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鐘技怪異談W❸巻【完結】

124話「雪のせい」

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「壱」

 ーー鐘技家ーー

 先日この地域に豪雪となっていた。
 その明け方、黒岩は雪かきをする。
 他の人手だと男手である黒岩しかいなかった。
 そしてまた雪が積もってせっかく雪かきした場所がまた積もってしまう。
 黒岩はそんな雪のせいにしたくなる怪異談を披露することになる。

ーーーーーーーー。

「すみませーん。わざわざ雪かきしてもらって」

「いえいえ。わざわざ泊めてもらってるお礼です」

 私はスコップで駐車場に積もっている雪をどかし雪かきしている。
 そして汗をかいた額を手でぬぐう。
 結構かなり雪をどかしたが大変な労力作業である。
 私の名前は城山春時。
 56歳。
 職業は大学教授であり、訳あってある古民家に訪れてその自宅の帰路を向かう途中、山奥の林道で猛吹雪に遭い車で身動き取れなくなった私はこの周辺にさまよってると民宿があったので雪が止むまで泊めてもらった。

 ただ、しばらくしても雪が止まず、スマホや固定電話も何故か通じなかったので延泊した。
 しかし。1週間経過しても雪は止まなかった。
 そして手持ちがあまりなかったがここの民宿のオーナーの懇意の元、融通してもらった。

「春時さん。コーヒー淹れたので休憩しましょう」

「はい。ありがたくいただきます」

 私は区切りがいいところで雪かきをやめて民宿内に入った。

「ニ」

 ーー民宿内ーー

「どうぞ」

「ああ。ありがとう」

 ここのオーナーである彼女から出されたコーヒーに口をつけてひと息つく。
   彼女が淹れたコーヒーは冷えた身体の芯まで暖まった。
 彼女の名前は金本雪。
 雪さん以外誰も従業員はいなく客は私1人しかいない。

 雪さんは1人でこの民宿を経営を切り盛りしていた。
 また愛想もよく性格も良かったから、気軽に会話ができて安心感があった。

「どうですか?雪かきの進み具合は」

「そうですね。だいぶ結構どかしましたよ」

 私はふと民宿の外を眺める。
    駐車場の半分はどかしたがまだ雪は残っている。

「それにしてもずいぶん雪が積もりましたね」

「ええ。お客さんも滅多に通らないほど山奥ですし」

「そうですか…。早く雪がなくなればいいのに」

 私がそうつぶやくと雪さんは一瞬悲しそうな顔をする。
 私は失言と思いとっさに弁解して、

「ああ。雪さんのことじゃありませんから」

「……いえ、お気になさらず」

 少々気まずい雰囲気になった。
 彼女は同じ名前の雪であることから、雪自体が好きだったみたいだ。
 この場にいたまれなかった私は残ったコーヒーをゆっくりと飲み干すと立ち上がる。

「では、充分身体を休めたので私は雪かき再開します」

「あまり、無茶になさらずくださいね」

 私は雪かきをしに外へ出た。

「三」

 私は暇潰しに星の王子様という童話小説を読んでる。
 一応テレビはあるが猛吹雪のためアンテナ電波が届かないためニュースなど見れなかった。
 今日も夜が更けて猛吹雪になってしまったな。

「ずいぶん今年は降りますね」

「ええ。春時さんしばらくは雪かきはしなくても大丈夫ですよ」

 そっと彼女は私たちが食事した後の皿を片付ける。
 ここの民宿には一年分の食料や生活用品が揃えているので、長い間猛吹雪あってもしばらくは滞在できる。
 そしてタダ同然で泊めてくれる雪さんのために何かお手伝いできないか探った。


「では、ほかに何か手伝えることはありますか?」

「……そうですね。お皿洗いしてもらえますか?」

「はい。わかりました。洗い場お借りします」

 しばらく彼女と奇妙な同居生活が始まった。

「四」

 そして1ヶ月が経過した。
 雪は積もったままだった。
 そして雪が丁度溶けた時に林道に止めている車を動かそうとすると何故か猛吹雪に遭い、すぐ積もってしまい身動きが取れないことが何度かあった。
 そして民宿生活も慣れた私は残された家族達のことを心配していた。
 と、そんな気にかけた雪さんが心配そうに尋ねた。

「どうかなされたんですか?春時さん」

「……いえ。少し残された妻と娘達を心配してね」

 それを聞いた雪さんが少し驚いた。

「春時さん。結婚なされていたのですか?」

「ええ。30年間長い付き合いですよ。はは今ごろどやされて心配してる所ですね」

    私は照れて笑ったの見て雪さんはクスと笑った。
    少し時間経つと雪さんは私に頼み事をされた。

「……すみません春時さん。洗剤が丁度切らしていたのでお買い物して下さいますか?歩いても10分でつく距離なので」

「はい。わかりましたお安い御用です」

 私と雪さんは民宿の外に出た。

「五」

 外に出ると、あれほど積もっていた雪が全て溶けていた。

「これなら、丁度車で行けますね。雪さん……?雪さん?」

 一緒にいた雪さんが忽然と姿を消した。
 そして私がいた民宿の場所が何故か代わりに墓地が建てられていた。
 私はその墓地の周辺を見渡すと、そこに堂々と立派に建てられていた雪さんの名前の墓があった。
 私はこの状況をなんとなく理解した。
 そうか彼女は私を……。
 私は彼女の墓に向かい手を添えて謝罪した。

「すまない。私には残された家族がいるから」

 私はゆっくりその墓地から離れて林道に停めてある車に乗って家族が待つ我が家に走らせて向かった。
 それ以降、私はあの墓地には行ってはいない。

 ーーーーーーー。

 黒岩は泣く泣く除雪機を購入して早速この積もった雪を排除しようとするが、すでに雪は溶けていた。
 それを見て黒岩は雪のせいとつぶやいていた。

 雪のせい   完
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