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希望 1
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子供が二人、一人の男に連れられて歩いていた。
ガリガリに痩せた子供たちは顔色が悪く、何より瞳に生気がない。綺麗な街並みを眺めながら、関わりのない場所だと自らを切り離しているようだった。
二人は兄弟で、貧しさのために売られてきた。ろくな食事も当たらず、邪魔にされる生活からは解放されたが、どうせ行き先も似たような場所だろう。二人の瞳にはそうとでも言っているような諦めが伺えた。
すっかり冷たくなった風が二人を突き刺す。
そこに、彼らとは対照的な二人が通りかかった。
鮮やかな黄金色の髪が眩しい少年と、赤味がかった金髪の子供である。お揃いの白い毛皮の首巻きをしていて、暖かそうだ。二人の表情も柔らかく、身体だけではなく心も寒くないのだろうと伺わせる。
子供がふと立ち止まって、くしゃみをした。
「……大丈夫? 寒いかい?」
少年も足を止め、気遣うような声をかける。
「大丈夫です! あったかいです! ふわふわ、もこもこー」
元気に答え、子供は首巻きを持ち上げて頬擦りする。
「そう? とにかく、早く帰って暖まろうか。蜂蜜茶でも淹れて、さっき買ってきたお菓子を食べよう」
「やったー!」
暖かそうな二人が去っていくのを、兄弟は暗澹たる眼差しで見送っていた。
きっと、金持ちの子供たちなのだろう。自分たちとは違う種類の生き物だ。そうやってごまかし、自らを慰めようとしているのが、力ない瞳から伝わってくる。
「おまえたち、今の二人は自分たちとは違う、金持ちの子だなんて思っちゃいないか?」
男が声をかけると、兄弟は訝しげに男を見上げてきた。
「今のは白花と見習い……あの二人もおまえたちと同じく、売られてきた子供たちだよ」
兄弟の瞳が、これ以上ないというほど大きく見開かれる。数日の付き合いの中で男が初めて見る、表情らしい表情だった。
「お……おれも、あんなふうになれるのか……?」
おそるおそる、兄のほうが口を開く。
「ああ、頑張ればな。しっかり勉強して、真面目に頑張れば、おまえたちだってああいう寒さに震えない生活ができるんだ」
男が答えると、兄弟の瞳に生気が蘇ってきた。口元がゆるやかに綻んでいく。まるで萎れていた蕾が息を吹き返し、花開こうとするかのようだ。
「おれ、頑張る……」
「おれも……」
兄弟は表情を取り戻し、希望に瞳を輝かせる。
「おう、頑張れよ。まずはそのガリガリなのを何とかしないとな。最初の仕事は食べることだな。いっぱい食べて、もっと太れ。せっかく元はいいのに台無しになってるからな」
男の言葉に、さらに兄弟の顔が輝く。
今はきっと、ここが素晴らしい天国のようだと思っているだろう。
そのうち、それだけではないことを知る。狭い鳥籠、身を売る日々。
それでもここなど、売られた子供の行き先としては最上級だ。少なくとも、元の貧乏暮らしよりずっとましだろう。
だから、頑張れよ。男は言葉にせず、口元に笑みを乗せた。
ガリガリに痩せた子供たちは顔色が悪く、何より瞳に生気がない。綺麗な街並みを眺めながら、関わりのない場所だと自らを切り離しているようだった。
二人は兄弟で、貧しさのために売られてきた。ろくな食事も当たらず、邪魔にされる生活からは解放されたが、どうせ行き先も似たような場所だろう。二人の瞳にはそうとでも言っているような諦めが伺えた。
すっかり冷たくなった風が二人を突き刺す。
そこに、彼らとは対照的な二人が通りかかった。
鮮やかな黄金色の髪が眩しい少年と、赤味がかった金髪の子供である。お揃いの白い毛皮の首巻きをしていて、暖かそうだ。二人の表情も柔らかく、身体だけではなく心も寒くないのだろうと伺わせる。
子供がふと立ち止まって、くしゃみをした。
「……大丈夫? 寒いかい?」
少年も足を止め、気遣うような声をかける。
「大丈夫です! あったかいです! ふわふわ、もこもこー」
元気に答え、子供は首巻きを持ち上げて頬擦りする。
「そう? とにかく、早く帰って暖まろうか。蜂蜜茶でも淹れて、さっき買ってきたお菓子を食べよう」
「やったー!」
暖かそうな二人が去っていくのを、兄弟は暗澹たる眼差しで見送っていた。
きっと、金持ちの子供たちなのだろう。自分たちとは違う種類の生き物だ。そうやってごまかし、自らを慰めようとしているのが、力ない瞳から伝わってくる。
「おまえたち、今の二人は自分たちとは違う、金持ちの子だなんて思っちゃいないか?」
男が声をかけると、兄弟は訝しげに男を見上げてきた。
「今のは白花と見習い……あの二人もおまえたちと同じく、売られてきた子供たちだよ」
兄弟の瞳が、これ以上ないというほど大きく見開かれる。数日の付き合いの中で男が初めて見る、表情らしい表情だった。
「お……おれも、あんなふうになれるのか……?」
おそるおそる、兄のほうが口を開く。
「ああ、頑張ればな。しっかり勉強して、真面目に頑張れば、おまえたちだってああいう寒さに震えない生活ができるんだ」
男が答えると、兄弟の瞳に生気が蘇ってきた。口元がゆるやかに綻んでいく。まるで萎れていた蕾が息を吹き返し、花開こうとするかのようだ。
「おれ、頑張る……」
「おれも……」
兄弟は表情を取り戻し、希望に瞳を輝かせる。
「おう、頑張れよ。まずはそのガリガリなのを何とかしないとな。最初の仕事は食べることだな。いっぱい食べて、もっと太れ。せっかく元はいいのに台無しになってるからな」
男の言葉に、さらに兄弟の顔が輝く。
今はきっと、ここが素晴らしい天国のようだと思っているだろう。
そのうち、それだけではないことを知る。狭い鳥籠、身を売る日々。
それでもここなど、売られた子供の行き先としては最上級だ。少なくとも、元の貧乏暮らしよりずっとましだろう。
だから、頑張れよ。男は言葉にせず、口元に笑みを乗せた。
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