48 / 63
48.不吉な花吹雪
しおりを挟む
嫉妬から散々嫌味を浴びせ、嫌がらせに下剤まで使用してきたガルト。
迷惑な話ではあったが、誤解もとけてめでたく収まった。勝手に幸せになればいい。
自分付きからはずしたネヴィル。
もっと向かい合ってやればよかったとの後悔は残るが、日々頑張って歩んでいるようだ。もう大丈夫だろう。
そして一人、島を出たマリオン。
彼のことを思い出すと、ミゼアスの胸はちくりと痛む。もっと別の方法があったのではないだろうか。そもそも、自分がもっと早くに気付くことができていれば、結果は変わっていたのではないだろうか。
今更思っても仕方がないことだが、つい違う結果を想像してしまう。
だが、もうミゼアスには何もすることはできない。ただ彼が幸せを見つけることを祈るだけだ。
全ての思いを糧とし、『雪月花』は玲瓏な音を響かせる。
天まで突き抜けていくような高音からやわらかく温かな低音までが波のようにうねり、室内を包み込んでいく。
やがてひらひらと花びらが舞い始めた。儚げな薄紅色の花びらが、どこからともなく現れて踊り出す。
やはりそうか、とウインシェルド侯爵が満足げに頷いた。ヴァレンは不思議そうに花びらに手を伸ばして捕えようとする。しかし花びらは手をすり抜けていくようで、ヴァレンはやっきになってばたばたと手を動す。
目の端でヴァレンが暴れているのを捉え、ミゼアスは演奏しながら苦笑を漏らした。困るところは多々あるが、ヴァレンには救われている。呆れながらも温かい気持ちを胸に抱き、ミゼアスは演奏を続ける。
すると徐々に花びらは数を増し、勢いを増して、ついには花吹雪のようになったのだ。まるで春の嵐のようだった。
さすがにそれにはウインシェルド侯爵も驚く。ヴァレンもぽかんとした顔をして、舞い狂う花びらを眺めていた。
演奏を終えれば花びらは空気の中に溶けていった。どこにも痕跡が見当たらない。それまでの花吹雪はまるで幻だったかのようだ。
言葉もなく、ミゼアスとウインシェルド侯爵は顔を見合わせた。ヴァレンは不思議そうに、何もない空中に手をさまよわせる。
ミゼアスはふと、ぞくりと寒気を感じた。
誕生日から数日後、ミゼアスは普段どおりヴァレンの奇行に頭を悩ませていた。
「だから、廊下で壁飛びはやめなさい!」
「ごめんなさい……ちょうどよかったから……。今度は、きちんと部屋でやります」
「いや、部屋でやるのも駄目だよね。せめて外で……」
言いながら、ミゼアスは目の前がぐらりと揺れるのを感じた。立ちくらみか、と思うが次の瞬間には意識が急激に遠ざかっていった。
慌ててヴァレンが駆け寄り、支えてくれたのが目に入る。
「ミゼアス兄さん? ……ミゼアス兄さん!」
ヴァレンの声がかすかに耳に届き、ミゼアスの意識は闇に包まれた。
迷惑な話ではあったが、誤解もとけてめでたく収まった。勝手に幸せになればいい。
自分付きからはずしたネヴィル。
もっと向かい合ってやればよかったとの後悔は残るが、日々頑張って歩んでいるようだ。もう大丈夫だろう。
そして一人、島を出たマリオン。
彼のことを思い出すと、ミゼアスの胸はちくりと痛む。もっと別の方法があったのではないだろうか。そもそも、自分がもっと早くに気付くことができていれば、結果は変わっていたのではないだろうか。
今更思っても仕方がないことだが、つい違う結果を想像してしまう。
だが、もうミゼアスには何もすることはできない。ただ彼が幸せを見つけることを祈るだけだ。
全ての思いを糧とし、『雪月花』は玲瓏な音を響かせる。
天まで突き抜けていくような高音からやわらかく温かな低音までが波のようにうねり、室内を包み込んでいく。
やがてひらひらと花びらが舞い始めた。儚げな薄紅色の花びらが、どこからともなく現れて踊り出す。
やはりそうか、とウインシェルド侯爵が満足げに頷いた。ヴァレンは不思議そうに花びらに手を伸ばして捕えようとする。しかし花びらは手をすり抜けていくようで、ヴァレンはやっきになってばたばたと手を動す。
目の端でヴァレンが暴れているのを捉え、ミゼアスは演奏しながら苦笑を漏らした。困るところは多々あるが、ヴァレンには救われている。呆れながらも温かい気持ちを胸に抱き、ミゼアスは演奏を続ける。
すると徐々に花びらは数を増し、勢いを増して、ついには花吹雪のようになったのだ。まるで春の嵐のようだった。
さすがにそれにはウインシェルド侯爵も驚く。ヴァレンもぽかんとした顔をして、舞い狂う花びらを眺めていた。
演奏を終えれば花びらは空気の中に溶けていった。どこにも痕跡が見当たらない。それまでの花吹雪はまるで幻だったかのようだ。
言葉もなく、ミゼアスとウインシェルド侯爵は顔を見合わせた。ヴァレンは不思議そうに、何もない空中に手をさまよわせる。
ミゼアスはふと、ぞくりと寒気を感じた。
誕生日から数日後、ミゼアスは普段どおりヴァレンの奇行に頭を悩ませていた。
「だから、廊下で壁飛びはやめなさい!」
「ごめんなさい……ちょうどよかったから……。今度は、きちんと部屋でやります」
「いや、部屋でやるのも駄目だよね。せめて外で……」
言いながら、ミゼアスは目の前がぐらりと揺れるのを感じた。立ちくらみか、と思うが次の瞬間には意識が急激に遠ざかっていった。
慌ててヴァレンが駆け寄り、支えてくれたのが目に入る。
「ミゼアス兄さん? ……ミゼアス兄さん!」
ヴァレンの声がかすかに耳に届き、ミゼアスの意識は闇に包まれた。
0
あなたにおすすめの小説
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる