◯と△

エビの王国

エビ国は、Aの幸せとBの幸せで成り立っていました。
Aの幸せとBの幸せをバランスよく分け合うことで、みんなが平等に幸せに暮らしていくことができるという国でした。
それは、非常に難易度の高い芸術的なやり取りでしたが、エビたちにとっては考えるまでもない、息を吸って吐くぐらいのことでした。

ある時、突然変異でエイが生まれました。
エイは、Aの幸せしか分かりません。そのため、エビからBの幸せを分けてもらっても気が付かないか、何だそれ？といった態度を取りました。
そんなエイに対して、エビたちはどのように接したらいいのか分からなくなってしまいました。エイもエイで、何となく自分には何かが足りないことを感じていましたが、それが何なのか、具体的には分からないまま、ただただ劣等感だけを強めていきました。

やがて、エイは孤立し始めます。そして、こんなに寂しくて苦しい思いをするのは、エビたちのせいだと考えるようになり、復讐を誓うようになりました。
エイは、エビを見返すために、この国のトップになってやろうと猛勉強をしました。それは、自分がエビたちに復讐をしてやりたいといった歪んだ理念から来る努力でした。そのため、自分より優れたエビが現れた場合、目的を果たすための脅威となりうるので潰さねばなりません。
この国を良くしていきたいという理念から努力しているのなら、自分より優れたエビが現れれば、道を譲り渡すのが自然です。何故なら自分より相手の方が、この国を良くしてくれるからです。しかし、彼の理念は復讐を果たすことだったので、国が良くなろうが悪くなろうが知ったことではありません。復讐を果たすまでは、何が何でも道を譲るわけにはいきません。どんな汚い手口を使ってでも、その、自分より優秀なエビを無力化する必要がありました。
そういった、のっぴきならない事情があった為、エイは数え切れないほどの優秀なエビたちを卑怯な手口で亡き者にしていきました。時には、残酷にもボイルして剥きエビにしてしまったこともあります。

そのようにして、ついにトップの座を勝ち取ったエイは、「自分は間違っていないんだ」と言うことを証明するために、エイの価値観を元に設計した世の中の構造を構築していきました。
その世の中は、Aの幸せを優先し、Bの幸せを完全に無視した世の中でした。
Bの幸せを追ってしまうと、肉体の維持に支障をきたすという不具合まで発生し始めました。

幸せな国はバランスを崩してしまいました。