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38.流れに身を任せ

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「うんうん、深い愛情に包まれて、ミゼアス兄さんは幸せ者ですねー。ああ、ジェスさんのようにはいきませんけれど、俺もできることがあれば力になりますからね」

 良い話でまとめようとすると、ミゼアスも流されたようだ。

「ジェス……ヴァレン……ありがとう……」

 感極まった様子でミゼアスはアデルジェスの頬に口づけを送り、続けてヴァレンを抱きしめる。
 幼い頃はよくミゼアスに抱きしめてもらったものだが、成長してからその機会は減った。昔を思い出しながら、ヴァレンは心地よさに心を奪われそうになってしまう。

「ちょっ……ミゼアス兄さん、ジェスさんを差し置いて……いいんですか?」

 それでも、今はミゼアスには夫であるアデルジェスがいるのだ。ためらいがちに尋ねてみれば、ミゼアスはくすりと笑う。

「ジェスには、後からいくらでも時間をかけて気持ちを表すことができるよ。今は、わざわざ来てくれたきみに……本当に、ありがとう」

 ミゼアスの言葉を聞きながら、ヴァレンは伺うような視線をアデルジェスに向ける。しかし、アデルジェスも柔らかく微笑んで頷くだけだ。
 島に来たときはおどおどとした態度が印象的だったアデルジェスだが、今ではすっかり余裕が伺える。

「……じゃあ、頭を撫でてくださいよ。昔はよく撫でてくれたのに、今ではすっかりつれないんですもん」

 安心したヴァレンは、少しだけ欲が出てしまった。昔を思い出した気分そのままに、子供の頃のようなおねだりをしてみる。

「そりゃあ……今のきみは、立派な四花じゃないか。もう子供でもないのに、悪いかなと思ったんだけれど……まあ、きみが望むのなら」

 苦笑しながらも、ミゼアスはヴァレンの望みを叶えてくれた。温かいミゼアスの手が、優しくヴァレンの頭を撫でる。

 幼い頃のような安心感に包まれながら、ヴァレンはミゼアスの弟になれるというのなら、領主の提案を受け入れるのも悪くはないと思う。
 勢いまかせに島を出てきたが、その流れに身を任せるのもよいかと、ヴァレンはそっと目を閉じてミゼアスの温もりを味わった。
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