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第三章 巡り会い
124.始まりの出来事
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「えっと、それじゃあミゼアス兄さんが寝込んだ件についてですけれど、まずは始まりの出来事である、六年前のことからですね」
応接室にて、ヴァレンが口を開く。
マリオンとイーノスは食事の準備をしているので、この部屋にはミゼアスとアデルジェス、そしてヴァレンの三人しかいない。
「ミゼアス兄さんが大病を患ったとき、ウインシェルド侯爵が呼んだ魔術医によって、ミゼアス兄さんは助かりました。まあ……実は、その魔術医っていうのが不夜島の領主様だったんですけれど」
いきなり衝撃的な発言がヴァレンの口から飛び出し、ミゼアスは唖然としてしまう。
ミゼアスを助けてくれた魔術医が不夜島の領主だとは、考えたこともなかった。
今では養子扱いになっているミゼアスだが、実は不夜島の領主のことはほとんど知らない。島を出る手続きの際、少し会話を交わした程度だ。
だが、不夜島の領主が魔女だというのは有名な話である。魔術医と同じことができても不思議はないだろうと、ミゼアスはどうにか話を飲み込む。
「とにかく、奇跡の術によってミゼアス兄さんは一命を取り留めました。でも、実は病気の因子を取り除くことはできず、発病しないように抑えているだけだそうです。その仕組みを作るのに、ジェスさんの力を借りたと言っていました」
さらにヴァレンは話を続ける。
アデルジェスの力を借りたということはミゼアスも聞いたことがあったが、具体的な内容は知らない。もしかしてアデルジェスに負担をかけたのではないだろうかと、ミゼアスは急に不安に襲われて、思わず呻き声が漏れてしまう。
「ジェスさんの生命力の一部をもらったそうですよ。とはいっても、寿命が縮むとか大げさなものではなく、術を行使したときにジェスさんがわけのわからない疲労を覚えた程度だとか。おそらく覚えていないだろうけれど、ジェスさんも了承したそうです」
ミゼアスが不安そうにしていることに気づいたのか、ヴァレンは内容についての説明を加えてきた。たいした負担ではないと言いたいのだろう。
「……昔見た夢で、助けてあげて、と言われて頷いたような気はする。はっきり覚えてはいないけれど、俺にできることなら絶対に断るはずがないよ。たとえ、俺の寿命が縮むとしても、ミゼアスを助けられるのなら、迷わず頷く」
ヴァレンの言葉を補助するように、アデルジェスも決意をこめた眼差しをミゼアスに向けてきっぱりと言い切る。
「ジェス……」
迷いのないアデルジェスの言葉を聞き、ミゼアスは身震いするほどの胸の高鳴りを覚える。これほどまでミゼアスのことを想ってくれているということが、幸福で仕方がない。
思わずミゼアスの瞳は潤み、涙が溢れ出さないようにこらえるので精一杯だ。
「あーはいはい、イチャイチャするのは後にしてくれませんかね。俺は独り身なんだから、少しは気遣ってくださいねー」
しかし、ミゼアスの感動に水を差すようなヴァレンの言葉が響く。
ミゼアスはつい呆れたような眼差しをヴァレンに向けてしまうが、ヴァレンはにこにことした明るい笑顔を浮かべるだけだ。
応接室にて、ヴァレンが口を開く。
マリオンとイーノスは食事の準備をしているので、この部屋にはミゼアスとアデルジェス、そしてヴァレンの三人しかいない。
「ミゼアス兄さんが大病を患ったとき、ウインシェルド侯爵が呼んだ魔術医によって、ミゼアス兄さんは助かりました。まあ……実は、その魔術医っていうのが不夜島の領主様だったんですけれど」
いきなり衝撃的な発言がヴァレンの口から飛び出し、ミゼアスは唖然としてしまう。
ミゼアスを助けてくれた魔術医が不夜島の領主だとは、考えたこともなかった。
今では養子扱いになっているミゼアスだが、実は不夜島の領主のことはほとんど知らない。島を出る手続きの際、少し会話を交わした程度だ。
だが、不夜島の領主が魔女だというのは有名な話である。魔術医と同じことができても不思議はないだろうと、ミゼアスはどうにか話を飲み込む。
「とにかく、奇跡の術によってミゼアス兄さんは一命を取り留めました。でも、実は病気の因子を取り除くことはできず、発病しないように抑えているだけだそうです。その仕組みを作るのに、ジェスさんの力を借りたと言っていました」
さらにヴァレンは話を続ける。
アデルジェスの力を借りたということはミゼアスも聞いたことがあったが、具体的な内容は知らない。もしかしてアデルジェスに負担をかけたのではないだろうかと、ミゼアスは急に不安に襲われて、思わず呻き声が漏れてしまう。
「ジェスさんの生命力の一部をもらったそうですよ。とはいっても、寿命が縮むとか大げさなものではなく、術を行使したときにジェスさんがわけのわからない疲労を覚えた程度だとか。おそらく覚えていないだろうけれど、ジェスさんも了承したそうです」
ミゼアスが不安そうにしていることに気づいたのか、ヴァレンは内容についての説明を加えてきた。たいした負担ではないと言いたいのだろう。
「……昔見た夢で、助けてあげて、と言われて頷いたような気はする。はっきり覚えてはいないけれど、俺にできることなら絶対に断るはずがないよ。たとえ、俺の寿命が縮むとしても、ミゼアスを助けられるのなら、迷わず頷く」
ヴァレンの言葉を補助するように、アデルジェスも決意をこめた眼差しをミゼアスに向けてきっぱりと言い切る。
「ジェス……」
迷いのないアデルジェスの言葉を聞き、ミゼアスは身震いするほどの胸の高鳴りを覚える。これほどまでミゼアスのことを想ってくれているということが、幸福で仕方がない。
思わずミゼアスの瞳は潤み、涙が溢れ出さないようにこらえるので精一杯だ。
「あーはいはい、イチャイチャするのは後にしてくれませんかね。俺は独り身なんだから、少しは気遣ってくださいねー」
しかし、ミゼアスの感動に水を差すようなヴァレンの言葉が響く。
ミゼアスはつい呆れたような眼差しをヴァレンに向けてしまうが、ヴァレンはにこにことした明るい笑顔を浮かべるだけだ。
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