霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ

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野花怪異談集全100話

59話「枕掃除」

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「1」

 ーー「八木家」ーー

 ~♪
 両親が不在の中、一通り家事をこなしていく八木家の長女八木楓。
 彼女は忙しい両親と受験勉強に忙しい妹に代わって積極的に家事を行っている。
 料理、洗濯、掃除は幼い頃からきちんと母親美月から手はずを受けている。
 そんな彼女が力を入れてるのは枕掃除だった。
 丁寧にシミひとつないようにきちんと洗い落とす。
 そんな枕掃除にちなんだ怪異談を思いついた彼女は忘れずに趣味でネットで公開してる小説投稿サイトに小説投稿する。
 その小説投稿した後、再び枕掃除を再開した。


 ーー「アパート自室」ーー

 桜が舞い落ちる春の季節。
 俺の名前は清浄奈古なご、28歳。
 職業は自動車の修理工場で働いてる。
 俺は昔から綺麗好きで掃除好きである。
 今日も枕の白いシーツで洗っていると何やら黒いシミ付いていた。
「あー。なかなか取れないな」
 神経質な俺はその黒いシミを何度も擦ったり洗剤をつけて試していたがなかなか落ちないのを諦めてそのシーツを干して新しい白のシーツを枕を被せた。

「2」

 ーー「山中家牛丼チェーン店」ーー

 職場の帰り道に先輩の奢りで牛丼チェーン店連れてもらった。
 達也先輩が焼き魚定食に頼んで俺は牛カルビ丼を注文した。達也先輩がみそ汁をすすった後、俺に尋ねた。
「なぁ、おまえ最近家事のやりすぎて疲れてないか?最近息切れしてるしな」
「あ、いえ、俺は大丈夫ですよ。この通りですよ」
 俺はなんでもないかのようにアピールをして牛カルビ丼をかきこんでいた。


「3」

 ジリジリと太陽を照らす真夏日和。
 汗だくなりながらも自室内の掃除機をかける。
 自室内はエアコンをかけるお金がなかったから汗はダラダラと落ちる。
     俺はうっとおしいロン毛の長髪を束ねる。
 そして枕掃除にもかかせずやっているが枕のシーツの黒いシミが落ちなかった。
 そのシーツもすぐ新しく取り替えていた。

 ーー「職場」ーー

 (ウト、ウト)
「おい!清浄起きてるか!!」
「……あ、先輩」
「頼むよ。作業中に事故でもおきたら洒落にならんよ」
 俺は職場でうとうと居眠りしていたところに先輩に咎められてしまった。
 俺は身体にムチを打って作業に取り掛かった。

「4」
 
 秋暮れの季節。
 俺はうっとおしいロン毛を刈って頭を丸めてボウズにした。
 肌寒いので毛糸帽子を被っている。
 相変わらず枕掃除してるがほぼ枕のシーツは真っ黒のシミだらけだった。
 しかしそれでも俺は枕掃除はやめなかった。
 もはや取り憑かれるほどに……。

 ーーーーーー

 冬到来。
 ポツポツと雪が降っている。
 アパートの大家の大谷はカンカンだった。
 なぜなら数ヶ月家賃を滞納してる清浄に取り立てるためだ。
 家賃をきちんと納めている他の住人威厳持たすためにも清浄の自室に向かった。

 ーー「清浄の自室前」ーー

「清浄さん!家賃いつになったら払うんだい!!」
 大谷は何度も清浄の自室の玄関ドアを叩くが出なかった。
 その時ドサッと大きな物音がしたので、何事かと大谷は玄関ドアを開けて乗り込んだ。
 
     中は静かで暗かった。
 いや暗いというより真っ黒だったという表現に近かった。
「ひっ!?」
 そこには至る所に真っ黒に染め上げた枕のシーツが散らばっていた。
 しかも黒いシミがこびりついていた。
 そして置かれた白布団には大人の形した黒い人影の痕が残っていた。
 (はぁ……はぁ……)
 大谷の背後から息遣いが聞こえてくる。
     そこで大谷はおそるおそるとゆっくりと振り返ると思わずハッとする。

 ーーそこに全身体黒いシミだらけの清浄が立っていたから。

「5」

 ーー「野花高校2年B組クラス内」ーー

「おはようございます」
「おはよう楓」
 今日も朝からクラスメイトは賑やかだった。
「あれ?珍しいですね。星夏さんよりも桜がまだ来てないなんて」
 その空きの机には桜はまだ来てないようだ。
「まー、特に風邪熱で体調不良とかは聞いてないしね。それよりも楓。見たよあの小説」
「ありがとう。結構頑張って書きましたからね」
「実際にありそうですわ。ところで楓さん」
「はい。なんでしょう?星夏さん」
「わ、わたくしも呼び捨てで名前を呼んで欲しいですわ」
「わかりました。星夏」
「はい。楓」
 と、星夏も桜と羅奈と同じく名前をお互い呼び捨てするようになった。
 そこに黒木あかねと鳴沢栞も羨ましそうに見てるがまだ心の準備ができてないので踏み切れてないようだった。そんな彼女達もいつの日か自然と呼び捨てる関係が来るのだから。


 ーー「永木屋敷邸」ーー

「ふぇぇん。落ちない。やだやだやだ!!」
 永木桜は必死に洗面台で枕のシーツを洗っている。
 彼女は楓の小説を読んだ次の日の早朝ベッドの枕に黒いシミがついていたのですっかり怪異談が本当かのように信じこんでしまった。
 もっとも黒いシミは屋敷の専属メイドによるイタズラであることが知るのは後の祭りである。
 桜の悲痛な騒ぎは屋敷中に響き結局この後学校に遅刻するのであった。

 枕掃除   完

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