僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

109.少しの我慢

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 不吉な言葉を残し、少年は去っていった。
 とりあえず花月琴を諦めたらしいことはよかったが、ミゼアスとマリオンには陰鬱な気分が残された。

「あんなの、ただの戯言ですよ」

「そうですよね……」

 慰めようとするマリオンに頷き、ミゼアスも先ほどの言葉を振り払おうとする。
 あの程度の嫌味くらい、言われ慣れている。不夜島で白花として上り詰めていったときは、日常茶飯事だった。さすがに五花になってからは、面と向かって言われることこそ滅多になくなったが、裏では好き勝手に言われていたことだろう。

 それなのに、今の言葉はミゼアスの心に重く沈みこんでいた。
 かつてのミゼアスならば、鼻で笑い飛ばしていたはずだ。
 これほど気に病んでしまうなど、心が弱くなってしまったのだろうか。ミゼアスはそっと胸に手を当てる。
 島を出てから、ミゼアスはアデルジェスの『およめさん』として心穏やかに、幸せな日々を送っていた。幸福が日常となっているからこそ、ちょっとした嫌味にも過剰に反応してしまうのだろう。

 そうだ、今はとても幸せなのだ。
 ここのところアデルジェスは忙しいものの、毎日顔を会わせることはできている。かつて会えるかどうかもわからないまま待ち続けていた日々と比べると、何という差だろうか。
 ミゼアスは心に平穏が戻ってくるのを感じる。アデルジェスのことを思えば、胸は温かく満ちていった。



 宿に戻っていつものように料理を教わりながら、アデルジェスのために軽い夜食を用意してミゼアスは待つ。

「お帰りなさい、ジェス」

 やっと帰ってきたアデルジェスに抱きつき、ミゼアスはアデルジェスの温もりを味わう。

「ただいま……ミゼアス、どうしたの?」

 アデルジェスはミゼアスを受け止めて背中を撫でながら、首を傾げる。

「ん……ジェスに甘えたい気分なの」

 ミゼアスがアデルジェスの胸に顔をすり寄せながら答えると、アデルジェスは小さく笑い声を漏らしてミゼアスの髪を撫でた。

「寂しい思いをさせてごめん。明日の領主主催の宴が終われば落ち着くから、明後日は二人でゆっくりしよう」

 申し訳なさそうなアデルジェスに向かって微笑むと、ミゼアスは返事の代わりに背伸びをして口づけをねだる。
 望みのものはすぐに与えられ、ミゼアスはアデルジェスの背中に腕を回しながら優しい口づけに酔う。軽く啄ばむようにじゃれ合いながら、徐々に舌を絡めて深く味わっていく。
 本当はこのまま身体を重ね、アデルジェスに貫かれて甘い時間を過ごしたい。しかし、アデルジェスは明日も忙しいのだ。ミゼアスはぐっとこらえて、唇を離した。

 早ければ明日の夜、遅くとも明後日には存分に望みを叶えてもらえるのだ。ミゼアスは立派な『およめさん』なのだから、旦那様の邪魔をしてはならない。あとほんの少しの我慢くらい、きちんとできるのだ。
 身体の奥に燻ぶる情欲の炎をなだめ、ミゼアスはアデルジェスのための夜食を準備するのだった。
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