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第6話 戸川くんとはじめてのお家①
しおりを挟む戸川くんとはじめてのデート、そしてはじめてのキスをしてから丁度1週間が経った土曜日の今日、私はガチガチに緊張しながら戸川くんのお家の前にいる。
「今週の土曜日って鈴音さん暇?良ければ家に来ない?この前話していた映画のブルーレイを兄貴が買ったみたいでさ。兄貴から借りて鈴音さんと一緒に観たいなって」
大学の授業終わりに戸川くんからそうお誘いがあったのだ。勿論私は喜んで「お伺いさせて貰うね!」と答えた。
因みに戸川くんは相変わらず大学にはボサッとした髪型と家着で登校してくる。デートの時の戸川くんを知っていると不思議な感じがするけれど、学校の皆(1人を除いて)が知っているのはこっちの戸川くんだけなんだよな、と思うとちょっとだけ優越感を感じたりもする。
「はじめて戸川くんのお家に来たけど……う~緊張するな~」
そう呟いて手に持ったお土産の袋をギュッとする。中には地元の駅ビルで買ったお菓子が入っている。とりあえず何か手土産を、と思ったけれども気が利いたものが全く思いつかなかったので無難な所で洋菓子の詰め合わせをチョイスした。
震える手でインターホンのボタンを押す。目の前にある戸川くんのお家は想像してた以上に大きく立派だった。今日は土曜日だからご両親はいらっしゃるのだろうか、お兄さんも在宅しているのだろうか、とあれやこれや考えていると「はいはーい」といつもの聞き慣れた戸川くんの声がした。
「あっ、鈴音と申します」
と若干震える声で伝えると、「あ、いらっしゃい!鈴音さん!」と戸川くんがインターホン越しに答えてくれた。
「ちょっと待っててね!」と戸川くんが言った後、30秒程経って門扉から少し離れた所にある玄関のドアが開き戸川くんが出てきた。
(あっ、今日は格好良い戸川くんだ!)
出てきた戸川くんは1週間前と同様、お洒落な格好に少しふわっとした髪型だった。
「いらっしゃい!すぐに家わかった?」
「うん。地図アプリを見ながら来たけど特に迷うこと無く来れたよ」
平静を装いつつもガチガチに緊張しながら戸川くんのお家の中に入る。
「あっ、これお土産。大したものじゃないけれど……良ければご家族の方にでも」
「わっ、ありがとう。気を使わせてごめんね。きっと喜ぶと思うよ」
と笑顔でお土産を受け取ってくれる。
「あ、良かったら親父と兄貴を紹介するよ。今、2人とも居間でコーヒー飲んでるから。お袋は仕事で暫く家を留守にしているんで今はいないんだけどね」
いきなりのご挨拶ー!心臓がばくんばくん言ってる。告白の時とはまた違ったプレッシャーがのしかかってくる。こちらへどーぞ、と案内してくれる戸川くんの後にそっとついていく。
それにしてもお洒落な家だなぁと案内されている間思わずキョロキョロしてしまう。外見もお洒落だったけど中もお洒落で流石デザイン事務所を経営されてるだけあるなと感心してしまう。
「入るよー。あ、こちら彼女の鈴音凛さん。後、お土産も持ってきてくれたよ。はいどーぞ。机の上に置いておくね」
ガチャッと居間の扉を開け、中にいた2人に私を紹介してくれる。
「あ、あのっ。はじめまして鈴音凛と申します。戸川くん……あ、いや怜くんとお付き合いさせていただいております!」
と若干早口になりながら挨拶をしてピョコッと頭を下げる。
「やぁいらっしゃい。話は怜から聞いているよ。わざわざ気を使ってお土産まで持ってきてくれてありがとう。気まぐれな息子だけど宜しくね」
と、ソファに座って読んでいた雑誌を机に上に置き軽く会釈をしてくれる白髪の男性。戸川くんのお父さんであろう人は優しい笑顔でそう答えてくれた。
(うわ、もの凄い美中年。流石戸川くんのお父様だわ……)
そう心の中で驚いていると、お兄さんであろう人が座っていたソファからスッと立ち上がりこちらに来て
「こんにちは。怜の兄の蒼(あおい)と言います。いつも弟がお世話になってるみたいで。気難しい弟だけど仲良くしてやってね」
と笑顔で手を差し伸べてくれる。
「いっ、いえっあのこちらこそ色々良くしてもらってばっかりでっ」
と少々モゴモゴしながらお兄さんと握手をする。
戸川くんのお兄さんもまた美青年である。戸川くんが可愛さと格好良さ両方を兼ね備えているとすればお兄さんはとにかく美形である。髪型を女性っぽくすれば多分凄い美人になるだろうなとすら思えてしまう。
「んじゃ兄貴、ブルーレイ借りるわ」
戸川くんが居間の机の上に置いてあった映画のパッケージを手に取る。
「あぁ、オレはもう見終わったし適当に返してくれれば良いから。ゆっくり観な」
お兄さんはソファに座り直してまたコーヒーに口を付ける。
「さ、じゃあ行こっか鈴音さん」
そう言って戸川くんが腰に手を当てて案内してくれる。
(うわっ、ご家族の前でも腰とかに手を当てちゃうんだ!)
と内心どぎまぎしてしまったが、戸川くんのお父さんもお兄さんも特に何の反応も無い。これが普通なのか戸川くんのお家がオープンなご家庭なのかは分からないけど、お邪魔しました!と頭を下げて戸川くんと共に居間から退出した。
「――どう?」
怜と凛が退出した後、持っていたコーヒーカップをソーサーに置いて蒼が言う。
「うん。良い子なんじゃないかな?素朴で素直な感じがして」
そう言って父親の勇(いさみ)は雑誌を見ながらコーヒーカップに口を付ける。
「オレも同じ感じかな。怜が家に連れ込んだ中では今までにはいないタイプの女の子だなとは思ったけど。あいつ、突然着飾るのも女遊びもパタッと辞めて何かあったのか聞いても全く答えなかった癖に、また突然着飾りだしたと思ったら今度彼女連れてくるからよろしくって。相変わらず自分勝手な奴だな本当に」
ふーっと溜息を着きヤレヤレと言った感じで蒼も再びコーヒーカップに口を付ける。
「まぁ怜の天邪鬼っぷりは小さい頃からだからな。自由恋愛だし親が口を挟む事でも無いだろ。自由にやればいいさ。ちゃんと避妊さえすればな」
と、笑いながら話す勇。
「全くうちの親は2人揃ってつくづく放任主義だよなー。ま、オレも女関係は偉そうな事を言える立場ではないけどさ」
そう言って2階の自室に向かった怜と凛の後を追う様に天井を見上げながら蒼はボソっと呟いた。
「怜をよろしくね、凛ちゃん」
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