はじめて出来た地味彼氏の戸川くん、実はワケありの元遊び人だった?

わーくほりっく

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第8話 戸川くんとはじめてのお家③

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「ぐすっぐすっ」


 涙をハンカチで押さえながらテレビに写っている映画のエンディングロールを眺める。映画が始まって最初こそ、背中に戸川くんを感じながら緊張していたけれどいつの間にか映画に夢中になって食い入るように見てしまった。


「いやー、面白かったね」


 戸川くんが後ろから私の頭をぽんぽんしながら撫でてくれる。後ろから包まれた体勢にもすっかり慣れてしまい体は戸川くんにもたれ掛かっている。


「あ、僕お手洗いに行ってくるけど、鈴音さんは大丈夫?」


後ろから戸川くんが声をかけてくる。


「あ、うん私は大丈夫。いってらっしゃい」


涙声のまま後ろを向き戸川くんの方を見る。


「うん。じゃ行ってくるね」


 そう言って戸川くんは軽く私の唇にチュッとキスをして立ち上がり部屋を出て行った。まるで爽やかな春の風の様にさらっとキスをされ一瞬ぽけっとしてしまうが少し経ってからううーっとなってしまう。


「当たり前の様にさらっとキスをしてくれるけど、こっちは毎回ドキドキなんだよ!」


と別に怒っている訳では無いのだけれども何故かプリプリしてしまう。


そしてふとパソコンデスクの方に目を向ける。


 あそこに写っている可愛い女の子達の中にもこの部屋に来た子はいるのだろうか。そして私の様に後ろから抱きしめられキスをされたりしたのだろうか。あるいはもっとずっと先まで……


「あーダメダメ!こんな事を考えてちゃ」


 今まで経験した事がない感情、嫉妬心やら独占欲と言った物をえいやっと叩き潰すかのように両手で顔をピシピシと叩いて顔をあげる。
 
 私は戸川くんが好きで告白したし、戸川くんも私の告白を受けて彼氏になってくれた。例え過去がどうであれ、今現在の戸川くんは私の彼氏だし、私は戸川くんの彼女だ。それで良いじゃないか。


「よしっ!」


 何かを吹っ切るようにひと声かけ背筋をピンと伸ばして戸川くんを待つ事にする。
そうすると同時くらいに部屋のドアが開き戸川くんが帰ってきた。


「あっ、おかえりなさい!」


「うん、ただいま!」


そう言って戸川くんは軽くしゃがみまた軽く私の口にちゅっと軽くキスをしてくれる。

 そして、じゃあ映画のディスクをパッケージに戻しちゃうねとテレビに向かう戸川くんの上着の裾を私は無意識にギュッと掴んでしまう。


ん?とこっちを見る戸川くん。


 私自身もどうして裾を掴んだか全く分からないけどじっと、戸川くんを見つめてしまう。


戸川くんはソファと机の間にしゃがみ込み手を私の頬に当て、笑顔で見上げてくる。


「どした?」


そう言って微笑みながら私に問いかけてくれた。


 裾を掴んだのは無意識だし、それから何かを話そうなんて全く考えていなかったはずなのに、自然と言葉が口から漏れる。


「あの、さっき戸川くんがお茶を取りに行ってる時に……パソコンデスクの上にあった写真を勝手に拝見しちゃって……その……格好良い戸川くんが写ってて。お洒落なお友達も写ってて。それで……あの……可愛い女の子達も写ってて……」


半分泣きそうになりながら次から次へと思いが口から溢れ出す。


「正直、最初は分からなかった事だけど戸川くん外見も格好良いし、お洒落だし、女の子の扱い方も上手いしし、その……ギュってしてくれたりキスをしてくれたりするのも凄い上手だし……あっ私は初めての経験だから他の人と比べて上手いとかじゃ無くて、あの何となく一般的に上手いのかなって……」


畳み掛けるように話す私の言葉を戸川くんは静かに聞いてくれる。


「その……過去とかを気にする訳じゃないんだけど……今まで彼女さんとかいた事があるのかなとか……どれくらいお付き合いした事があるのかなとか……あはは、これじゃ言ってる事がバラバラだね。しっかり過去を気にしているもんね私」


そう言って下を向いてしまう。


映画の感動の時とは違う、様々な感情を乗せ自然と溢れてきた涙が頬を伝い、下に落ちる。


 楽しいはじめてのお家デートだったのにどうして私は泣いているんだろう。どうしてこんな事になってしまったのだろう。思考力が落ちた頭で色々考えてみても何一つ纏まらない。
 
 ただ一つ分かってる事は、私は自分が思っている以上に戸川くんの事を好きになってしまったのだろう。
 
 写真立てに写っていた可愛い女の子達に何一つ勝てる要素の無い自分が果たして、戸川くんと付き合っていけるのだろうか。戸川くんに好きになって貰えるのだろうか、何よりも戸川くんに釣り合っているのだろうか。すぐに戸川くんに愛想をつかされてしまうのではないか、そんな不安が溢れ出てしまった。

 

 生まれて初めて芽生えた嫉妬心や独占欲と言った感情は、自分が思っている以上に厄介なものだと言う事を否が応でも知る事となった。
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