不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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希望 2

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 温かい蜂蜜茶を飲みながら、ミゼアスはヴァレンとお茶の時間を過ごしていた。

「風邪、ひいていないかい?」

「大丈夫です! おまえはナントカだから風邪をひかない、ってよく言われます!」

「いや……それって、どうなんだろうね……」

 乾いた笑いを漏らし、ミゼアスは蜂蜜茶を口に運ぶ。

「……さっき、俺たちのことをじっと見ていた子供たちがいましたね」

 ぽつりとヴァレンが口を開く。

「あぁ……そうだね。僕たちの姿を見せていたんだろう」

「どういうことですか?」

「それまでの暮らしに絶望し、心が暗闇に閉じ込められている子がいるんだよ。あけすけに言えば、そんなんじゃあ商品として使い物にならない。だから、希望という光をあててやるんだ。おまえたちも頑張れば、ああやって良い暮らしができるぞ、ってね」

 ミゼアスは口元を皮肉そうに歪める。
 良い暮らしができるというのは、間違ってはいない。飢えて死ぬより、身を売って生きるほうがましだろう。
 それもここは高級娼館だ。死ぬよりまし、といった程度ではない。むしろ、庶民よりもずっと上等な生活ができる。

 しかし、とミゼアスはそっと胸を押さえる。
 最高位の五花として何不自由のない生活を送りながら、ミゼアスにはどうしても満たされないものがあった。今の生活と引き換えに失ってしまった夢がある。
 あの子たちだって希望を与えられても、また別の絶望が待っているかもしれないのだ。

「ミゼアス兄さんと俺の姿が、あの子たちにとって希望になっていたらいいなー」

 のんびりとした温かい声に、ミゼアスは物思いからはっと引き戻される。

「俺、ここに来て良かったと思っています。ミゼアス兄さんに会えました。まだ俺は見習いだし、実際の仕事はしていませんけれど……でも、きっとどうにかなると思います!」

 ヴァレンの無邪気な笑顔が、ミゼアスの満たされない心をいっとき埋めてくれるようだった。
 この笑顔にどれだけ救われたことか。

「……そうだね。僕たちは希望を見せないといけない。そして、僕にとってはきみも希望だよ」

 ヴァレンの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めてヴァレンはミゼアスを見上げる。

「俺、頑張ります! 今度こそ逆立ちで島一周を……!」

「……うん、どうしてそういうことを頑張るんだろうね。せめて、もう少し暖かくなってからにしようね……」
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