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第三章 巡り会い
110.潰すか切り落とす
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翌日、マリオンの店に行くとマリオンが待ちかねたようにミゼアスを迎え、封筒のようなものを差し出してきた。ミゼアスが受け取りながらよく見てみれば、どうやら招待状のようだった。
ミゼアスが何の招待状だろうとマリオンを伺えば、マリオンは悪戯っぽい笑みをこぼす。
「領主主催の宴に行ってみませんか? 旦那様の仕事ぶり、気にしていましたよね」
気晴らしと、旦那様のお仕事ぶりを観察するため、マリオンは領主主催の宴への招待状を手に入れたらしい。
ミゼアスは二つ返事で頷いた。アデルジェスが仕事をしている姿は、まだ見たことがないのだ。
本人の名誉のためにいえば、決してアデルジェスが仕事をしないということではない。ただ、ミゼアスが間近で見る機会に恵まれていないだけだ。
普段は見られないアデルジェスの姿を見ることができるかもしれないと思えば、ミゼアスの胸はわくわくとしてくる。
マリオンはミゼアスを着飾らせ、領主主催の宴に行っても恥ずかしくない姿に整えていった。あなたにはこちらのほうが似合いますね、などと言いながらマリオンは楽しそうで、ミゼアスはすっかり着せ替え人形である。
島以外のことをよく知らないミゼアスは、されるがままになっていた。マリオンならば島を出てからそれなりの年数が経過しているのだし、そういった場にふさわしい服装や振る舞いなども身についているだろう。下手に口を出してはならないと、ミゼアスはマリオンの好きにさせる。
念のために気をつけておくことはないかと尋ねてみれば、もともとミゼアスには礼儀作法は身についているのだし、さらに今回の宴はそれほど格式張ったものではないので、特にないという答えだった。
「さあ、仕上げにこれを」
最後にマリオンは青い花をミゼアスの胸に飾った。
何か意味があるのだろうかと首を傾げれば、マリオンがくすりと笑う。
「これは決まった相手がいる、という印ですよ。旦那様以外の相手に口説かれたくはないでしょう? 花の色によって、相手を募集しているかなどを区別するのですよ」
マリオンの説明に、ミゼアスはなるほどと頷く。
不夜島でも似たような趣向は存在した。つまり、今日の宴はそういった意味合いも含んでいるということだろう。
「……ということは、ジェスも同じ色の花をつけているのかな」
思わず、ぼそりとミゼアスは呟く。
まさか相手募集中の色をつけていたらどうしようという考えがよぎり、軽く身を震わせる。
「大丈夫ですよ。あなたの旦那様は、あなた以外目に入っていませんよ。もし違う色を身につけていたとしたら、イーノスの差し金でしょう」
ミゼアスの不安を読み取り、マリオンが柔らかく諭す。優しい声に不安は遠ざかり、ミゼアスも我に返る。
「そうですよね……ジェスは浮気なんてしない……はず。でも、イーノスさんの差し金というのは?」
何気なく尋ねた一言だったが、マリオンの顔から優しい笑みが消えた。
代わりに底冷えのするような冷たい笑顔が浮かび上がってくる。口元は笑っているのに、目は笑っていない。
「アレが、自分の浮気の隠れ蓑にあなたの旦那様を使おうということですね。まあ、ないとは思いますけれど……」
声までもが低く、硬質で冷たい。ミゼアスの背筋に、冷たいものが流れる。
「だ……大丈夫ですよ、あれだけマリオン兄さんのことを大切に思っているのですし……」
失言だったようだ。どうにか取り繕おうと、ミゼアスは必死に言葉を探す。
「ふふ……もちろん、そのようなことはないと信じておりますよ。もし、そのようなことがあれば……潰すか、切り落とすかくらいは選ばせてあげましょうか」
にこやかな笑みをはりつけたままのマリオンから、ミゼアスはそっと視線をそらした。
何を潰すか切り落とすのかは、同じ男として恐ろしくて尋ねる気にもなれなかった。
ミゼアスが何の招待状だろうとマリオンを伺えば、マリオンは悪戯っぽい笑みをこぼす。
「領主主催の宴に行ってみませんか? 旦那様の仕事ぶり、気にしていましたよね」
気晴らしと、旦那様のお仕事ぶりを観察するため、マリオンは領主主催の宴への招待状を手に入れたらしい。
ミゼアスは二つ返事で頷いた。アデルジェスが仕事をしている姿は、まだ見たことがないのだ。
本人の名誉のためにいえば、決してアデルジェスが仕事をしないということではない。ただ、ミゼアスが間近で見る機会に恵まれていないだけだ。
普段は見られないアデルジェスの姿を見ることができるかもしれないと思えば、ミゼアスの胸はわくわくとしてくる。
マリオンはミゼアスを着飾らせ、領主主催の宴に行っても恥ずかしくない姿に整えていった。あなたにはこちらのほうが似合いますね、などと言いながらマリオンは楽しそうで、ミゼアスはすっかり着せ替え人形である。
島以外のことをよく知らないミゼアスは、されるがままになっていた。マリオンならば島を出てからそれなりの年数が経過しているのだし、そういった場にふさわしい服装や振る舞いなども身についているだろう。下手に口を出してはならないと、ミゼアスはマリオンの好きにさせる。
念のために気をつけておくことはないかと尋ねてみれば、もともとミゼアスには礼儀作法は身についているのだし、さらに今回の宴はそれほど格式張ったものではないので、特にないという答えだった。
「さあ、仕上げにこれを」
最後にマリオンは青い花をミゼアスの胸に飾った。
何か意味があるのだろうかと首を傾げれば、マリオンがくすりと笑う。
「これは決まった相手がいる、という印ですよ。旦那様以外の相手に口説かれたくはないでしょう? 花の色によって、相手を募集しているかなどを区別するのですよ」
マリオンの説明に、ミゼアスはなるほどと頷く。
不夜島でも似たような趣向は存在した。つまり、今日の宴はそういった意味合いも含んでいるということだろう。
「……ということは、ジェスも同じ色の花をつけているのかな」
思わず、ぼそりとミゼアスは呟く。
まさか相手募集中の色をつけていたらどうしようという考えがよぎり、軽く身を震わせる。
「大丈夫ですよ。あなたの旦那様は、あなた以外目に入っていませんよ。もし違う色を身につけていたとしたら、イーノスの差し金でしょう」
ミゼアスの不安を読み取り、マリオンが柔らかく諭す。優しい声に不安は遠ざかり、ミゼアスも我に返る。
「そうですよね……ジェスは浮気なんてしない……はず。でも、イーノスさんの差し金というのは?」
何気なく尋ねた一言だったが、マリオンの顔から優しい笑みが消えた。
代わりに底冷えのするような冷たい笑顔が浮かび上がってくる。口元は笑っているのに、目は笑っていない。
「アレが、自分の浮気の隠れ蓑にあなたの旦那様を使おうということですね。まあ、ないとは思いますけれど……」
声までもが低く、硬質で冷たい。ミゼアスの背筋に、冷たいものが流れる。
「だ……大丈夫ですよ、あれだけマリオン兄さんのことを大切に思っているのですし……」
失言だったようだ。どうにか取り繕おうと、ミゼアスは必死に言葉を探す。
「ふふ……もちろん、そのようなことはないと信じておりますよ。もし、そのようなことがあれば……潰すか、切り落とすかくらいは選ばせてあげましょうか」
にこやかな笑みをはりつけたままのマリオンから、ミゼアスはそっと視線をそらした。
何を潰すか切り落とすのかは、同じ男として恐ろしくて尋ねる気にもなれなかった。
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