地球人が脳内で分泌する物質について 三年一組 たかひらだいき

くろ

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仮説と検証

検証四

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次は、八十歳ぐらいのお婆さん。
彼女は一軒家で一人暮らしをしており、旦那には最近先立たれたばかりだった。
彼女は寂しさを埋めようと、近所の暇人を呼んで、寿司などの出前を取って振る舞ったりしていた。ただ、そこで分泌されていたのは『O』ではなく『D』だった。
親しい友達や、好きな人との触れ合いで分泌されるのは『O』のはずだが、最も刺激の強い『D』の分泌が顕著に現れたのだ。まるで勝負事で勝ち負けを競い合って、それに勝った自分は偉いのだ、とでも言いたげだった。
楽しいと言うよりは、憂さ晴らしや快楽といった刺激物を彼女は求めているようだ。彼女にご馳走になっている地球人たちも、彼女を褒め、いい気にさせてもっと美味しい思いをしようと目論んでいるように見える。

彼女は「この程度で満足してはいけない」といった信念が根っこに植え付けてあるようで、それが、彼女自身が本来感じられていたであろう喜びの妨げになっていた。常にムッとし表情にそれが現れている。
それはまるで、『S』や『E』、『O』といった物質を脳内で分泌することを禁止されており、その代用で『D』を分泌することを余儀なくされているようにも感じられた。
あるいは「この程度で満足してはいけない」という信念を元に行動することで、最も強い刺激である『D』でなければ満足してはいけないという暗黙の自己暗示に陥っていたのかも知れない。
しかしそれは、例えるなら、自転車がパンクしたからと言って代わりに車のタイヤを取り付けたり、調味料の塩が無いから砂糖で代用したり、空腹を満たすためにお菓子で全て賄おうとしたり、髪を解くための櫛が無いからと言って剣山を使用したりといった、場合によってはその場しのぎになるかも知れないが、本来、それで賄うべきでは無いもので賄っているため、ゆくゆくは大きな問題となって表面に顕在化することは目に見えている。
その大きな問題というのが『D』による強い中毒性や依存性である。
『D』はあまりに効力が強いため、過剰摂取をしてしまうと、過度な意欲向上に繋がり、更なる結果を期待するようになる。すると更に『D』が必要となる。なぜなら前回以上の結果を残すためには、前回以上のモチベーションが必要となり、それは、前回以上の『D』を接種する必要があることを意味するからだ。
このサイクルにハマってしまうと『D』以外のモチベーション加増物質や、前回摂取した程度の量の『D』では物足りなくなってしまう。欲しい量の『D』が得られないと、神経過敏や鬱症状に陥ったり攻撃性が高くなったりといった症状が発症し、そのことが社会性の低下、協調性の欠如に繋がる。それは、社会の一員として活躍することが難しくなってしまうことを意味する。他人との関係は当然疎遠となり、新たに構築することも難しくなってしまう。寄ってくるのは、相手を利用して自分だけが得をしてやろうといった信念で行動しているハイエナのような獣だけだ。彼らが提供してくれるのは、せいぜい『D』だけだろう。
そのため、『O』の分泌も難しくなり、その代わりに『D』に頼らざるを得なくなるという悪循環にまた陥ってしまう。
面倒だからと『D』ばかりに頼っていると、いつの間にか中毒に陥ってしまい、取り返しのつかないことになってしまう。
この『D』が我々の星で短期間での連続服用が禁止されているのはこのためだ。

残念ながら、このお婆さんがこの負のスパイラルから逃れることは難しい。それは、長らくの間、海底に沈んでいた太めのロープの強固な結び目を解こうとする行為に似ている。結び目を無理に解こうとすれば、ロープ全体が崩壊する恐れがある。
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