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129.第一幕終了

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「……美しい花が私しか見ていないというのは、ありえないでしょう。摘み取りたいと思う者がたくさんいるはずです。花も、私に摘まれたのを不運と思うのではないでしょうか。世の中にはいくらでも花が自ら摘まれたいと思う者がいることでしょう」

 どこか苦しそうにグリンモルド伯爵は答える。どうもただの花のことを話しているようではない、とアデルジェスにも思えてきた。

「それならば、いっそ摘もうとする者がいなくなってしまえばよいとお思いでしょうか? 全て排除すれば、花も一人しか見なくなるに違いないと?」

「…………」

 グリンモルド伯爵が目を伏せる。

「そのために、花に近づく者は全ていなくなってしまえばよいとお思いですか? ただの通りすがりであっても、花を摘み取るかもしれないと思えば許せませんか?」

 ミゼアスは相変わらず、微笑みを浮かべたまま穏やかな口調で話している。
 しかしグリンモルド伯爵の顔には翳りが見え、俯きがちになっていた。

「伯爵? お加減がよろしくないようですが……大丈夫でしょうか? 奥方様も体調がよろしくないそうですし、伯爵も気疲れなど色々ありますでしょう。お休みになられたほうがよいのではないでしょうか?」

 心配そうに首を傾げ、ミゼアスは軽く眉をひそめる。

「私どもはご挨拶と共に、リーネインから友好の使者としてまいりました。奥方様もいわばリーネインの出身ですし、伯爵とはひとかたならぬ縁がございます。これからも末永く親交を結んで頂ければと思っております。親愛なる伯爵に何かあっては大変です。どうかお休みください」

「……お気遣い、ありがとうございます」

 グリンモルド伯爵は口元だけで笑い、作り物めいた笑顔を浮かべる。

「ああ、そうでした。奥方様にも直接お会いしたいのですが……お見舞いに行ってもよろしいでしょうか?」

「……はい、どうぞ。妻も喜ぶでしょう」

 案内の者をよこしましょうとグリンモルド伯爵は言う。

「ありがとうございます。伯爵もお大事にしてください」

 ミゼアスとグリンモルド伯爵の話は終わった。
 しかしアデルジェスにはさっぱりわからなかった。途中からグリンモルド伯爵の元気がなくなったようだったが、原因がわからない。

「……ねえ、いったい何がどうなっているの?」

 グリンモルド伯爵が去った後、アデルジェスはそっとミゼアスに耳打ちして尋ねる。

「うん、簡単に言うとね。『あなた、ひどいことしているよね。結構色々と画策してくれたみたいじゃないか。僕とジェスに手出ししたら許さないよ』のような感じ。ついでにフェリスの身請けも承諾してもらった」

「はあ……」

 あのやり取りが何故そうなのか、アデルジェスにはよくわからない。フェリスの身請けだけは何となくわかったが、その後の会話がさっぱりだ。

「あの反応からして、領主様の予想は大当たりだったみたい。意外と良心の呵責に苛まれているようだね。ジャニスが寝込んでいるのは知らなかったけれど、それなら女装してきて正解だったかもね」

 そう言ってミゼアスは口元を歪めるように笑った。

「で、これから第二幕。ここの奥方ことジャニスとのお話」
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