きみを待つ

四葉 翠花

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48.不吉な花吹雪

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 嫉妬から散々嫌味を浴びせ、嫌がらせに下剤まで使用してきたガルト。
 迷惑な話ではあったが、誤解もとけてめでたく収まった。勝手に幸せになればいい。

 自分付きからはずしたネヴィル。
 もっと向かい合ってやればよかったとの後悔は残るが、日々頑張って歩んでいるようだ。もう大丈夫だろう。

 そして一人、島を出たマリオン。
 彼のことを思い出すと、ミゼアスの胸はちくりと痛む。もっと別の方法があったのではないだろうか。そもそも、自分がもっと早くに気付くことができていれば、結果は変わっていたのではないだろうか。
 今更思っても仕方がないことだが、つい違う結果を想像してしまう。
 だが、もうミゼアスには何もすることはできない。ただ彼が幸せを見つけることを祈るだけだ。

 全ての思いを糧とし、『雪月花』は玲瓏な音を響かせる。
 天まで突き抜けていくような高音からやわらかく温かな低音までが波のようにうねり、室内を包み込んでいく。
 やがてひらひらと花びらが舞い始めた。儚げな薄紅色の花びらが、どこからともなく現れて踊り出す。

 やはりそうか、とウインシェルド侯爵が満足げに頷いた。ヴァレンは不思議そうに花びらに手を伸ばして捕えようとする。しかし花びらは手をすり抜けていくようで、ヴァレンはやっきになってばたばたと手を動す。
 目の端でヴァレンが暴れているのを捉え、ミゼアスは演奏しながら苦笑を漏らした。困るところは多々あるが、ヴァレンには救われている。呆れながらも温かい気持ちを胸に抱き、ミゼアスは演奏を続ける。

 すると徐々に花びらは数を増し、勢いを増して、ついには花吹雪のようになったのだ。まるで春の嵐のようだった。
 さすがにそれにはウインシェルド侯爵も驚く。ヴァレンもぽかんとした顔をして、舞い狂う花びらを眺めていた。
 演奏を終えれば花びらは空気の中に溶けていった。どこにも痕跡が見当たらない。それまでの花吹雪はまるで幻だったかのようだ。

 言葉もなく、ミゼアスとウインシェルド侯爵は顔を見合わせた。ヴァレンは不思議そうに、何もない空中に手をさまよわせる。
 ミゼアスはふと、ぞくりと寒気を感じた。



 誕生日から数日後、ミゼアスは普段どおりヴァレンの奇行に頭を悩ませていた。

「だから、廊下で壁飛びはやめなさい!」

「ごめんなさい……ちょうどよかったから……。今度は、きちんと部屋でやります」

「いや、部屋でやるのも駄目だよね。せめて外で……」

 言いながら、ミゼアスは目の前がぐらりと揺れるのを感じた。立ちくらみか、と思うが次の瞬間には意識が急激に遠ざかっていった。
 慌ててヴァレンが駆け寄り、支えてくれたのが目に入る。

「ミゼアス兄さん? ……ミゼアス兄さん!」

 ヴァレンの声がかすかに耳に届き、ミゼアスの意識は闇に包まれた。
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