上 下
128 / 138

128.摘まれた花

しおりを挟む
「それが……アデルジェス君に危害を加えようとしたという話は聞きましたが、何故そのようなことになったのかが……私も驚きました」

「奥方様の妹君は、かなり錯乱なさっていました。どうやら愛しい相手に裏切られ、心を病んでしまったようで……おいたわしいことです。愛しい相手とアデルジェス様が重なってしまったのでしょう。本来なら罰せられるべきなのですが、その哀しいお心を思うと……どこかで静養でもさせてあげたいと思うのです」

 内容がどうも違うようだが、アデルジェスは石像のようにじっと動かず、黙っている。下手に口を出してはいけない。

「おお、なんとお優しい。わかりました。妻の妹は、私にとっては義理の妹でもあります。私が引き取り、領内で静養させましょう」

「そうしてくださいますと、私どもも安心いたします。それにしても……男性の裏切りとは本当にひどいものですね」

 ミゼアスは憂いを含んだ表情で、軽く息を吐く。

「花を摘み取って我が物にしておきながら、水を与えることもなく枯れさせる。自分一人だけのために咲かせ、他人の目には触れさせないようにしようと封じ込めた結果、光も水も断たれた花は朽ちるだけ」

 まるで歌うようにミゼアスの言葉が紡がれる。

「伯爵でしたら、いかがですか? 朽ちることを知りながら、それでも封じ込めておきたいとお思いですか?」

「美しい花が朽ちるのは悲しいことですな。ですが、自らの手の中でのみ咲いてほしいという気持ちはわかりますよ」

 穏やかな口調でグリンモルド伯爵は答える。

「では、その花が枯れかけているとして、それでもやはり自らの手に封じ込めたいとお思いですか? 哀れに思った他人がほんの少し、水を差すだけでも許せませんか?」

「そうですな……やはり、他人が差した水によって花開くというのなら、許せないかもしれませんね。それならばいっそ、自らの手の中で朽ちてしまったほうがよいと思うかもしれません」

 グリンモルド伯爵は軽く眉根を寄せる。

「例えばその花が伯爵しか見ておらず、伯爵の手によって救えるのだとしてもですか? それでも封じ込めて朽ちさせたいとお思いですか?」

 ミゼアスは穏やかにゆったりと問いかける。
 するとグリンモルド伯爵は、わずかにミゼアスから視線をそらしたようだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

奴隷だった私が四天王の嫁になるまで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:107

白蜘蛛探偵事務所

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:23

フェロ紋なんてクソくらえ

BL / 完結 24h.ポイント:931pt お気に入り:389

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,792pt お気に入り:1,219

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,527pt お気に入り:335

処理中です...