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45.見習い
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アデルジェスは喉の渇きで目が覚めた。
寝台横の卓に置いてあった水差しを取ろうとするが、中身が空であることに気づいた。
そこで昨夜の記憶が蘇る。情欲に潤んだ瞳にアデルジェスを映し、甘い声をあげるミゼアスの姿が浮かび、顔に血が上ってきた。散々交わった後、水を欲しがるミゼアスに口移しで飲ませたのだった。
残った水はその後アデルジェスが飲み干したので、もう中身はない。
いちおう風呂で身を清めはしたが、寝台はなかなか酷い有様だった。
それでもミゼアスはアデルジェスの隣でぐっすりと眠っている。相当疲れていることだろう。
アデルジェスはそっと寝台から抜け出した。ミゼアスを起こさないよう注意しながら服を纏い、隣の部屋に移動する。
「おはようございます、アデルジェスさん」
するとそこには見習いのアルンがいた。
「あれ? アルン? おはよう……学校は?」
まだ昼前ではあるようだが、早朝といえる時間ではなさそうだ。訝しく思って尋ねてみる。
「今日の授業は午後からです。僕は基礎課程が終わっているので、たまにこういうことがあります」
「へえ……そうなんだ」
「学校に行かないと昼食が当たらないので、昼には学校に行きます」
アルンの答えを聞きながら、ふと昨日の願掛けをしていた子供のことを思い出す。
その子に対しても、ミゼアスは学校に行かないと昼食が当たらないと言っていた。
「昼食って自分で買って食べたりはしないの?」
「僕たち見習いはお金を持つことを禁止されています。お使いとかお祭りの日なんかは別ですけれど、普段自分の物を買うことはできません」
アルンの言葉にアデルジェスは驚く。確か昨日、エアイールはあの子供にお金を与えていたはずだ。
「実はこういうことがあったんだけれど……」
アデルジェスは昨日の出来事をアルンに話した。
願掛けをしていた子供をミゼアスが諭そうとしたが、反発されたこと。そしてエアイールが現れ、子供にお金を与えたこと。
アルンは眉を軽く寄せながら話を聞いていた。
「……その子のミゼアス兄さんに対する態度には腹立たしいものがありますけれど、売られたきたばかりならまだ同情の余地はあるかもしれません。それより……お金を与えるなんて……五花ともあろう方が、どういうことになるか知らないはずがないのに……」
動揺した様子でアルンは呟く。
「深刻なことなの?」
「はい……僕たち見習いは心付けをもらったとしても、上に預けなくてはいけません。お金を持っているだけで盗みを疑われます」
「じゃあ、もしその子が何か食べ物を買おうとしたら……」
「盗んだお金と判断されて、通報されます。そして酷い罰を受けます」
「え……」
思わずアデルジェスは目を見開く。
「ここの決まりっていうのは、とても厳格なんです。破れば厳しい罰が待っています。商品だから傷物にはしませんが、身体に傷をつけずに痛めつける方法なんていくらでもありますから」
「そんなに……」
「まして……『エアイール兄さんにもらいました』なんて言ったりすれば、最悪です。五花がそんなことをするはずがないと信じてもらえません。嘘つきとしてさらに折檻され、下手をすれば裏の店に下げ渡されることもありえます」
思っていた以上に、アルンの答えは恐ろしいものだった。アデルジェスは驚くことしかできない。
「それは……酷い……」
「あの方がどうしてそんなことをしたのかわかりませんが……ちょっと酷いです。お金を使おうとしただけなら、まだここに来たばかりで規則がわかっていないからということで、ある程度は大目に見てもらえるかもしれません。でも、それだってお金の出所を問われたときに困ります」
「さすがにかわいそうだな……。どうにかできないのかな?」
「ミゼアス兄さんなら何とかできると思いますが……でも……」
アルンは俯いて口ごもる。
「でも?」
「……ミゼアス兄さんに、これ以上負担をかけたくありません……」
ぼそりと、苦しそうな表情でアルンは呟く。
寝台横の卓に置いてあった水差しを取ろうとするが、中身が空であることに気づいた。
そこで昨夜の記憶が蘇る。情欲に潤んだ瞳にアデルジェスを映し、甘い声をあげるミゼアスの姿が浮かび、顔に血が上ってきた。散々交わった後、水を欲しがるミゼアスに口移しで飲ませたのだった。
残った水はその後アデルジェスが飲み干したので、もう中身はない。
いちおう風呂で身を清めはしたが、寝台はなかなか酷い有様だった。
それでもミゼアスはアデルジェスの隣でぐっすりと眠っている。相当疲れていることだろう。
アデルジェスはそっと寝台から抜け出した。ミゼアスを起こさないよう注意しながら服を纏い、隣の部屋に移動する。
「おはようございます、アデルジェスさん」
するとそこには見習いのアルンがいた。
「あれ? アルン? おはよう……学校は?」
まだ昼前ではあるようだが、早朝といえる時間ではなさそうだ。訝しく思って尋ねてみる。
「今日の授業は午後からです。僕は基礎課程が終わっているので、たまにこういうことがあります」
「へえ……そうなんだ」
「学校に行かないと昼食が当たらないので、昼には学校に行きます」
アルンの答えを聞きながら、ふと昨日の願掛けをしていた子供のことを思い出す。
その子に対しても、ミゼアスは学校に行かないと昼食が当たらないと言っていた。
「昼食って自分で買って食べたりはしないの?」
「僕たち見習いはお金を持つことを禁止されています。お使いとかお祭りの日なんかは別ですけれど、普段自分の物を買うことはできません」
アルンの言葉にアデルジェスは驚く。確か昨日、エアイールはあの子供にお金を与えていたはずだ。
「実はこういうことがあったんだけれど……」
アデルジェスは昨日の出来事をアルンに話した。
願掛けをしていた子供をミゼアスが諭そうとしたが、反発されたこと。そしてエアイールが現れ、子供にお金を与えたこと。
アルンは眉を軽く寄せながら話を聞いていた。
「……その子のミゼアス兄さんに対する態度には腹立たしいものがありますけれど、売られたきたばかりならまだ同情の余地はあるかもしれません。それより……お金を与えるなんて……五花ともあろう方が、どういうことになるか知らないはずがないのに……」
動揺した様子でアルンは呟く。
「深刻なことなの?」
「はい……僕たち見習いは心付けをもらったとしても、上に預けなくてはいけません。お金を持っているだけで盗みを疑われます」
「じゃあ、もしその子が何か食べ物を買おうとしたら……」
「盗んだお金と判断されて、通報されます。そして酷い罰を受けます」
「え……」
思わずアデルジェスは目を見開く。
「ここの決まりっていうのは、とても厳格なんです。破れば厳しい罰が待っています。商品だから傷物にはしませんが、身体に傷をつけずに痛めつける方法なんていくらでもありますから」
「そんなに……」
「まして……『エアイール兄さんにもらいました』なんて言ったりすれば、最悪です。五花がそんなことをするはずがないと信じてもらえません。嘘つきとしてさらに折檻され、下手をすれば裏の店に下げ渡されることもありえます」
思っていた以上に、アルンの答えは恐ろしいものだった。アデルジェスは驚くことしかできない。
「それは……酷い……」
「あの方がどうしてそんなことをしたのかわかりませんが……ちょっと酷いです。お金を使おうとしただけなら、まだここに来たばかりで規則がわかっていないからということで、ある程度は大目に見てもらえるかもしれません。でも、それだってお金の出所を問われたときに困ります」
「さすがにかわいそうだな……。どうにかできないのかな?」
「ミゼアス兄さんなら何とかできると思いますが……でも……」
アルンは俯いて口ごもる。
「でも?」
「……ミゼアス兄さんに、これ以上負担をかけたくありません……」
ぼそりと、苦しそうな表情でアルンは呟く。
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