたの? 大丈夫?」
心配そうなアデルジェスの声が響き、ミゼアスははっとして顔を上げる。つい俯いたまま考え込んでしまっていたらしい。
「あ……ごめん。ちょっと、何かを思い出しそうで考え込んじゃっていた。中に入ろう」
安心させるように微笑みながら、ミゼアスは答える。
つい考え込んでしまっていたが、とりあえず中に入ってしまおう。もし、本当にミゼアスの知るマリオンだったとすれば、見ればわかるはずだ。
ぎゅっとアデルジェスの手を握ると、アデルジェスはまだわずかに心配そうではあったが、何も言わずに手を握り返して中に入る。
「いらっしゃいませ」
店に入ると来客を告げる鈴の音が鳴り、続いて落ち着いた声が響く。
ミゼアスはアデルジェスの手を強く握りながら、声の主をじっと見つめた。
艶のある長い黒髪に、柔和で端正な顔立ち。かつてよく目にした、見覚えのある姿と重なる。ミゼアスの知る姿よりも甘みが抜け、やや鋭敏さを増したような印象ではあったが、やはりその人が年齢を重ねただけのようだ。
懐かしさと、まさかという信じられない思いが胸の中にぐるぐると渦巻き、ミゼアスはその場にただ立ち尽くす。
「先日の、竪琴をお探しの方ですね。そちらがお連れの方……」
アデルジェスの姿を認めてにこやかに口を開きかけた店主だったが、ミゼアスに視線を移したところで、こちらも固まる。
お互いに見つめあいながら、ミゼアスはやっと思い出した。
左耳の下にほくろがある男は、かつてマリオンに想いを寄せていた客だ。
マリオンはかつて不夜島でミゼアスの先輩だった白花で、ある事件をきっかけに島を出た。ミゼアスにとっては許せないことをした一方で、憎みきれずに複雑な思いを抱いていた相手でもある。
せめて島を出て新しい幸せを見つけてほしいと願い、マリオンが島を出るときに手紙を客へと送った。ひとつの可能性に賭け、客に託したのだ。
その後どうなったかを知る術はなかったが、あの客も一緒にいるということは、つまりそういうことなのだろう。
「……もしかして、ミゼアス?」
二人の間の沈黙が、戸惑いがちな声によって破られた。
かつてミゼアスが知っていたものと同じ、やや甘みのある穏やかな声だった。
心配そうなアデルジェスの声が響き、ミゼアスははっとして顔を上げる。つい俯いたまま考え込んでしまっていたらしい。
「あ……ごめん。ちょっと、何かを思い出しそうで考え込んじゃっていた。中に入ろう」
安心させるように微笑みながら、ミゼアスは答える。
つい考え込んでしまっていたが、とりあえず中に入ってしまおう。もし、本当にミゼアスの知るマリオンだったとすれば、見ればわかるはずだ。
ぎゅっとアデルジェスの手を握ると、アデルジェスはまだわずかに心配そうではあったが、何も言わずに手を握り返して中に入る。
「いらっしゃいませ」
店に入ると来客を告げる鈴の音が鳴り、続いて落ち着いた声が響く。
ミゼアスはアデルジェスの手を強く握りながら、声の主をじっと見つめた。
艶のある長い黒髪に、柔和で端正な顔立ち。かつてよく目にした、見覚えのある姿と重なる。ミゼアスの知る姿よりも甘みが抜け、やや鋭敏さを増したような印象ではあったが、やはりその人が年齢を重ねただけのようだ。
懐かしさと、まさかという信じられない思いが胸の中にぐるぐると渦巻き、ミゼアスはその場にただ立ち尽くす。
「先日の、竪琴をお探しの方ですね。そちらがお連れの方……」
アデルジェスの姿を認めてにこやかに口を開きかけた店主だったが、ミゼアスに視線を移したところで、こちらも固まる。
お互いに見つめあいながら、ミゼアスはやっと思い出した。
左耳の下にほくろがある男は、かつてマリオンに想いを寄せていた客だ。
マリオンはかつて不夜島でミゼアスの先輩だった白花で、ある事件をきっかけに島を出た。ミゼアスにとっては許せないことをした一方で、憎みきれずに複雑な思いを抱いていた相手でもある。
せめて島を出て新しい幸せを見つけてほしいと願い、マリオンが島を出るときに手紙を客へと送った。ひとつの可能性に賭け、客に託したのだ。
その後どうなったかを知る術はなかったが、あの客も一緒にいるということは、つまりそういうことなのだろう。
「……もしかして、ミゼアス?」
二人の間の沈黙が、戸惑いがちな声によって破られた。
かつてミゼアスが知っていたものと同じ、やや甘みのある穏やかな声だった。
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