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83.貞操の危機は終わらない2(完)
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「俺が去年、すごいの作っちゃったからさー、先輩が躊躇してんの。ごめんね」
まだ若い社員が割り込んできた。顔の造作が繊細で、華のある中性的な美貌の持ち主だったが、口調は軽くて態度も軽い。いかにも軽い兄ちゃんというのが晴人の印象だった。
もしかしたらこの部署は顔で選んでいるのだろうかという考えが晴人の中に浮かぶが、もしそうならば自分などまっ先に除外されていると、すぐに考えを打ち消す。
それよりも、去年作ったという言葉から、おそらくは晴人のひとつ上の先輩になるのだろう。
「……年齢制限があるようなゲームを作ったのは、きみが初めてだよ」
ため息まじりに、セイが若い社員に向けてぐったりとした声を吐き出す。
「あれ、売り物になりそうなくらい、いい出来だったでしょ」
しかし若い社員はケラケラと笑うだけだ。まったく悪びれていない。
「あんな、その……行為によって強くなるというシステムのゲーム、どうして会社で作るんだ」
「そうそう、強くなるためにはそれが必要だけれど、一回でもそれをやるとトゥルーエンドにたどりつけないというバランス、すばらしいでしょ。あーあ、没収されて削除ってもったいないよなー」
「僕は育成担当としてあのゲームをプレイして、とんでもない夢を見たんだ」
「えー、先輩、欲求不満ですかー?」
二人の会話を横で聞きながら、晴人は唖然としていた。
どこかで聞いたような、というよりも我が身で体験した内容に似ている。
「あ、あの……それって……」
おそるおそる晴人が声をかけてみれば、二人は同時に晴人に向き直った。
セイはため息をもらしながら、若い社員はニヤリと笑いながらという違いはあったが。
「……まあ、とにかく、よっぽどひどくなければ自由はきくよ。自分で考えて、自分で行動するんだ。行動なくして結果なし、というしね。何をするかを決めるのは、きみだ」
かつて何度も聞いたことと似たような言葉が響く。晴人の胸には懐かしさすらわきあがってきた。
「そうそう。叩けよ、さらば開かれん……ってね。じゃあ、新人くん、頑張ってね。何かわからないところがあったら、俺に聞きにきてもいいからねー」
若い社員はひらひらと手を振って、どこかに去っていった。
再び二人になると、セイは含みのある笑みを浮かべて晴人を眺める。
仕掛けた悪戯に気づいたかどうか伺っているようでもあった。
晴人が思わず口を開きかけると、今度は別の人間が割り込んでくる。
「新人、今日からだって? なかなかよさそうな子じゃないか」
中年男性の社員がどこかねっとりとした視線を晴人に送ってくる。あの世界で幾度となく浴びたものと、似たような視線だった。
ぞくりと背筋が冷たくなり、逃げるように晴人は視線をさまよわせる。
すると今度は、フロア内を歩く社員たちの中に、どこかで見たことがあるような顔がちらほらとうかがえることに気づく。
はっきりそうとは言い切れないが、神殿長に似たような顔や、ルイスやシオンに似た顔までいる。
何がどうなっているのか、さっぱりわからない。中年男性社員のねっとりとした視線の意味は、もっとも不可解だ。
混乱に陥る晴人の横で、セイが中年男性社員を慇懃な言葉で不機嫌そうに追い払っていた。
晴人は現状を理解することを放棄し、他の道に逃げることにした。
「プ……プログラム作成、頑張ります!」
何を作るかも決まっていないが、頑張ろう。
とにかく何かに没頭しなければ、おかしくなってしまいそうだ。
「うん、頑張ってね」
にっこりと笑いながら、セイは晴人に資料を手渡す。その際にセイはそっと晴人の耳に唇を寄せた。
「ここでも、きみは人気がありそうだね。今度こそ、きみの前後両方とも僕のものにしないとね、ハルト」
悪戯っぽいセイの囁き声に、晴人は思わず叫び声をあげてしまいそうになった。どうにかこらえたが、ばさばさと資料は落としてしまう。
口をぱくぱくとさせながら晴人がセイを見れば、セイはくすりと笑って、晴人の尻をぽんと叩く。
後ろの貞操の危機は、まだまだ終わらないようだった。
まだ若い社員が割り込んできた。顔の造作が繊細で、華のある中性的な美貌の持ち主だったが、口調は軽くて態度も軽い。いかにも軽い兄ちゃんというのが晴人の印象だった。
もしかしたらこの部署は顔で選んでいるのだろうかという考えが晴人の中に浮かぶが、もしそうならば自分などまっ先に除外されていると、すぐに考えを打ち消す。
それよりも、去年作ったという言葉から、おそらくは晴人のひとつ上の先輩になるのだろう。
「……年齢制限があるようなゲームを作ったのは、きみが初めてだよ」
ため息まじりに、セイが若い社員に向けてぐったりとした声を吐き出す。
「あれ、売り物になりそうなくらい、いい出来だったでしょ」
しかし若い社員はケラケラと笑うだけだ。まったく悪びれていない。
「あんな、その……行為によって強くなるというシステムのゲーム、どうして会社で作るんだ」
「そうそう、強くなるためにはそれが必要だけれど、一回でもそれをやるとトゥルーエンドにたどりつけないというバランス、すばらしいでしょ。あーあ、没収されて削除ってもったいないよなー」
「僕は育成担当としてあのゲームをプレイして、とんでもない夢を見たんだ」
「えー、先輩、欲求不満ですかー?」
二人の会話を横で聞きながら、晴人は唖然としていた。
どこかで聞いたような、というよりも我が身で体験した内容に似ている。
「あ、あの……それって……」
おそるおそる晴人が声をかけてみれば、二人は同時に晴人に向き直った。
セイはため息をもらしながら、若い社員はニヤリと笑いながらという違いはあったが。
「……まあ、とにかく、よっぽどひどくなければ自由はきくよ。自分で考えて、自分で行動するんだ。行動なくして結果なし、というしね。何をするかを決めるのは、きみだ」
かつて何度も聞いたことと似たような言葉が響く。晴人の胸には懐かしさすらわきあがってきた。
「そうそう。叩けよ、さらば開かれん……ってね。じゃあ、新人くん、頑張ってね。何かわからないところがあったら、俺に聞きにきてもいいからねー」
若い社員はひらひらと手を振って、どこかに去っていった。
再び二人になると、セイは含みのある笑みを浮かべて晴人を眺める。
仕掛けた悪戯に気づいたかどうか伺っているようでもあった。
晴人が思わず口を開きかけると、今度は別の人間が割り込んでくる。
「新人、今日からだって? なかなかよさそうな子じゃないか」
中年男性の社員がどこかねっとりとした視線を晴人に送ってくる。あの世界で幾度となく浴びたものと、似たような視線だった。
ぞくりと背筋が冷たくなり、逃げるように晴人は視線をさまよわせる。
すると今度は、フロア内を歩く社員たちの中に、どこかで見たことがあるような顔がちらほらとうかがえることに気づく。
はっきりそうとは言い切れないが、神殿長に似たような顔や、ルイスやシオンに似た顔までいる。
何がどうなっているのか、さっぱりわからない。中年男性社員のねっとりとした視線の意味は、もっとも不可解だ。
混乱に陥る晴人の横で、セイが中年男性社員を慇懃な言葉で不機嫌そうに追い払っていた。
晴人は現状を理解することを放棄し、他の道に逃げることにした。
「プ……プログラム作成、頑張ります!」
何を作るかも決まっていないが、頑張ろう。
とにかく何かに没頭しなければ、おかしくなってしまいそうだ。
「うん、頑張ってね」
にっこりと笑いながら、セイは晴人に資料を手渡す。その際にセイはそっと晴人の耳に唇を寄せた。
「ここでも、きみは人気がありそうだね。今度こそ、きみの前後両方とも僕のものにしないとね、ハルト」
悪戯っぽいセイの囁き声に、晴人は思わず叫び声をあげてしまいそうになった。どうにかこらえたが、ばさばさと資料は落としてしまう。
口をぱくぱくとさせながら晴人がセイを見れば、セイはくすりと笑って、晴人の尻をぽんと叩く。
後ろの貞操の危機は、まだまだ終わらないようだった。
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