不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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五花をめざして14

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「待っていたよ」

 学校から帰ってきた見習い三人がミゼアスの部屋を訪れると、待ち構えていたミゼアスに迎えられた。

「せっかく一週間の休暇だと喜んでいたら、部屋から出るなだって。顔がひどいことになっているはずなんだから、部屋で静養していろって……これじゃあ軟禁じゃないか」

 唇を尖らせながらミゼアスはぶつぶつと文句を言う。

「散歩には行けないし、食堂や談話室にすら行けない。こういうときに限ってヴァレンも出かけている。もう、退屈で、退屈で……きみたちの帰りを今か今かと待っていたよ」

「……お気の毒です……」

「あぁ、そういえば、お見舞いが色々届いているんだけれど、お菓子もあったから食べていいよ。お茶淹れてくれる?」

 ミゼアスがそう言って指し示した先には、色とりどりの花から薬らしきもの、菓子類など様々な品が積み重ねられていた。

「……凄いですね」

 思わず呟きながら、アルンはお茶の用意を始めた。ブラムとコリンが見舞い品を簡単に仕分けし、いくつか菓子を持ってくる。
 お茶とお菓子の準備が整い、四人は卓を囲む。

「それにしても、昨日の今日でこんなにお見舞いが届くんですね……」

 焼き菓子を食べながら、感心してアルンは言う。

「あぁ……今回は意図的に情報を流したしね」

 お茶の香りを楽しみながらミゼアスが答える。

「意図的?」

「あの客には優秀な弟がいるって言っただろう。その弟に、少し前から『近々、あなたの兄が不祥事を起こすかもしれませんよ』って伝えておいたんだ。そして昨日、すぐに不祥事が起こったことを知らせたんだよ」

 ミゼアスはお茶を一口含む。

「後は弟次第だろうけれどね。うまくたたみかけて兄を廃嫡まで持っていけるかどうかは、彼の腕にかかっているかな。娼館で不祥事なんて、普通ならもみ消すだろうけれど、もう公になっちゃっているし、恥ずかしいよね。莫大な賠償請求もいったみたいだし。ああ、楽しそう」

 くすくすと笑いを漏らすミゼアス。

「ついでに、僕の贔屓客にもお知らせしておいた。予約していた客には『こんな顔をお見せできません』って詫び状も送っておいた。僕のお客は上級貴族ばかりだしね。彼らが直接どうこうってことはないだろうけれど、まあ視線くらいは冷たくなるんじゃないかな。弟への追い風程度にはなるかもね」

 その結果が、あの見舞い品にも繋がるわけなんだけれどとミゼアスは付け足す。
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